再会
「それでソラ結局どこに向かってるって?」
おぉ、そういう話だったな。
ペコリの衝撃的行動で忘れてたよ。
メリーさんや、待たせてごめんよ。
「もう少し先に行った所に知り合いがいるはずなんだ。ちょっと顔出してこようかと思ってる。ただ正確な場所は、覚えてないから探さなきゃなんだけどね」
「ふーん、ソラって巣の仲間以外にも知り合いがいるんだ。へぇー」
なんですか、その目は。
最近のメリーさん少し怖くないですか?俺だけ?
「あの痺れ茸さんのご飯を探しに来たときに知り合いましてね、あのー?怒ってらっしゃいますか?」
メリーはふふっと笑いながら「なんで怒るのさ、怒ってないよ」と言っているが、ちょっと目が笑ってないような気がするんだけど。
「そ、そうか、ならいいんだ」
ペコリー、助けてー。こういう時こそペコリ……
ん?
「ペコリはどこいった?」
辺りを見回すが、ペコリの姿が見当たらない。
カッ、カッ
ハンベエのエコロケーションの音が辺りに響く
「ペコリ、アッチ、タブン……タベテル」
おい、さっき鹿食ってたろ。
「さっさと進まないとペコリが行方不明になりそうだ」
俺は、自分の下にある枯れ葉とかを消化して、露出した地面に防衛蟻の要塞の絵を描く。
絵心は無いが、雰囲気は出たと思う。
「ハンベエ、こんな形で大きさは俺より少し大きい位なんだが、探せるか?」
ハンベエは、顔を引き締めた。
「デキル」
「わかった。探してみてくれ。見つからなければ、他の方法も検討しよう。」
メリーが絵を覗き込んできた。
「ソラ、コレ何?」
「コレは知り合いの蟻が住んでる所だよ」
メリーは、良くわからないという顔をしていた。
「蟻?」
「そう。蟻」
「なんだー、知り合いって蟻かー」
えっ? あぁ確かに蟻とは言ってなかったか?
というかそんなに不機嫌になる知り合いって、何を想像したの?
まぁ、メリーさんがご機嫌になったようなので、藪を突くのは止めておこう。
「さぁ、行こう。ハンベエ頼むぞ」
3人で進みだすと、ペコリがそれに気づいて、ハンベエの背中に取り付いてた……いや、取り憑いてた、だな。
森の中を進むと、地面に人の腰くらいの高さの城を見つけた。防衛蟻の巣だ。俺が見たやつよりかなり立派な奴だ。
これはレギーナ様達の巣なんだろうか……
まぁ近づく以外に選択肢はないだろう。
「ソラ殿!」
あの髭モジャの蟻は護衛隊長だな。とりあえず間違ってなくてよかった。
「やぁ護衛隊長。お久しぶり」
護衛隊長が目を白黒してる。
一体どうしたの?
「ソラ殿、なんと言われました?いつの間にか言葉がわからなくなってしまったようで……」
あぁそういえば、蟻たちとは念話だったな。
最近は言葉話し始めたから、すっかり忘れてた。
俺は護衛隊長の手を握って念話を送る。
《これで聞こえますか?》
「おぉ、聞こえます。そういえば、以前は触れなければ話せなかったですね。突然話しかけられて、頭真っ白になってました。はははっ」
なんか護衛隊長ずいぶん気さくじゃない?
前は、仕事中なんで!って気配漂ってたのに。
《それで護衛隊長はなんで俺が来たってわかったんですか?》
隊長は、苦笑いで教えてくれた。
「いや、わかったのは私ではなく女王でして……」
えっ!?
《女王ってのは、巣穴にいるんですよね?外出中に気づいたとかですか?》
「巣穴の中に居ますよ。女王が出るのは、あのときの引越しの時だけですから」
へぇー……そういう能力があるのかな?
「ソラ殿?ソラ殿?」
護衛隊長は心配そうな顔して俺の顔を見てた。
《あぁ、ごめんなさい。考えごとしてました。何でしょう?》
「とりあえず女王が呼んでいるので、来て頂けますか?」
まぁ挨拶が目的だからいいんだけど……巣穴にゴブリンは入れないし、3匹もスライム入ったら詰まりそう――どうしようか。
《仲間もいるんですけど、女王様に出てきてもらうわけにはいかないですよね?》
「まぁ女王様を守るための城ですので」
護衛隊長は苦笑いだ。
「ソラ殿ー、何故来てくださらないのですかー」
あぁー、護衛隊長が無理って言ったそばから本人出てきちゃいましたけど……
なんか前より声が弾んでて、言葉使いもちょっと子供っぽくなってない?
ぷるんっ
「ソラ殿、ご無沙汰しておりました」
俺に突撃したまま喋る女王……
なんか王女みたいになってるじゃん。別人ですか?
「ソラ殿?」
不安そうにこちらを見る女王様。
《すみません。女王様が以前とちょっと雰囲気変わったなとか考えてました》
えっ?どうしたの?
女王様が頬を目一杯、膨らませてる。
ハムスターかな?
考え事してたのが悪かったかな。
《すみません。考え事なんてして》
「違うでしょ!次女王様って言ったら幽閉するからね!」
えぇー、あっそういう事?
《レギーナ様すみません。女王様に名前で呼ぶのは不敬かと思いまして》
「ソラ殿! 私を名前で呼んでくれる方は、ソラ殿しかいないんですよ? 部下たちはみんな女王様って呼ぶんですよ!」
えっ……はい。それはそうでしょうね。
俺は目を泳がせて、助けを求めた。
当然誰も助けてくれる気配は無い。
……
むしろ仲間たちが凄い冷たい目をしていた。
なんで?
《レギーナ様、事情は分かりましたけど、いきなり名前は呼べませんよ。護衛隊長殿に怒られちゃいますよ。それより、よく俺が来たって分かりましたね》
レギーナ様は、誇らしげな顔をしながら触角で体をツンツンしてくる。
「ふふっん、ソラ殿の匂いならすぐ分かりますよ」
え゙っ、俺そんなに臭うの?
全然嬉しくない……
「どうしました?」
あっ、多分顔に出ていたな。
ちょっとショックだったし……
《いえ、なんでもありません。レギーナは凄いんですね》
聞き直しても気まずくなるだけだろう。
レギーナ様が何か言おうとしたが、後ろからメリーの声がした。
《ソラ、そろそろ僕達も紹介してくれないかな? ハンベエなんてずっと槍向けられてるんだけど……》
俺は後ろを振り向くといつの間にか、護衛隊長達にハンベエが囲まれていた。
《レギーナ様、あのゴブリンは仲間なんです。警戒を説いてもらえますか?》
レギーナ様は、俺から体を離して堂々とした雰囲気を醸し出した。
「皆のもの止めよ。命の恩人ソラ殿のお仲間であるぞ。控えよ!」
すごーい。蟻たちが綺麗に引いていく。
レギーナ様さっきまでの雰囲気は、本当になんだったの?
こっちが俺の知ってるレギーナ様に近いな。
「あぁー ペコリ止めろ! 襲うな!」
なんでさっきまで、静かだったのに急に襲おうとしたんだよ。
「ソラー、お腹空いたよ」
いや、お前一人で鹿食ったじゃん。
いつの間にそんなに大食漢になったんだよ。
「じゃあハンベエと狩りに行ってこい。ただここの蟻達みたいな蟻は食うなよ。メリーは、俺と蟻達と交流しないか?」
メリーもその方が良かったのかご機嫌みたいだ。
「いいよ。ソラとの出会いとか聞いてみたいしね」
出会いね。そういやあの鳥はアレから見ないな。
それからしばらくレギーナ様とメリーが今までの事で盛り上がっていた。俺? 俺は、ただイジられ役だよ。
「そうそう、それで王女とソラの上に載せてもらったのは楽しかった」
《王女様は、今日はいらっしゃらないんですか?》
メリーの質問に、レギーナ様はぴたりと話すのを止めた。
「ええ、実は……明日、結婚飛行の儀が行われるんです」
《結婚飛行?》
隣でメリーが首を傾げる。俺も聞いたことがあるような、ないような。
「王女たちが羽を広げて、遠く新天地へと旅立つ日です。明日、第二王女のフィリアが飛び立ちます」
(……そういえばそんな名前をつけたかような)
《フィリア様が旅立つと今度は、フィリア様が女王になるんですか?》
メリーはニコニコとしながら聞いているが、レギーナ様は真面目な顔のままだ。
「ええ、フィリアは……女王になります。今日は、明日羽ばたく羽を出すために栄養を取って、体力の消費を抑えているので、今日は出てこられませんでした」
《そうだったんですね……》
メリーは心配そうな眼差しをしていて、レギーナ様は少し寂しそうに目を伏せた。
「……飛び立った王女たちは、もう戻ってくることはありません。無事に拠点を築けるかどうかも、運次第。護衛もつけられません。だから、明日はとても緊張する日なんです」
言葉の端々に重さが滲む。守るべき存在が巣を離れ、無防備に空へと放たれるのだ。
《そんなに危ないんですか?》
「はい。装備も持てず、ただの蟻として、空へ。外敵に狙われれば……」
メリーが小さく息を呑んだ。
《……ソラ、守ってあげようよ?》
《いや、守れるかわからないし、俺が動くことで儀式が崩れるのも嫌だ。これは……蟻たちの大切な通過儀礼なんだろ?》
俺の言葉に、レギーナ様は微かに笑った。
「ソラ殿は……やっぱり優しいですね。でも、できれば見送ってあげてください。それだけで、きっと力になります」
《わかった。明日、見に行くよ》
「……ありがとうございます」
レギーナ様は、ほんの少しだけ微笑んだ。
その笑みに、張りつめていたものが、ふとほどけていくのを感じた――気がした




