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やわらかい侵略  作者: 新 絆
森の世界

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32/39

再会

「それでソラ結局どこに向かってるって?」

 おぉ、そういう話だったな。

 ペコリの衝撃的行動で忘れてたよ。


 メリーさんや、待たせてごめんよ。 


「もう少し先に行った所に知り合いがいるはずなんだ。ちょっと顔出してこようかと思ってる。ただ正確な場所は、覚えてないから探さなきゃなんだけどね」


「ふーん、ソラって巣の仲間以外にも知り合いがいるんだ。へぇー」

 

 なんですか、その目は。

 最近のメリーさん少し怖くないですか?俺だけ?


「あの痺れ茸さんのご飯を探しに来たときに知り合いましてね、あのー?怒ってらっしゃいますか?」

 

 メリーはふふっと笑いながら「なんで怒るのさ、怒ってないよ」と言っているが、ちょっと目が笑ってないような気がするんだけど。

「そ、そうか、ならいいんだ」

 

 ペコリー、助けてー。こういう時こそペコリ…… 

 ん?

「ペコリはどこいった?」

 

 辺りを見回すが、ペコリの姿が見当たらない。


 カッ、カッ

 ハンベエのエコロケーションの音が辺りに響く 

「ペコリ、アッチ、タブン……タベテル」

 

 おい、さっき鹿食ってたろ。

「さっさと進まないとペコリが行方不明になりそうだ」

 

 俺は、自分の下にある枯れ葉とかを消化して、露出した地面に防衛蟻の要塞の絵を描く。

 絵心は無いが、雰囲気は出たと思う。

「ハンベエ、こんな形で大きさは俺より少し大きい位なんだが、探せるか?」


 ハンベエは、顔を引き締めた。

「デキル」

「わかった。探してみてくれ。見つからなければ、他の方法も検討しよう。」

 

 メリーが絵を覗き込んできた。

「ソラ、コレ何?」

「コレは知り合いの蟻が住んでる所だよ」


 メリーは、良くわからないという顔をしていた。

「蟻?」

「そう。蟻」

 

「なんだー、知り合いって蟻かー」

 えっ? あぁ確かに蟻とは言ってなかったか?

 というかそんなに不機嫌になる知り合いって、何を想像したの?

 

 まぁ、メリーさんがご機嫌になったようなので、藪を突くのは止めておこう。


「さぁ、行こう。ハンベエ頼むぞ」

 3人で進みだすと、ペコリがそれに気づいて、ハンベエの背中に取り付いてた……いや、取り憑いてた、だな。


 森の中を進むと、地面に人の腰くらいの高さの城を見つけた。防衛蟻の巣だ。俺が見たやつよりかなり立派な奴だ。

 これはレギーナ様達の巣なんだろうか……

 まぁ近づく以外に選択肢はないだろう。


「ソラ殿!」

 あの髭モジャの蟻は護衛隊長だな。とりあえず間違ってなくてよかった。


「やぁ護衛隊長。お久しぶり」

 護衛隊長が目を白黒してる。

 一体どうしたの?

 

「ソラ殿、なんと言われました?いつの間にか言葉がわからなくなってしまったようで……」

 あぁそういえば、蟻たちとは念話だったな。

 最近は言葉話し始めたから、すっかり忘れてた。

 

 俺は護衛隊長の手を握って念話を送る。

《これで聞こえますか?》

 

「おぉ、聞こえます。そういえば、以前は触れなければ話せなかったですね。突然話しかけられて、頭真っ白になってました。はははっ」

 

 なんか護衛隊長ずいぶん気さくじゃない?

 前は、仕事中なんで!って気配漂ってたのに。

 

 《それで護衛隊長はなんで俺が来たってわかったんですか?》

 

 隊長は、苦笑いで教えてくれた。

「いや、わかったのは私ではなく女王でして……」

 

 えっ!?

《女王ってのは、巣穴にいるんですよね?外出中に気づいたとかですか?》

「巣穴の中に居ますよ。女王が出るのは、あのときの引越しの時だけですから」

 

へぇー……そういう能力があるのかな?

「ソラ殿?ソラ殿?」

 護衛隊長は心配そうな顔して俺の顔を見てた。

 《あぁ、ごめんなさい。考えごとしてました。何でしょう?》

 

「とりあえず女王が呼んでいるので、来て頂けますか?」

 

 まぁ挨拶が目的だからいいんだけど……巣穴にゴブリンは入れないし、3匹もスライム入ったら詰まりそう――どうしようか。


 《仲間もいるんですけど、女王様に出てきてもらうわけにはいかないですよね?》

「まぁ女王様を守るための城ですので」

 護衛隊長は苦笑いだ。

 

「ソラ殿ー、何故来てくださらないのですかー」

 あぁー、護衛隊長が無理って言ったそばから本人出てきちゃいましたけど……

 なんか前より声が弾んでて、言葉使いもちょっと子供っぽくなってない?

 

 ぷるんっ

「ソラ殿、ご無沙汰しておりました」

 俺に突撃したまま喋る女王……

 なんか王女みたいになってるじゃん。別人ですか?

 

「ソラ殿?」

 不安そうにこちらを見る女王様。

 

 《すみません。女王様が以前とちょっと雰囲気変わったなとか考えてました》

 

 えっ?どうしたの?

 女王様が頬を目一杯、膨らませてる。

 ハムスターかな?

 考え事してたのが悪かったかな。

 《すみません。考え事なんてして》

 

「違うでしょ!次女王様って言ったら幽閉するからね!」

 えぇー、あっそういう事?

 《レギーナ様すみません。女王様に名前で呼ぶのは不敬かと思いまして》

 

「ソラ殿! 私を名前で呼んでくれる方は、ソラ殿しかいないんですよ? 部下たちはみんな女王様って呼ぶんですよ!」

 えっ……はい。それはそうでしょうね。

 俺は目を泳がせて、助けを求めた。

 当然誰も助けてくれる気配は無い。

 

 ……

 

 むしろ仲間たちが凄い冷たい目をしていた。

 なんで?

 《レギーナ様、事情は分かりましたけど、いきなり名前は呼べませんよ。護衛隊長殿に怒られちゃいますよ。それより、よく俺が来たって分かりましたね》

 

 レギーナ様は、誇らしげな顔をしながら触角で体をツンツンしてくる。

「ふふっん、ソラ殿の匂いならすぐ分かりますよ」


 え゙っ、俺そんなに臭うの?

 全然嬉しくない……

 

「どうしました?」

 あっ、多分顔に出ていたな。

 ちょっとショックだったし……

 

《いえ、なんでもありません。レギーナは凄いんですね》

 聞き直しても気まずくなるだけだろう。


 レギーナ様が何か言おうとしたが、後ろからメリーの声がした。

《ソラ、そろそろ僕達も紹介してくれないかな? ハンベエなんてずっと槍向けられてるんだけど……》


 俺は後ろを振り向くといつの間にか、護衛隊長達にハンベエが囲まれていた。

 《レギーナ様、あのゴブリンは仲間なんです。警戒を説いてもらえますか?》


 レギーナ様は、俺から体を離して堂々とした雰囲気を醸し出した。

「皆のもの止めよ。命の恩人ソラ殿のお仲間であるぞ。控えよ!」

 

 すごーい。蟻たちが綺麗に引いていく。

 レギーナ様さっきまでの雰囲気は、本当になんだったの?

 こっちが俺の知ってるレギーナ様に近いな。

 

「あぁー ペコリ止めろ! 襲うな!」

 なんでさっきまで、静かだったのに急に襲おうとしたんだよ。

 

「ソラー、お腹空いたよ」

 いや、お前一人で鹿食ったじゃん。

 いつの間にそんなに大食漢になったんだよ。


「じゃあハンベエと狩りに行ってこい。ただここの蟻達みたいな蟻は食うなよ。メリーは、俺と蟻達と交流しないか?」


 メリーもその方が良かったのかご機嫌みたいだ。

「いいよ。ソラとの出会いとか聞いてみたいしね」

 出会いね。そういやあの鳥はアレから見ないな。


 それからしばらくレギーナ様とメリーが今までの事で盛り上がっていた。俺? 俺は、ただイジられ役だよ。

 

「そうそう、それで王女とソラの上に載せてもらったのは楽しかった」

《王女様は、今日はいらっしゃらないんですか?》


 メリーの質問に、レギーナ様はぴたりと話すのを止めた。


「ええ、実は……明日、結婚飛行の儀が行われるんです」


《結婚飛行?》


 隣でメリーが首を傾げる。俺も聞いたことがあるような、ないような。


「王女たちが羽を広げて、遠く新天地へと旅立つ日です。明日、第二王女のフィリアが飛び立ちます」


(……そういえばそんな名前をつけたかような)

 

《フィリア様が旅立つと今度は、フィリア様が女王になるんですか?》

 メリーはニコニコとしながら聞いているが、レギーナ様は真面目な顔のままだ。


「ええ、フィリアは……女王になります。今日は、明日羽ばたく羽を出すために栄養を取って、体力の消費を抑えているので、今日は出てこられませんでした」


《そうだったんですね……》

 メリーは心配そうな眼差しをしていて、レギーナ様は少し寂しそうに目を伏せた。


「……飛び立った王女たちは、もう戻ってくることはありません。無事に拠点を築けるかどうかも、運次第。護衛もつけられません。だから、明日はとても緊張する日なんです」


 言葉の端々に重さが滲む。守るべき存在が巣を離れ、無防備に空へと放たれるのだ。


《そんなに危ないんですか?》

「はい。装備も持てず、ただの蟻として、空へ。外敵に狙われれば……」


 メリーが小さく息を呑んだ。

《……ソラ、守ってあげようよ?》


《いや、守れるかわからないし、俺が動くことで儀式が崩れるのも嫌だ。これは……蟻たちの大切な通過儀礼なんだろ?》


 俺の言葉に、レギーナ様は微かに笑った。


「ソラ殿は……やっぱり優しいですね。でも、できれば見送ってあげてください。それだけで、きっと力になります」


《わかった。明日、見に行くよ》


「……ありがとうございます」


 レギーナ様は、ほんの少しだけ微笑んだ。

その笑みに、張りつめていたものが、ふとほどけていくのを感じた――気がした 


 

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