閑話 意味がわからない
ソラが変なことを始めた。
それは言葉を発することだ。
僕達は念話が使える。ゴブリン達とは、会話が出来ないため、僕達と会話が出来るようにお互いが勉強するのは悪くないと思う。
でも僕達の念話は、ゴブリン達に通じるのに何故言葉を発しなければ行けないのか、意味がわからない。
ソラはいつでも意味がわからない。
ソラと始めて出会ったのは皆が広場に集まった時のことだ。何やら巣が襲われるから防衛する必要があるって話だった。
何を言ってるんだろう?
襲ってくるなら、こちらもみんなで襲えばいいじゃないか。なんて意味のないことを言ってるな。そう思っていた。
彼は逃げるにも、突撃するにも今の移動では遅い。
新しい移動方法を教えると言った。
正直に言うと“逃げる”とか言ってる人に何を教わるというのか。そう思った。
でも僕達は巣のルール以外は自由だ。何をしてもいい。だからこそ暇だった。毎日ご飯を食べるだけの毎日に飽きていた。だから面倒だけど話を聞いていた。
その時の衝撃は今でも忘れない。
体を回転させる。すごい勢いで走るソラ。
……なんだ、これは。体をどうやって回転させてるんだろうか?
何故速いのか?
まったく意味がわからない。
僕はその日から毎日練習した。回転は、割と直ぐに出来た。でも転がったら止まれない。回転をゆっくりすると進まない。ソラはどうやって、これで移動出来ると思ったんだろう。
しばらくすると巣のみんながグループ分けされた。
巣を襲われたらそれぞれ決まった役割があるらしい。
なんでそんなに面倒なことをするんだろう。
勝手に戦わせればいいのに……
ゴブリンが巣を襲ってきた。
みんなの役割をこなすことで、すごい勢いの石が飛んだ。誰も溶けなかったのは、凄いことらしい。
おじいちゃんスライム達が喜んでた。よくわからないけど、ソラは凄いことをしたみたいだ。
ゴブリンが逃げ出したことで、ソラが追いかけた。
何故?もう撃退したから終わりじゃないの?
とても同じスライムの行動に見えない。
でも何をするのか気になって追いかけたんだ。
ソラが森に入っていくのが見える。
……なんなのあの移動方法。
わけがわからなかった。
少し頭真っ白になっていた僕も急いで森に入ったけど、木にぶつかって全然速度がでない。完全に見失ってしまった。
すると……《なにしてるの》と念話が聞こえた。外でのグループ念話は禁止されてる。バレたら追放だ。それを堂々と使ってるバカはどこだ?と辺りを見回した。
キョロキョロしていると上から何かが振ってきた。
これがペコリとの出会いだった。
《何食べてる》
どこを見て食事中だと思ったのか不思議だ。
《何も、ちょっとソラを探してたんだ》
《ソラ? あの美味そうな匂いがするソラ?》
何故スライムから美味しそうな匂いがすると思っているのか?なんなのこの人……
《じゃあ、美味しいもの食べに行くか》
えっ? 状況についていけない僕を置いて、ペコリは木の上にスイスイ登って行った。僕は慌てて追いかけるとペコリは、枝から枝に飛んで行った。
はっ?どうやって飛んでるのかまったくわからない。
ペコリはどんどん進んでいく。僕は結局飛び降りて、回転して、ぶつかってを繰り返して進む。
気づけば、また迷子。
でも何故かペコリがやってくる。
《何食べてるの? 僕にもちょうだい》
食べてないよ。なんで僕の場所がわかるのさ。
ソラとは違う意味でわけがわからない。
だんだん回転で木を避けることに慣れてきたと思った矢先、地面からせり出した木の根が、ジャンプ台の役割を果たして僕は飛んでしまった。
そのまま木にぶつかってしまった。
凄い音がした。
何かが寄ってくるかもしれないので、どうしようかと考えてたらペコリに呼ばれた。
僕のぶつかった木の上にいる。
いつの間に?
何この子、怖いんだけど。
そう思いながら上に上がると、目の前には少し開けた草原が広がっていた。
草原の端には、岩に穴が空いていて、そこからゴブリンがわらわらと出てきていた。
ゴブリン! じゃあこの辺りにソラが?
《ソラ、いる?》
そう問いかけたらソラから返事があった。
どこにいるか聞かれたけど、ここをなんて答えていいかわからなかった。
ソラは誰かもわかってなさそうで、少し悲しかったっけ。その時は、なんでかわからなくて困惑してたな。
《なんでこんなとこに居るんだ?》ソラにそう聞かれた時、急に恥ずかしくなったんだ。
よくわからないまま、気持ちのままにソラを追いかけてきちゃったから、自分でも何してるの?って思っちゃった。
相変わらずペコリは、食べることばっかだったけど、あの時は、本当に何言ってるの?って感じで……
結局、ソラとペコリと一緒にゴブリンと戦ったんだ。
だけどソラは、ゴブリンも食べるなって言うんだ。おかしくない?襲ってきたんだから食べるのが普通なのに……
結局食べないで戦う方法がわかんなくて食べちゃったんだけど、ペコリも同じだったし仕方なかった。
その後ソラはなんでか蛇と戦ってるし、ゴブリンと一緒になって戦ってるし、戦いが終わったら仲良くなってるんだ。
もう『意味分かんない』って言葉じゃ表現できてないって位意味分かんないよ。
凄くない?
巣を襲ってきたのになんで仲良くなれるの?
しかもゴブリンが話せるなんて初めて聞いたよ。
更に凄いのは、同じ巣に住むって言うんだから、訳が分からないよ。
なんでそんなこと思いつくんだろう。
どうしてそんなことが出来るんだろう。
僕の中のソラは、凄い凄いで埋め尽くされていったんだ。
ソラは気づけば、リーダーになっていた。
これもビックリ。
ソラは僕と生まれた世代が同じ筈なのにもうリーダーだよ?でも納得だった。
……だってソラみたいなスライム他にいるわけ無いもんね。
しばらくゴブリン達と勉強して過ごしてたけど、ソラが言葉を喋ったんだ。
意味は分からなかった。
どうするつもりか?聞いても良かったけど、聞いたところで分からない気がしたんだ。
でもこの時に決めたんだ。
ソラがすることを手伝って、僕はソラの見てる世界を見えるようになりたいって。
だから、意味が分からなくても、話せる練習を頑張ったんだ。ただ一つ納得出来ないのは、何故かペコリがいつの間にか喋れるようになってたことだ。
ソラも僕もかなり練習したのに、ペコリはいつ練習したのか?すぐ出来るようになるなんてズルいじゃないか。
僕は話せるようになって、ますますゴブリン達と仲良くなった。念話だと触れてる人としか話せないけど、言葉で話すと、それを聞いてた人も会話に入れるんだって気づいた時は嬉しかった。
しばらくしてソラが旅立つって話を聞いた。
絶対ついて行こうと決めたけど、『ついてきて』 って言ってくれることを期待してた。
結局そんな雰囲気になることも無くソラが旅立つ日になっちゃったから、僕は外で待ってこっそりついていく気だったんだ。
そしたらペコリとハンベエが、既に外にいたんだよ。
3人でソラを迎えて旅立った。
たぶん、これからもソラは意味がわからない。……でも、僕はそれを理解したくてたまらないんだ。




