始動
スライムとゴブリンの共同生活が始まった。
スライム達がゴブリンを襲うかも……とは思っていたが――想像以上に襲い掛かってきて頭を抱える羽目になった。
念話で「ゴブリンは食べちゃダメ」と何度伝えても、すぐ忘れるのか、そもそも聞いてないのか、まったく効果がない。中にはペコリみたいに、ノリと勢いで「つい」で済まそうとするやつまでいるからタチが悪い。
そもそもゴブリン達を守ろうにも、スライムが多すぎるから見張ることすらできない。
しかもアイツらどこからでも湧いてくるんだよ!
隙間から! 天井から! しかも寝ないし!
厄介極まりない生物過ぎる!
……まあ俺もそのスライムなんだが。
今は、司会者と進化スライム達に守ってもらっている。
進化スライムの三匹は、進化元になった餌以外にはあまり興味を示さないから安心だ。
司会者は「ルールを決めれば解決だ」と言っていたが──問題は、いつ発表されるかだ。
早く決めてくれないと、ゴブリン達を自由に動かすこともできない。
そして、その日は唐突に訪れた。
「皆のもの、広場へ集合せよ。何かを食べてるものも、餌を取りに行くつもりの者も集まりなさい!」
広場に響く司会者の声。念話じゃない。わざわざ声を張っているあたり、マジなやつだ。
どこからともなくスライム達がぞろぞろと集まってくる。地面はもちろん、天井の裂け目や壁の罅からもスライムが出てくる。本当にどこにでもいるな、お前ら。
気づけば、広場はぷよぷよと揺れるスライムで埋め尽くされていた。異様すぎる光景だ。
「よし、全員揃った……か? 流石に全員集めたことが無いからわからんな」
司会者は、マイクみたいな物を握って話す。
いや、念話だからマイク意味ねー
ていうか、こっちの世界にマイクってあんの!?
「みんな知っていると思うが、先日ゴブリン共に襲われた。そしてある者が、そのゴブリン達を連れ帰ってきた」
ざわざわぷるぷる。みんなが揺れだす。ある意味で感情表現が豊かすぎる。
「みんな少し慣れたと思うが、連れてきたゴブリン達は餌では無い。仲間だ!」
「「…-¥&/!%#」」
みんな騒がしい。というか念話だから同時に話されると何言ってるかまったくわからん。
まだ餌だと思ってた奴が、騒いでいるのは間違いないだろうな。
「そこでだ。これから我らスライムの巣は変わっていかなければならない。それをこれから説明する」
ん?司会者さん、何故コチラを見る。
嫌な予感がするんだが……
「では今後の説明をしてもらおう」
おい、お前がするんじゃないのか?
まさか……
「我らスライムは、昔人間共に巣を追われた。今回もゴブリンに巣を追われる可能性はあった。しかし、巣の防衛に貢献し、偵察隊を率い、ゴブリンとの同盟関係を築いた。将来の危機から逃れるためにも――」
おい、おい、おい。
なんか前振りが想像よりデカいぞ。何いう気だ!?
「ソラ! 今日からお前がこの巣を率いるリーダーだ!」
「はっ?リーダー……なにそれ?あれ?ルールを決める話はどこにいった?」
俺はあまりの予想外に、頭が働かない。
ざわ……ざわ……(スライムだから音はしないが、なんかそんな空気)
「あぁー、えー、リーダーになりました。ソラです。今後ですが、ゴブリンが仲間になりましたので、まずは皆さん会話できるようになりましょう」
ざわざわしてるんだが、これはどっちだろう。
俺がリーダーになったことか?会話できるようになることか?
「とはいえ数が多いので、最初は、20匹程でやりましょう。防衛時の3グループから5匹づつ選抜してください」
あとは進化スライム3匹と司会者、偵察隊から1名の予定だ。
こうして俺は、リーダーとして最初の任務「スライムに会話を覚えさせる」という超地道な作業に取りかかった。
ゴブリンのみんなとスライム選抜組を集めて、メリーに任せる。
「メリー、前回のようにあいうえお表を書いて教えてくれ。ゴブリン達は少し話せるから、様子見ながらスライム達と交流出来るように頼む」
「わかったよ。僕が教えてる間ソラは何するの?」
メリーは手を挙げて、返事をしてくれた。
「俺?俺は言葉を話せるようになること、自分の能力向上訓練かなー」
「そうなんだ。ソラは凄いね。」
凄い……か。
なんかスライムになった衝撃より、環境に慣れるのに必死過ぎて気づいたらこんなことになってたけど、俺ももう少し楽しんでも良いのかもしれないな。
「さぁ、みんな言葉の勉強をしよう!」
「「はーい」」
メリーの声に選抜されたメンバーは、素直に返事した。
ゴブリン達も発音は、少し変だが返事していた。
さて、俺も頑張ろう。
まずは発音出来ないか外気を吸って、身体を使って音を出してみる。
「ボー、ボー」
なんか低音楽器みたいな音がするな。
確か声って、声帯で音出して、口で声に変えるみたいな仕組みだっけ?
後ろから息を吸って、声帯のつもりで膜を作って、前から口のようなもので、息を吐く。
「きゅーん」
なんじゃこりゃ。ははっ、自分でもびっくりな声が出た。まぁ色々試そう。そのうちなんか出来るだろ。
「どー、どー」
「ピー、ピー」
奇声というか、異音というか鳴らしてようやくちょっと言葉の祖先みたいになってきた。
「あぁおおぉっあ」
うん、難しい。人の声って凄いな。
「あぉっ」「ガッ!!」
ごぽぽっ
ヤバい。
勢い良く風を通したら中身が出るとこだった。
風の吸い方も加減がいるな。
「くゎぁぃ……あぅぇ……」
おっ、ちょっと『ぽく』なかったか?
「ソラ?お腹痛いの?」
おい、ペコリ。普段飯の話しかしない癖に何故こういう時だけそんなこと言うんだ?
「違うわ!言葉の練習してただけだわ!」
「そんな慌てなくても大丈夫だよ。ソラがお腹痛いなら、僕がご飯食べてあげるから」
ニコッ……じゃねーんだよ。
そもそもスライムに腹ねーわ!
てかお前選抜メンバーじゃないくせになんでここにいるんだよ!
「ペコリ、何しに来た?」
「うーん、そろそろゴブリンを食べても良いってなってるかなって……エヘッ」
ペコリは、めちゃめちゃ笑顔だ。コイツ何も悪いと思ってねーな。
「ならないから。ゴブリンは、仲間だって言ったろ? こいつら食べるなら、お前を俺が喰うぞ?」
「えー!! スライムって食べれるの? 美味しい?」
「止めろ、怖いわ! スライムは食べません。罰を与えるよって話がしたかったの!」
ペコリは、物凄く嫌そうな顔してた。
「罰は食べれなくなるから嫌」
はぁー、何でも喰おうとするからだろ。
「そう思うなら仲間は、スライムもゴブリンも喰うなよ」
ペコリはともかく、他のスライムにもペコリみたいな奴がいるんだろうな。
イカン、イカン、今は集中しよう。
次は身体の形を変える練習。
出来るだけ人っぽく……パチンっ
俺は胴体と手足を伸ばして形を作ろうとしたが、体がゴムのように戻ってきてしまった。
「んー 前よりは形変わるけど、やっぱ急に体が戻っちゃうな」
腕というか、触手みたいにするなら結構伸びるのに、何が違うんだ?
次は、子供サイズくらいを目指して体を作ってみる。
「おっ、いけそう。 戻るな……戻るなよ」
カクカクしたロボットみたいな造形な気がするが、なんとか二足歩行にはなれた。ちなみに顔は、元のスライムを小さくした感じのが乗ってる。
マジでこの体は、どういう仕組みなんだろうか。そもそもストレッチのように伸ばしてるのに、元に戻ろうとしないこの状態は、なんなんだろう。
紙飛行機型は、体をずっと伸ばし続けて維持してた。でも今のロボット型は、なんかこれが元の形みたいになってる。それに出来る気はしたけど、何故出来るようになったんだ?
俺は体をカクカクした状態から、少しでも人間に近づけようと試みるが、上手くいかない。
「うーん、もはや人間をしばらく見てないせいか、イメージが曖昧なのが良くない気がする」
ふとっ、言葉の練習をしてるゴブリン達が目に入った。みんなで発声練習みたいになっていて可愛い。俺もあっちに混じろうかな。
集中力が切れたのか、俺は自然とゴブリン達に近づいていた。
ドガッ!
「びっくりしたー何が飛んできた!?」
俺は何かに突撃されて、壁にぶつかっていた。
俺が居た場所には、メリーが居た。
えっ? 俺は、メリーに突撃された。
「なんだお前は? どこから入ってきた!? ゴブリンじゃないだろ?」
おぉ、メリーが勇ましい。
ところでメリーさん? 俺にぶつかった件への謝罪とか無いの? それと誰に叫んでるの?
よく見ると他のスライムもゴブリン達もこっちを見てる。どうした?
「倒す……」
メリーが物騒な雰囲気を出して、回転を始めた。
「ちょちょちょ、ちょっと待って! なにごと!?――あっ、俺! 俺だから! ストップ!」
俺は体がロボット型になっていたことを思い出して元に戻る。
「ソラ?」
メリーが回転をやめて、問いかけてきた。
「そうだよ」
ふぅー。体が元に戻ろうとしないと自分の状態忘れるな。
「ソラってゴブリンになれるの?」
ん? どういうこと? 俺はロボットみたいにはなったけど、ゴブリンには程遠い感じだったと思うけど?
メリーが言うには、ゴブリンにそっくりだったらしい。ただ青いし、若干ぷるぷるしてる感じがゴブリンには見えなかったって事らしい。
俺は再びゴブリンを見ながら、ゴブリンの形になってみる。
あれっ、今度はすんなりゴブリンになった。
人型がダメなのは、イメージの問題か?
とりあえず喋ってみよう。
「メ゙リ゙ー ゴブリ゙ン゙に゙みえ゙る゙?」
おっとすごいダミ声だ。
「なんて?」
メリーの顔には?が浮かんでる。
「メ゙リ゙ー」
「ゴホッ、あ゙あ゙ー、あー、あ゙あー」
「メ゙、メリー、ゴブリン……に゙、に、みえる?」
「見えるよ。そんな必死に喋らなくても念話すれば良いのに」
メリーは苦笑いだ
「確かに!――いや違うんだ。ゴブリンの体なら話せるかなってね」
今度は念話で答える。やっぱり話すのは俺も練習が必要だ。それにゴブリンになれるなら人型にもなれるんだろう。
ただ一つ気になることがある。
もしそうなら……困ったな。
…まぁ、たぶん考えすぎだ。うん。
そういうことにしておこう。今は、ね。




