蛇
ゴブリン達が巣穴に戻るくらい近づいた時、岩の上から影が天へと伸びていた。
アレは何だろうか。
岩の上に特に不思議なものは無かったと思うんだが。
影は、突然伸びる速度を上げ、ゴブリン達の方へ進む。
影がゴブリンたちに向かうと1本の四角い影の先が矢印みたいになってるのが見えてくる。
矢印のような影を見て蛇の頭だと気づいた。
ゴブリン達もジリジリと下がっているが、逃げ出さないのは、驚愕しているんだろう。俺もゾッとした。
デカい。大木みたいな蛇なんて……
防御する隙もなくゴブリンが一匹飲み込まれた。
……ひと飲みかよ。
ゴブリン達が蛇を囲むように警戒陣形を取った。
蛇が体を横に振ってゴブリンを蹴散らしにかかるが、ゴブリン達は素早く後退して避ける。
うーん、近づくことも出来なそうだし、勝てるとは思えないな。
せっかく殺さずに済ませたのにあの蛇野郎!
全滅されたら巣の中の子供達も食われちまう――仕方ねぇ。助けに行くか!
俺は、回転しながら勢い良く蛇へ突っ込んだ。
「ギャギャ」
「シュー」
蛇もゴブリンも騒いでるが、俺は手を伸ばして思いっきり蛇の顔面を叩く。
ドコッ!
俺はそのまま蛇を通り過ぎたが、蛇はなんのダメージもなさそうだ。
嘘だろ!?
俺の中では一番威力がある攻撃だぞ。
溶かすのが一番だが、自分よりデカいのは包めないから時間が掛かって攻撃向きじゃ無いんだよな。
蛇野郎はゴブリンよりこちらを危険視したのか、こちらに突撃してくる。俺は回転して逃げようとしたが、転がり出した瞬間に噛まれた。
口から少しはみ出したおかげで、ニュルと外へ抜け出す。
危ねぇ!
回転移動は、予備動作がデカすぎる。これじゃ、転がり出す前にやられちまう。ヤバいな、今までの戦闘がなんの役にも立たないじゃねぇか。
「ギャギャ」
蛇がこちらに気を取られてる間に、ゴブリン達が胴体を斬りつけてる。
おっ、良いぞ。
ゴブリン達にも襲われたらどうしようかと思ったけど、無事共闘出来そうだ。これでゴブリン達を守れるな。
俺は回転移動を始めて、蛇に噛みつかれないよう動き回る。
「シャー」
蛇は、斬りつけられるのを嫌がったのか、ゴブリン達に噛みつきにかかるが、俺はその隙をついて再び顔面を殴る。着地と同時に移動を始め、今度は噛みつかれる隙を作らないようにする。
最悪だ、何もなかったみたいに平気そうな顔してやがる。
ゴブリン達の攻撃も効いてるのかよくわからない。このままだとジリ貧だよな。
俺は移動を続けながら考える。
王道なのは目を攻撃することだけど、そんな狙いすました攻撃出来ないしな。
「シュー、シュー」
蛇がなかなか攻撃が当たらないことに苛ついたのか、岩場から降りてくる。
デカっ!
太さからしてデカいとは思ってたけど、マジでモンスターって感じの長さだな。
「ギャギャ」
ゴブリン達は警戒して、少し下がって様子を見る感じだ。
蛇が完全に岩場から降りて、巣穴の前に陣取る形になった。今まで森の中だったから気にならなかったけど、開けた場所だとジャンプも出来ねぇ。道塞がれたら突っ込む以外に選択肢無くなるぞ。
ゴブリン達が引き気味なせいで、蛇がこちらに再び噛み付いてくる。移動でかわすが、心配してた通り進む先から蛇の胴体が迫ってくる。
俺は粘着液でそのまま蛇の体にくっつく。
よし、このまま登って蛇の目を潰してやる。
「シャー」
体を登っている間、蛇は振り払おうとしてるのか、俺の体にはずっと横へ吹き飛びそうな重力が掛かっている。
だが粘着液はこの程度では剥がせないぞ。蛇野郎もうすぐ痛い目みせてやるからな!
ん? なんか急に暗くなってきた。
まったく見えない。しかも身動きも取れない。何が起こった!?
登るのに必死で周りが見えてなかった。これは何されたんだ?どこに逃げればいいんだ。
なんか体が――締めつけられていく。
なるほど蛇に巻きつかれたか――それはスライムには効かねぇな。
俺は安堵して粘着液を解除。締め付けられ圧力と共に上の方にニュル、ニュルと登って行く。
ポンッ
抜け出したー
勢いがついて少し空に飛び出してしまった。周りを見るとゴブリン達が蛇の胴体を斬りつけている。もしかして助けてくれようとしてるのだろうか。
「ギャギャギャ!」
一匹のゴブリンが、俺の方を指さした。
「ガギャギャギャ」
ゴブリン達が一斉に退きはじめるが、蛇も俺が抜けたことに気づいているようで、巻き付いていた体を戻す勢いで、ゴブリン達を薙ぎ払う。
くそっ、すまない。
やっぱり俺を助けようとしてくれてたんだな。
ゴブリン達は、盾を向けてたが、効果もなく吹き飛ばされてしまった。致命傷を受けて無ければ良いのだが。
俺は落下しながらゴブリン達の行方を追っていると、彼等はふわっと地面に着地した。
えっ! そうか、ゴブリン達は一応は羽があるんだった。ダメージはあるだろうけど、地面に投げ出されるよりはマシだっただろう。
俺は、再び蛇の胴体に取り付き、顔を目指す。蛇も体を振ってくるが、これだけ太いとあまり妨害にはなってない。
いける! これなら目まで辿り着ける。
ただ目を潰して蛇が暴れた場合、逆に戦いづらくないか……
また俺の後ろから影が差した。今度は何だ? 後ろを見ると、目の間に洞窟の入り口の様なデカい穴があった。
……暗い。
景色が、急に消えた。
何が起こったのか。あのデカい穴はなんだったんだ……。これは、締め付けられているのか? 違う。押し出されてる感触だ。
――ああ、呑まれたんだ。
あまりに一瞬の出来事で、なんの抵抗も出来なかった。蛇の食道に締め付けられながら、これからどうするかを考える。
胃についたらしい。入り口が閉じていく。無意識にその入り口に挟まり、自分の体内に侵入させ溶かす。
とりあえずこれで胃に閉じ込められることは無いだろう。それにしても胃壁でも溶かせちゃうのか。体内に取り込めればホント何でもありだな。
うぉ、地面や壁が揺れる。
どうやら体が暴れ始めたらしい。俺も僅かに開いた入り口辺りで周囲を殴ってみる。ほぼ体と同じ空間だから振り回せない分、威力もでない。ただそれくらいしかできる事が無い。
壁や地面がまた揺れる。
今度はなんか方向性がある感じがする。
食道が締め付けてきた――これは吐こうとしてるのか?
このまま流されれば出れるな。
行きと同じく食道の筋肉に押し出されながら進む。
勢い良く空中に放り出された。すぐに入り口付近の壁に手を伸ばして張り付く。
危ねぇ。このまま吐き出されても倒せる気がしないからな。どうせならここらで暴れたい。
ただサイズ差が凄くて倒せるイメージわかない。何か無いか? しばらく周りを見ていて気づいた。
蛇の舌って重要じゃなかった?俺は慎重に口内の壁を降りながら舌の付け根にやってきた。
舌もデケェな。
はぁー 面倒だと思いながら俺は体をデカくして、少しでも溶かす範囲を広げる。
ぐっ――また暴れてやがる。
溶かしながら何かにくっつくのムズい。回転移動並みの難易度じゃねぇーか。
蛇が動く勢いに耐えながら舌を根本から千切った。
よっし!
何かしら効果あるはず。
うぉ、喉からなんか出てきた。
ゴブリン!? 喰われたやつか。生きてんのか?
俺は空中に放り出されたゴブリンを捕まえる。
ダメだ。息はしてるみたいだが、骨がめちゃくちゃ折れてるっぽいな。
またゴブリンが出てきた。俺が見てない間にも喰われたやつがいたのか。でもみんな溶かされてはいないものの、虫の息って感じだ。
仕方ない。
俺が弔ってやろう。
助けられなくてすまない。
俺はゴブリン達を溶かすとゴブリン達の服からナイフが出てきた。
ありがたい。
刃物があればもう少し出来ることもあるだろう。
口の中を切り裂こうと思ったら、喉の方からチューブみたいなのが伸びてきた。
なんだこれ?
でも、人間に無いなら逆に重要そうな器官だろ。
空気が流れてる感じもするし、もしかして呼吸に関係してるのか? 正直、生き物の内部のことなんて詳しくないから推測するしかないな。
俺は何か蛇にダメージを与えられないかと管の中に入っていく。進んでる間に蛇が物凄く暴れ始めたから痛いのかよくわからないが、効果は期待出来る。
辿り着いた先は、部屋のように広がっていた。
なんか天井にはぶら下がってるし、胃と違い空気も外とそんな変わらない感じだ。
あぁ、これって肺じゃない? あの管は謎だけど、これ穴開ければ窒息するだろ。
俺はナイフを突き立てた。
意外と薄くて簡単だったが、あっという間に部屋が縮む。俺も抗う術もなく落下する。
来た道から戻るつもりだったのに無理じゃん。
俺は仕方なくナイフで切り開きながら、体をねじ込んで体の外へ出た。
蛇はもう暴れることは無かった。
外に出てみると既に日は暮れて夜になっていた。夜に戦闘してたらもっと被害は出てたかもしれない。
ふぅ。……完全にラッキーで倒したな。
スライムを消化出来る敵なら死んでた、打撃の出来る相手でも死んでたな。
俺はプルプルと体を振って、気持ちを切り替えた。
まだゴブリンの方は何も解決してない。
共闘で少しは敵対心が無くなったとしても、それで巣を襲わないかどうかわからない。
そんなことを考えていたら、影がさした。
見上げるとそこには、ゴブリンらしき影に囲まれていた。
表情は見えないが、これは再び戦うしかないか……




