スライムボディ
文章って書くの難しいですね。
しばらくは、投稿続けられそうな気はするけど、読みやすさとか、どこまでエピソードを書くのかとか、悩ましいですね
洞窟を出るとまだ日も高く、時間的には昼頃くらいだろうか。暗い洞窟から出て何かから開放された気分だった。
(空だーー)
(森だーー)
(デカっ!?)
目の前に、樹齢何百年と言われそうな大木が、ひしめき合って森が出来ていた。洞窟の周りは少し開けているが、左右を見ると山沿いには木が生えてないようだ。
(そういうもんか?)
(まずはその辺の草を食ってみよう)
ジュウ……
(なるほど、草は一応魔力があるな)
チビスライム達にやっても永久に大人になれる気はしないレベルだが。
(このデカい木を食ったらどうなるんだ?)
(ん……)
木に張り付いて溶かしてみるが、溶ける気配がない。
(うーん、こう!)
今度は気に巻き付こうとするが、体が伸びるのは一瞬で、すぐに元に戻ってしまった。
(ダメだな)
溶かせない理由は、包めないせいか、この木が特殊なのか。しかし石が溶かせて木がダメというのは、意味がわからない。これも異世界だからなのか。
(それにしてもこのデカい森で狩りとかするのか――ここで生きていくのは、サバイバルって感じだ。明らかに危険な生物が住んでるとしか思えない)
森の奥の暗闇を見ているとブルッと震えがきた。
(でも人間ならともかくスライムだもんな。火を通さなくても食えるし水分は――いるのか?)
(人間は、体の80、60%? が水分なんだっけ? でも俺はどう見てもほぼ100%だよな……)
水分が必要となるとさらに遠出は難しくなる。ただ今の所そんな気配は無い。また必要を感じてから考えることにした。
ガサッ。
(何!?)
俺は音がした方向を探りながら後ずさる。
(どこだ? どこから聞こえた)
少し構えて待っていると何か黒い影が木の上から落ちてきた。
(ウサギ……?)
後ろ足がムキムキなウサギが目の前に現れたかと思ったら、ウサギはこちらをチラッと見て一瞬で消えた。
(えっ?)
(どこいった!?)
ウサギだと思ったが、ウサギにしては、大型犬ほどの大きさだった。耳もイメージより少し小さい気がした。そして何より足がバッタみたいに、胴体の上まで盛り上がってた。
(今のが猛獣なら俺は死んでたかもしれない……)
もっと危機感を持つべきだと気を引き締める。念の為魔力視に切り替えて、生き物の気配に気をつけようと考えてた。
……
(目の前にいる)
薄っら光る物体、シルエットだけが見えるため、ウサギと言うより耳の生えたバッタに見える。
(なんだろう)
(足が可愛くないし、耳の長さともふもふ感以外は虫っぽいな。特にこのジッとしてる感じ)
このウサギ擬きは、隠れられてると思っているせいかまったく動く気配がない。確かに見えないが、保護色的な感じなんだろうか? 俺は角度を変えてウサギを見てみる。
(全く見えない、本当に消えてるのか?)
(食べてみたいな)
!?
(俺は今なにを思った……見慣れない生き物を見て、食欲が湧くなんて)
相変わらず微動だにしないウサギ擬き。
俺は虫を捕まえる時のようにゆっくりと近づく。
ドンッ!
凄い音がしたと思ったらウサギが消えた。
俺は周りを探したが、もうどこにもウサギらしい魔力は見当たらなかった。
(異世界凄いな……)
しばらくウサギの行方を見ていたが、また危機感が薄れているのを感じた。
(とりあえず、木が溶かせないのは良い。でも、大きい相手が溶かせないなら、森をぶらついてる場合じゃないな)
改めて気を引き締めて、周りを少し警戒したが、今度は生物らしいものは見当たらなかった。
(あのコウモリは溶かせたし、そもそも捕まえてくるんだから大きいから溶かせないってこともない。やはりまだスライムという生物をよく知らないと俺は早々に死ぬな)
とりあえずの目的を決め、洞窟へ向かって歩き出した。
(まずは、帰って、あのコウモリを狩ってるところを見学しよう。というか今更だが、外に出るより自分の体の操作方法を覚える方が先だったのではないか)
(やっぱり焦ってたな。落ち着かなければ)
その思考を抱えたまま、のろのろと戻る。イライラする。思うように動けないこのゼリー体に。
最初の場所近くまでたどり着いた。
天井を見上げると、スライムがぴったりと張りついている。あれも狩りか何かと思ったが、まったく動かない。
仕方なく、洞窟内を軽く散歩することにした。気分転換と探索を兼ねて。
俺が最初に目覚めた場所は、学校の教室くらいの広さだった。今は誰もいない。ガランとしていて、どこか寂しい。
通路を戻り、別の道に入る。
こちらの通路は左右に枝分かれが多く、探検心をくすぐられる。一つ目の入口は、スライムがまるで門番のように壁を形成していて中が見えなかった。
二つ目の入口は、奥が少し段になっている広場。自然にできた舞台のようにも見える。今はまばらにスライム達がいるが、ここに集まるような社会性はあるのだろうか?
にしても、この通り道はやたら長い。先が見えないがどこまで繋がっているのか……スライムたちはこんな空間のどこでコウモリを狩ってるんだ?
ここまで探索したのに、思った以上にスライム達は動いている所を見かけなかった。
(うーん。今日のところは、あの壁に戻って登り方を学ぶか。天井にスライムが張りついてるし、見よう見まねで……なんとかなるだろ)
(……バカか、俺は)
(天井スライムの動きなんて、見えねーよ!
真正面からじゃ、ただの暗い影だ! なにが“見よう見まね”だ、見えないのに)
とりあえず壁に体を押しつけてみる。ぷるぷる。
なんだこの無意味な振動。登れる気配が1ミリもない。
(どうやって登ってんの!? 粘着質で張りついてるだけじゃないよな?)
ぷるんっ。
(うわっ!)
突然、背中を押された。振り向くと、一匹のスライムが、ぐいぐい押してきていた。
(なんだお前? 何がしたいんだ……)
じっと見つめていると、そいつはぬるりと壁に張りつき、するすると登りはじめた。
(おお……すげぇ、普通に登ってる……)
俺は必死に目で追う。ゼリー体でどうやって壁に力をかけているのか。掴んでるという様子は無い。そもそも回転してるな。
だがすぐに、
――ポトッ。
「えっ!?」
あまりに普通に、ポトッと落ちてきた。意外と失敗もするらしい。いや、むしろこの子も練習中だったのか?
そして再び、そいつは俺にぴったりとぶつかってきた。今度はただの押しではなく――何か、感触が違う。
ズル……ズル……
(お、おい……俺、引きずられてる!?)
自分の意思とは無関係に体が動く。否、引っ張られている。
(なにこれ、くっついてる!? 体がこの子に張りついてる……!?)
なるほど、今度は理解できた――ような気がした。
(きっと思えば体が上手くやってくれるってことだろ?
ふふふっ、今度は俺が引っ張ってやるぜ!)
(……違うな)
試したらまったく引っ張れなかった。
(つまり引っ張る所じゃなくて噛み付いて離れないイメージなら完璧だろ!)
(ほっ、やっ、それっ)
色んなイメージを試してみたが、結論としては、まったく……無反応。
(なんの時間だよ、これ……)
俺が諦めてじっとしていたら、再びくっつかれた。
今度は、くっついている部分をじっと観察する。
体を何かしら掴むようなイメージかと思ったが、間に膜のようなものがある。
薄く白っぽいような半透明の層。
(……この子、体そのものでくっついてるんじゃなくて、何か、膜みたいなものを“出して”、接着してるのか?)
そう考えて、自分の体で試してみる。
内部を意識して動かしてみる。血液も骨もないが、流れをつくるようなイメージで。
――ぐるぐるぐる……
(……あ、なんか体内が回ってる。すごい。初めて体内が体を巡ってる感じがする)
……でも何も出ない。
まぁ体内を動かすことに集中してたから、これで粘着液が出ても困るけど。
隣を見ると、さっきのスライムが、どこか冷ややかな目線を向けていた。
(こほん。失礼、ちょっと脱線した)
(……次こそいくぞ!)
“粘着液〜 出ろー!”
――ドパァッ!
(ごめぇぇんっっ!!)
思いっきり隣のスライムに液体がかかった。粘着液かどうかはわからないがとにかくぶちまけた。
隣のスライムはぷるぷると震えながら――明らかに怒っていた。
そして、再び押してきた。勢いが段違いに強い。
(ちょ、ちょっと待って待って! やるから! 本気でやるから!!)
とりあえずさっきのは、粘着液だった……
なぜなら押されたことで完全にくっついてしまったからだ。
(どうやって離れるんだ、これ?)
張り付く所は観察していたが、離れる時はまったく見てなかった。
まだ怒りが治まらないのか? それとも早く解除しろという催促か? まだバシバシと押されている。
(俺が出した以上、俺が解除しないとこの子も離れられないよな――いや、もしかして離れるのに押す必要があるってことでは?)
ズルッ……。
こちらからも押し返したら張り付いている感触が薄れていった。
(あ、離れていく……?)
今度は離れ方も理解しようと押しながら観察する。
(……ああ、そうか。“溶かす”んだ。くっついたなら、膜を溶かして分離する。なるほどね)
(つまり押してた意味はなかった……ごめん)
スライムにとっては当たり前の方法なのだろう。
でも俺の感覚はまだ人間だった。くっついたら引き剥がす、って発想だった。
(なるほど……この体の操作、意外と奥深いな)
体は液体。力を入れる感覚も、方向も、すべてが異なる。人間のように動けないけど、人間に出来ないことが出来る。
これからはこの液体の体が俺の相棒だ。
――頼むよ、スライムボディ。
感想ください。って思うけど、2話で感想って、なかなか書く気にならないですね。感想もらえるような展開まで、頑張ります