偵察部隊
俺の目の前には大量のスライム達が集まっていた。
司会者がゴブリン襲撃を説明し、これから対策をするという話だ。
「ほれ、集めたから普通じゃない戦い方とやらを教えてくれ」
みんなが集まる様子を見て、一つ思い出したことがある。そういえば、こいつら全員歩き移動しかしないんだった。こちらから強襲みたいなのは、難しいかもしれない。
「あぁ、皆さん少し真ん中を開けて下さい、これから新しい移動方法を教えます」
モーゼが海を割ったかのように真ん中にできた通り道を俺は転がってみせる。戻りは、体内石を抱えたまま転がって見せた。
「これができれば、相手から逃げやすくなります。石を抱えてぶつかれば、相手を襲うこともできます。
まずは、各自試してみて頂き、できそうな人は集まってください。できない人は違う手段を教えます。」
各自がその場でプルプル震え始めた。
なるほど……誰も他の場所で試そうって考えないのか。
やっぱこいつら、バカかもしれん。
少しすると、回転ができたのか、空中に放り出されるスライムが現れ始めた。
「では、回転できそう組は、入り口近くに集まっててください。そしてできない人達は、次のことを試しましょう」
俺は体内に石を溜め、手のように伸ばした体をグルグル回して、石を投げることを教える。
これは、ほとんどができるようで広場中で石が飛び交う。まるで雪合戦のようだが、飛んでるのは石だ。
この後をいくつか他にも案を出しつつ、今日は解散してもらった。
俺はこの後、偵察をしなければならない。敵の数がわからないと対策のしようが無いと考えたからだ。
周りに挨拶をして偵察に出た。母さんがブツブツ言ってたが、今は仕方ない。俺はまだみんなの役割とかあまりわかってないから、とりあえず内側は、何人かに頼んできた。
森の中に来たものの、そもそも偵察係は、半日監視をしろと言う命令しかでてないらしい。つまりどの辺りに向かっていて行方不明になったか誰にもわからない。
なんじゃそりゃ。と思う。
とはいえこれが俺達スライムってことだ。
とりあえず残ってる偵察係の話によると夜は、森フクロウに気をつけろと言われた。
奴らは、俺たちの核に一直線に突撃してくるらしい。
魔力を抑えてないと襲撃も止まらないとか。
なるほど、思い当たる節があると思ってしまった。
魔力を抑えるのは苦手だが、抑えながら歩く。
森の中で獣道が無いか、生物がいた形跡が無いか探すつもりだったが、草の背が高すぎて、何も見えない。
仕方ないので、俺は木の枝から枝へ飛び移る形で移動することにした。今までの枝にぶら下がる移動は、周りの気配を感じる余裕がなくて、偵察には向かない。
とりあえず枝から枝へ普通に飛んでみる。
プルンッ
……まったく届かない。
仕方ない。木のできるだけ上から隣の木へ飛び移る。
バサバサバサバサ
……
飛んでるというより、落ちるに近い形で葉っぱを巻き込みながら隣の枝に乗った。
騒がしい。まったく忍んでない。
手を投石のように投げる。
グルグル、ポイっ
伸びていく手を追いかけるように体を移していく。
うん、これなら飛び移れるな。
でも距離感と着地場所の調整が難しい。
しばらく、枝を飛び移る練習をしながら周りを見渡していた。
だんだん慣れてきて、俺は、もっと柔らかく投げ、紙飛行機型から枝に着地するようになっていた。イメージは、ムササビだ。飛ぶというより横に落ちる感じ。
自分の体を掌サイズにまで縮める。葉の隙間を縫うように滑るような移動は静かだが、捕食されれば一撃だ。リスクはあるが、今は隠密行動を優先した結果だ。
慣れてきて、色々な生物を見ることができた。
とりあえず美味しそうなものは、食べていく。
しかしゴブリンは見当たらないな。
そもそもアイツらって群れ行動だよな?
注意深く探さなくても、痕跡くらい残ると思ってたのに。
草の倒れた所を見つけて、よく見たが地面に擦り付けたような跡がついてた。たぶんこれは、俺達スライムの痕跡だ。
グループ念話を使って他の偵察隊に何か見つけたか聞いてみる。「こちら特に形跡見つからず。誰か何か見つけた人はいますか?」
「こちら特に異常無し」
「特に無し」
「普通」
普通ってなんなんだよ。普段を知らねぇよ。お前らもしかしたら襲われるかもしれないのに危機感無さ過ぎないか? まぁいい。俺達はこんなもんだ。俺が人間の感覚があるから少し理解し合えないだけだ。
偵察は普段は二十匹くらい出てるらしい。サボりが多そうな時は三十匹の時もあると言う話だが、今日は被害も出てるため、十匹しか出ていない。しかも偵察慣れしてないメンバーだ。
一応各自に番号を振って誰の報告かわかるようにしたけど、さっきの報告は、誰も番号言わなかったな……
巣の方もグループ分けして、防衛方法を考えてくれと頼んであるが、大丈夫だろうか。俺達スライムはどこか抜けてるというか、適度な奴が多い。そういう種族なのかもしれないが、巣を守るためにはそうもいかないんだけど、どうなってることやら。
「あーこちら1番、美味しい生き物を食事中」
「1番食事の連絡はいらないが、周りに気づかれないように隠れてるのか?」
「木の上に隠れてたら目の前に来たのを食べたから大丈夫」
「わかった」
食事の連絡ってなんだよ……
「ズルい」、「俺も食べたい」
誰だ? 番号も言わずに話してもわからんよ。
「もうすぐ夜だから動き出すなよ。危険だぞ」
結局、今日はなんの成果も無いまま日が暮れてしまった。流石に夜は危険なので、木のできるだけ上で、魔力は抑えて潜むことにした。
魔力を抑えて、潜んでいると、本当にいろんな生物がいる。というかあのフクロウみたいなのが目の前を飛んでくのを見ると静か過ぎて寒気がした。
この森は、比較的危ないのか、安全なのか、さっぱりわからないが、やはり俺の知ってる世界と同じような生物は多々居るが、能力がおかしい。
デカい蚊だったり、痺れる鱗粉をばら撒く蛾だったり、糸でハントする蜘蛛だったり、よくこんな世界で生きてるなら俺って思ってしまった。
茸探しの旅と違い、偵察として色々と気を張ってるせいか、色んな生物が目に入る。あと今まで気づかなかったが、月が青い。
「ガッ……ガッ……」
「どうしました?」
突然ノイズみたいなのが、聞こえてきた。
しかしこんなことも見越して、対策済みである。
「番号!」
「1」、「2」、「3」、「5」、「6」、「7」、「8」、「10」
「4と9の反応が無い! 3と5!、8と10! お互いの間に何かいるかもしれない。警戒しながら、状況を確認して下さい」
「「はい」」
とりあえずこれで、様子見だな。俺達が自分でノイズ出したとは思えないから、念話を妨害するジャミングを発する何かが現れたということだろうか?
しばらく経ったが、連絡がこない。
偵察は、俺を除いて、10匹が扇形のような形で進んでいる。俺はその中心辺りまで、偵察をしながら時間を掛けて進んだつもりだ。
4と9が何かあったと仮定して、左中央と右側に問題があったことになる。そうなるとゴブリンは一つの群れじゃ無いということか、他の外敵にやられているのか、いや今の情報だけじゃ何かを判断するのは早すぎるな。俺はこの世界が未だよくわからないんだから。
「3、5、8、10は、応答できれば、何か報告を下さい」
「特になし」、「移動中」、「はい」、「見つからない」
「……いや、何? 移動中ってどういう状況だよ。見つからないって怪しいやつってことで良いんだよね? もう、報告の仕方も訓練するべきだな」
こういうのは偵察慣れしてないメンバーだからなのか、スライム達の性格なのか、いまいち掴みきれないな。
「おおよそ4と9の位置に着いたら待機して下さい。夜は危険が多いので、陽が登ってから痕跡を探りましょう」
「「はい」」
陽が登ってから各自に指示を出して、俺は10番側へ急いだ。10番に合流し、二人で辺りを探す。
「それらしい痕跡はありませんね。襲われたとしたら急襲されたのでしょうか? それとも痕跡を消すようなことができると思いますか?」
俺は10番の意見も聞きたくなった。
「わからない」
……
えっ? 終わり?
う〜ん、なんか考えを教えて欲しかった。
自分だけで考えてると考えがグルグルして進まないんだよなー
「では、俺は8番と合流してきます。引き続きお願いします」
「わかった」
10番さんは口数が少ないなー 眉毛が太いし、どっかのスナイパーみたいだ。
俺は8番さんにも話しかけながら移動を開始する。
しかし8番さんから返事が無い。返事が無いとどのあたりに進んで良いのか全くわからない。
そもそも目印の無い森の中だ。扇形に隊形を組んだつもりだが、それを保ててるかも怪しい。10番さんの時は、念話で数を数えてもらって、届く速度で、近づいているかを判断したから合流できた。
近づけば魔力視で、俺を探して貰えばわかるからね。
結局、誰一人として敵の痕跡を見つけられなかった。俺の初陣は、虚しくも空振りに終わった
俺は、みんな巣に戻るように伝えて自分も巣に戻った。
俺の作戦がダメ過ぎて被害が……出てしまった。