初めての別れ
初めての別れ
ようやく防衛蟻の巣に戻ってきた。
外の護衛蟻達が急いで巣穴に戻って行く。防衛蟻は巣穴一つしか作らないのかな?
しばらく外で護衛をしていたら、王女が巣穴から顔を出した。
「ソラ様〜、遅いですよ〜」
おい、王女! キミたちをみんなで守ってるんだから出てきちゃダメでしょ!
いつも通り、体ごと体当たりされる。
《王女、夜は危険です。 早く巣に戻って下さい》
王女は、顔を膨らませて、こちらを見る。
「ソラ様を待ってたのに……そんな言い方酷いです!」
《す、すみません、でも王女、声を抑えて下さい。夜は私でも危険なんです。早く巣穴に戻って下さい》
「わかりました。でもソラ様も一緒に来てください」
《いや、護衛が……》
「ダメです。ソラ様が一緒じゃなきゃ戻りません」
王女、声!
しかもなんで、急にそんなわがままに……
《わかりました。戻りましょう》
前と同じく、小さくなる。
そして気づいてしまった。
あっ……俺、迷子の時に小さくなってれば早く……
いや、あの時は、襲われたら危険だった。
そう、決して忘れてたわけじゃない!うん。
俺は無かったことにした。
王女と女王の間に行くと、女王も歓待してくれた。
護衛隊長は寝ているらしい。ヨシっ!
護衛隊長の説教が無いことに、内心ホッとしながらも、女王に一通り事情を説明して、護衛に戻る。何やら王女が言っていたが、本来の約束は護衛なんだと振り切ってきた。
それから巣が完成するまでの数日間、護衛を続けた。
護衛中に王女が来たり、女王が来たりで、ドタバタだったけど、特に被害もなく無事巣穴が出来た。
巣が完成してビックリなことがある。最初の巣穴の上に三メートルくらいの城が建っている。俺よりデカい。しかも砲台みたいなのも見える。
なるほど、防衛蟻の防衛とは、こういうことか……確かに!と一人で納得してしまった。そして改めてこの世界の危険性が、普通じゃないと理解した。
確かにもの凄い速度で、休憩所を作ったのに、コロニーは二日も掛かると言われた時は意味がわからなかったが、これは納得だ。
ちなみに地下の巣は、三メートルどころじゃないらしい。ここは、防衛拠点だから王女を守る部屋以外はそこまで重要じゃないらしいが、侵入された時の為に罠部屋や壊して、閉じ込めるための部屋などがあるらしい。
怖っ!
今日で護衛も終わりのため、皆外に出てきてる。
城の上にも護衛を兼ねてるのだろうが、大勢の蟻がこっちに手を振ってる。
「ソーラ、ソーラ」
歓声が凄い。なんか恥ずかしいわ。
テレテレしてたら、護衛隊長がそばに来て、“ありがとうございました”と言ってくれた。その後“迷子が……”とか聞こえてきたけどスルーだな。
「ソラ殿、護衛ありがとう。 大臣アレを」
女王の声に隣にいた防衛蟻が、ロイヤルボールをこちらへ手渡してくれた。
俺は、女王と渡してくれた蟻に手を伸ばし、お礼を告げた。
《女王様、貴重なものをありがとうございます。また今日からまで、一緒に過ごした日々は、大変貴重でした。ありがとうございます。》
「うむ、被害なく、コロニーが出来たことは、防衛蟻の歴史上初めてのことだと思う。こちらこそ非常に感謝している」
お互いに握手をした。そして王女がむくれている。
「ソラ様は、ここに留まってくれると思っていたのにー」
王女が、指で俺の体を摘んでくる。
何故だ。元々、護衛だけの話だったじゃない。こんな狭いとこにいたら、体が固まって金太郎飴みたいになっちゃうよ。
《王女様、ありがたい言葉ですが、私にもやらなければいけないことがありますので》
そう、キノコ取りも役目なのだ。忘れかけてたけど……
「そうですね。ですが、また必ず来てくださいね」
「そうだ! ソラ殿、このまま護衛を続けて、私の拠点を見てみないか?」
女王の拠点か〜
正直、興味はあるけど、防衛拠点って、まだ結構作るって話だし、大分時間かかりそうだよね?
だから丁重にお断りしておいた。
「そうか、残念だな。本当に残念ではあるが、プレゼントも頂くし、今日の所は諦めるとしよう」
はっ……?
プレゼントってなんですか? そんなもん用意してませんけど? えっ、この世界の常識か何かですか?
慌ててると女王が、続けてくれた。
「ソラ殿、約束を忘れるのは頂けないな。 名前をくれる約束だろう?」
……
マジですか……忘れてましたよ。
なんかいい名前……女王だしな。適当に付けたら処刑される可能性もあるよな。
《レギーナでどうですか》
どこの言葉かわからないが、確か女王って意味だったと思う。
「レギーナ?」
ポカンってされた。
ダメだろうか…… 思いつきだしな〜 ダメか。
他人の名前なんて責任重いんだよ。
女王は、何かモジモジしている。
「ソラ殿。その……」
あぁ、凄い言いづらそうにしてる。
そりゃ、付けてってお願いしといて、ダメとも言いづらいよなー
「別れの言葉は、名前を呼んで貰えないだろうか」
……へっ?
「お母様! 自分だけ済ませてズルいですよ! ソラ様、まだ私の名前をお伺いしてません!」
おぉっ、圧!
ちっちゃいのに圧が凄い。
《じゃあ、王女様には、フィリアでどうでしょうか?》
こちらは娘みたいな意味があった気がする。
あれっ……
ダメ? なんか泣いてない?
「あ゙ りがどうございまずっ!」
あっ、いいんだね。
いいんだよね?
嫌な名前だから泣いてるとか言わないよね?
ちょっと、俺、感情が旅に出ちゃったんだけど。
どうしたらいいのかな。
「わ゙ だじも名前でお別れしたいです」
俺は、王女の熱さに若干戸惑いながら別れの挨拶をした。
《では、レギーナ様、フィリア様、お世話になりました。 またお会いしましょう》
俺は、相手の反応を待たずに、振り向き歩き出した。
だって、良かったのか、悪かったのか、聞くの怖い。
さっさと立ち去ろう。
うん。
しばらく歩いて振り返ったら、まだ皆で手を振ってくれていた。正直、この弱肉強食世界では危ないから早く戻って欲しいが、初めて出来た友達だと思うと感動していた。そして、徐々に寂しさが込み上げていた。
俺もめっいっぱい、手を振ってその場を去った。
さて、キノコを目指そう。
でもその前にアレを食べようかな。
ふふっ、これは期待しかない。
魔力の塊だぞ。体がゴールドに光っちゃうかもしれない。
ロイヤルボールを吸収すると、自分でもビックリするぐらい体が光った。
《えっ!?》
自分の魔力は見えないのに魔力の光が見えたんだけど……
俺は驚きを隠せなかった。
でも来たよ、来たよ、絶対進化的なヤツでしょ!
……
体は、しばらく光っていたが、特に何も起こらない。
周囲を見回す。何も変わらない。自分を見ても、何も変わらない。
変わったのはテンションだけだった。無駄に上がって、無駄に落ちた。絶対なんか起こると思ったのに。
結局何も変わらなかった。光も消えてしまった。
なんだよ!なんか起これよ。期待しただろ!
まぁ気にしたら負けだな。
ん〜負け――無理だよ。気になるよ。
俺は少し悲しんだ後、気を取り直した。
さぁ! キノコクエストの再開だな。
――――
結局、五日も掛かってしまった。
目の前には、洞窟の入り口。
うーん、なんか、自分の家に帰ってきたみたい。
ウリ二つ過ぎないか?
まぁとりあえずキノコを取ろう。
アレ……、コウモリの巣を抜けた後にあるって話だったから入り口近くにあるんじゃないの?見当たらないが。
実際入ってみると、スライムの巣の洞窟より湿気が多い気がする。あちらこちらからピチャ、ピチャって音が聞こえてくる。
少し奥へ足を踏み入れた瞬間だった。
「キィィィィ……」
高い、甲高い音が響いた。空気が振動するような不快な音。思わず身を引いた。
このまま進んで、大丈夫なのか。
キノコ持ち帰ると戦いにくいから、コウモリの巣の近くなんて絶対採取不能だぞ。
そういえば、あの痺れ茸スライムは、どうやって採取したんだ? 少なくても最初は、俺と同じスライムだったはずなんだよな……
本当にここで採取したのか?
もういっそ無かったことにして帰るか。
俺は奥に進むのに、嫌な予感がしていた。
ロイヤルボール…
もう少しいい名前を思いつきたかった