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憧れの先輩のパパ活現場を目撃してしまった僕、大人のお姉さんに拾われる。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
三章

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06 小学校の通信簿には『人の話はよく聞きましょう』と書かれた口

 ユエさんはこの状況をニヤニヤしながら楽しんでいるし、カグヤ先輩も期待に満ちた様子でこちらを伺っている。


 この状況で話をはぐらかせるだけの話術もなければ、強引に打ち切る胆力も僕にはなかった。


「カグヤ先輩の仰るとおり、あの手紙は女子からの呼び出しでした」


 渋々口を開いた僕に、「おぉ!」と歓声が上がる。


「ちなみに僕の下駄箱、コウくんの一つ下なんですよ」


「あぁ……入れ間違えだったオチ?」


 一気にテンションを落としたサチさんが、つまらなそうに口を尖らせる。


「コウくんはもう帰ってるから、このままだと待ちぼうけじゃないですか。だから入れ間違いのこと、伝えに行ったんです」


「テルくんは優しいね」


 カグヤ先輩はしみじみとした口調で言った。


「そしたら校舎裏には、ちゃんと女子が待っていて……僕に気づくと」


 もったいぶるつもりはなかったが、一度息をついてから続けた。


「『来てくれて、ありがとうございます。若井先輩』って」


 さっきより更に大きな「おぉ!」が飛び出し、場の空気が一気に沸き立つ。


「ねえねえ、どんな子どんな子! 可愛い?」


 ユエさんがはしゃぐように身を寄せてくる。


「クラスで……いえ、学年で一番可愛い子だって紹介されても、納得できるような子でした」


「やっぱり決定打は、わたしのプロデュース力かな」


 ユエさんは、手塩にかけたアイドルが認められたかのように鼻高々だ。カグヤ先輩は「あぁー、あの子かー」と思い当たる様子で、まるで身内の祝い事のように嬉しそうだった。


 その横で、サチさんだけが妙に落ち着いた声で呟いた。


「その様子だと、愛の告白だった、ってわけじゃなさそうね」


「なんでそう思うんですか?」


「受けるにしろ断るにしろ保留にしろ、仮にも可愛い子から告白されたなら、照れた顔のひつくらい見せるでしょ。ツバメくんの性格的にさ」


「よく見ていますね」


 その観察力に感心していると、ユエさんが「え!」と驚きの声を上げる。


「そこまで思わせぶりなことされておいて、告白じゃなかったの!」


「僕も、まさかとは思ったんですけど……勘違いしちゃうのも、仕方ないですよね?」


 同意を求めるような口ぶりで、思わず言い訳めいた言葉がついて出た。


 ユエさんは納得いかなそうな表情を浮かべる。


「じゃあ結局、なんのためにツバメくんを呼び出したの?」


「もしかして、来光くんとの仲を取り持ってほしいってお願い?」


 カグヤ先輩の問いかけに、疲れたようにかぶりを振った。


「むしろそのほうが、どれだけよかったか……」


 そう肩を落とすと、数時間前の出来事が脳裏に蘇ってきた。


「私は、あなたのことを――」


 その先に続く言葉を前に、気づけば全身に力が入っていた。


「攻めだと思ってるんです!」


「……攻め?」


 調子外れな声が漏れた。まるで座ろうとしていた椅子が引かれたような感覚。その場で尻もちをついて、なにが起きたのか頭が追いつかない気分だった。


 すると新入生は早口でまくしたてる。


「はい! でもみんな、印象だけで若井先輩を受け扱いして、攻め派の私たちを否定してくるんです! じゃあ、その確信を持てるような交流を、若井先輩としている人がいるのかって聞いたら、そんな人ひとりもいないんですよ。それなのに『若井くんが攻めはありえないから』って頑なに否定して――本人のことをなにも知らない人が、そうやって決めつけるのって、若井先輩にも失礼だと思いませんか!?」


 失礼だと言うのなら、本人のいないところでそんな話題に花を咲かせているほうが、よほど失礼である。今すぐそこに除草剤をぶちまけたい。


 そしてその失礼さを感じた瞬間に、僕はこれがなんの話かを察してしまった。


「私たち攻め派は、別に若井先輩が受けであることを否定したいわけじゃないんです。許せないのはあくまで、受け派の弾圧的な姿勢っていうか……人の好みを馬鹿にするような、その態度なんです!」


「当人としては、そんな話が裏でされていること自体、許したくないけどね」


「でも、私たちは少数派だから……主流派の声の大きさには勝てなくて……。私、悔しくて悔しくて。休み明けからずっと、それでもやもやしちゃって……」


 まるで迫害された弱者のように、めそめそと語る新入生。僕の言葉など、まるで耳に入っていない。


「そこまで否定されるくらいなら、いっそ答えを求めればいいと思って。だから……迷惑なのを承知で、若井先輩をお呼び立てしたんです」


「迷惑じゃないって言ってあげたかったけど、ごめん。普通に迷惑だから、この話に巻き込まないでくれない?」


「お願いします、若井先輩! 攻めか、受けか……どうか私に、真実を教えて下さい!」


 新入生はすがるように深々と頭を下げた。たぶんこの子、小学校の通信簿には『人の話はよく聞きましょう』と書かれた口だろう。


 攻めであるなら受けがいて、受けであるなら攻めがいる。


 それは、僕に相手がいる前提の話だ。


 そしてその相手こそが、彼女たちの本当の主役なのだと、僕はわかっていた。


 今すぐ回れ右をして帰りたかった。


 仏心を出した数分前の自分を恨みたい。


 神に祈るような気持ちで「誰か助けてくれ……」と天に救いを求めていると――


「こらー、そこー! 『当人たちへの接触は、絶対不可』の戒律を破ってるわね!?」


 二階の窓から、怒声が降ってきた。


 そこには三人の女子がいて、今にもそこから飛び降りて、食ってかかってきそうな眼差しで新入生を睨んでいる。


「ウォッチャー……! もう嗅ぎつけてきたっていうの!?」


 新入生はウォッチャーと呼んだ存在から顔を隠すように、腕で自分をかばった。


「その行動は、神聖なる均衡への冒涜よ! 今から会員資格を剥奪するから、そこで待ってなさい!」


「くっ……あと少しだったっていうのに……!」


 言うほど、あと少しだっただろうか?


 新入生は悔しそうにその場から飛び出していき、途中で思い出したように振り返った。


「若井先輩! 私、応援していますから!」


 そう言うと、


「攻め派に栄光あれー!」と叫んで、僕に徒労だけを置き去りにしていったのだった。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
並行して連載しておりますので、こちらもお目通し頂ければm(_ _)m
― 新着の感想 ―
予想はしてたけど言っちゃうあたりド失礼なやつだな… 好きになれないタイプのモブだ
うん、これは予想はできたけれど。 百合は女も男も書いて読む。でも、薔薇は読むのも書くのも女だけだ、ということを理解していない腐れた人種の多いことよw
わかりやすく盛り上がる展開を段取り良く書いていただけているので、応援してます!は予想できてたけど、それを上回るパンチのある第一声、大変笑わせていただきました。 言われてみれば、応援だけじゃなくて派閥が…
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