表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れの先輩のパパ活現場を目撃してしまった僕、大人のお姉さんに拾われる。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
三章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

72/80

04 私は、あなたのこと――

 ゴールデンウィークが明けて、学校はすっかり平常運転に戻っていた。


 休みボケで気が抜け、授業中はぼんやりしている生徒も少なくない中で、僕の気持ちはむしろ引き締まっていた。まるで乾いたスポンジが水を吸い込むように、授業の内容がすっと頭に入ってくる。


 それもこれも、連休前に抱えていた数々の悩みが、一通り片付いたことが大きい。


 ユエさんのペットロスは落ち着き、ひじりんの目覚めはアカウントの乗っ取りで幕を下ろし、切腹した店長からもきちんと給料が支払われることになった。


 そしてなにより、一番胸に引っかかっていたカグヤ先輩のパパ活問題が、ただの誤解だったとわかった。


 家が焼けて、大人のお姉さんのヒモになった事実だけが残ったものの、それを含めて今の僕には、学校にまで持ち込むような悩みはなかった。


 この調子で夏休みまで駆け抜けられれば、それでいい……そう、思っていたのだが。


 それは問題と呼べるほどのものではない。悩みというには、あまりにも些細だ。


 けれど、胸の奥で「ん?」と首を傾げたくなるような、妙な違和感があった。


 連休明けから、どうもやけに人の視線を感じるのだ。


 僕を見て、なにやらこそこそと話している気配もある。


 これをサチさん相談しようものなら、「アルミホイルを頭に巻きなさい」とありがたい助言を頂くことになろう。


 被害妄想、あるいは思春期特有の自意識過剰。そう言われてしまえばそれまでだ。


 そうした自覚はあるものの、喉に刺さった小骨のような違和感は拭いきれず、「なんだかなー」と思いながらも誰にも話さないまま、金曜日を迎えた。


 放課後、コウくんに頼まれて掃除当番を代わり、昨日よりも三十分ほど遅い下校となった。


 帰りのホームルーム直後とは違い、下駄箱前はすっかり人の波も引いていて、どこか時間がゆっくり流れているようだった。


 下駄箱から外靴を引っ張り出したとき、不意になにかがふわりと落ちた。


 目で追うと、それは折りたたまれた便箋だった。


「……コウくんの下駄箱と間違えられたな」


 ドキリと胸が跳ねることもなく、一つ上の段に収まっているコウくんの上靴をちらりと見て、僕はそうぼやく。


 封筒には入っていない。差出人の名前も、宛名もない。


『伝えたいことがあります。


 放課後、校舎裏で待っています。』


 中身は案の定、簡素なものだった。


「困ったな……」 


 二年、三年の女子がコウくんを呼び出すなんて、今更できることじゃない。無茶や無謀を通り越して、恐れ多いという言葉を使うレベルだ。


 だから、こんな簡素な手紙で呼び出そうとするのは、新入生だろう。


 このまま手紙をそっと戻して、見なかったことにすることもできた。


 けれど、今もその送り主は、校舎裏で待っているのかもしれない。


 告白のために呼び出すには、それなりの覚悟が要ったはずだ。それなのに、相手が来てくれなかったら……それはきっと、辛いだろう。


 だったらいっそ、下駄箱を間違えたことを伝えてあげたほうがいい。恥ずかしい思いをさせるかもしれないが、惨めな思いをさせるより、ずっとましだ。


 悩んだ末にそう結論を出し、僕は校舎裏へと向かった。そこに足を踏み入れると、まだ陽の高い午後の光が、白い壁面に淡く反射していた。


 遠くで部活の掛け声が聞こえてくる。


 そんな中、制服姿の女子生徒がひとり、こちらに背を向けて立っていた。


「あ……」


 (ひと)の気配に気づいたのか、彼女は振り向き、小さく息を飲んだような顔をした。


 その表情が落胆に変わる――と思ったが、


「来てくれて、ありがとうございます。若井先輩」


 嬉しそうに微笑んだのだ。


「え……?」


 呆気に取られる僕の前には、緑のリボンが揺れていた。それは紛れもない新入生の証だ。


 しかも、どこか人目を引く華やかさがある。クラスで一番可愛いと言われても納得できるような雰囲気。なのに、その笑顔にはどこか親しみやすさもあった。


 そんな彼女が、たしかに言ったのだ。若井先輩、と。


「えっと……コウくんの下駄箱と、間違ったと思って来たんだけど……」


「いえ、間違っていません。私が手紙を入れたのは、たしかに若井先輩です」


 ゆっくりと首を振ったあと、彼女は深々と頭を下げた。


「面識もない間柄なのに、お呼び立てしてしまって、申し訳ありません」


「いや……それは別にいいんだけど……」


 間違いでもなく、面識もない。


 なのに、なぜ?


「ダメなことは……わかってるんです。迷惑をかけるくらいなら……このもやもやとした気持ちを抱えたまま、今まで通り、遠くから見てるだけのほうがいいって」


 彼女はどこか後ろめたそうに、僕の足元に視線を落とした。


「それでも……どうしても若井先輩の口から聞きたくて。迷惑ならそう言ってもらえれば……この気持ちにも、ちゃんと諦めがつくから」


「……えっと、ごめん。君がなにを言いたいのか、ちょっとわからないや」


 僕は後頭部を撫でながら、逃げるように視線を逸らした。


 ……いや、本当はわかっていた。


 彼女のような可愛い子なぜ、なんて信じられない気持ちや謎はあるけれど、ここまで言われて察せられないほど鈍くはない。


「若井先輩」


「は、はい!」


 その声に込められた決意に、思わず姿勢を正した。


 緊張で、胸の鼓動がやけにうるさく響く。


 まずは、彼女の言葉を最後まで聞こう。


 その上で、自分なりの答えを探せばいい。


「私は、あなたのこと――」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
並行して連載しておりますので、こちらもお目通し頂ければm(_ _)m
― 新着の感想 ―
BLを後押しするんだったら下手なヤンデレよりやべぇ……。ナマモノを楽しむことを本人に知られていいことなんてないだろうに……。
『応援』されちゃうの!?…ひええっ!怖いよぉ(わくわく
BL疑惑でも高まってきているのか…?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ