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憧れの先輩のパパ活現場を目撃してしまった僕、大人のお姉さんに拾われる。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
二章 残ったものは

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20 前世は壺かパワーストーン

 ママ活疑惑からのパパ活疑惑の追求、そしてヒモ生活の発覚と、二転三転しながら、大人たちの茶々が絶え間なく挟まる展開。ひとまずすべてが丸く収まったことで、テルの緊張がほどけ、腹痛の波が襲ってきた。


「すみません、ちょっとトイレ行ってきます」


「いっといれー」


「うわっ……」


 サチの恥じらいの欠片もないオヤジギャグに、テルは浅い呻きを漏らしつつ、早足で部屋を後にした。


 バタン、と扉が閉まる。残されたのは、リビングに残された女三人だけだった。


 その機会を待っていたかのように、ユエは申し訳なさそうに眉尻を下げた。


「ごめんね、カグヤちゃん」


「え? なにがですか?」


「ツバメくんが、わたしと一緒に暮らしていること。カグヤちゃんにとっては、面白くないしょ?」


「最初は心配で気が気じゃなかったですけど……今となっては、なんだか面白いことになってるなーって思ってます。なにせ、あの夜桜ルナと暮らして、ひじりんの中の人と交流までしてるんですから」


「うーん、そういうことじゃなくて……」


 愉快そうに笑うカグヤに、ユエは頬を掻きながら困ったように返した。


「ひとりの女として、って意味でさ」


「ひとりの女として?」


「ほら。カグヤちゃん、ツバメくんのこと好きなんでしょ?」


「大好きですよ。なにせテルくんは、一番のお友達ですから」


 得意げに胸を張って言い切るカグヤ。


 だが、年頃の恥じらいのないその明るさが、逆に噛み合わないもどかしさとなって、ユエの問いは続く。


「そういう好きじゃなくてさ……恋愛感情としてって意味で、持ってるでしょ?」


「恋愛感情?」


 ぽかんと小首を傾げたまま、カグヤは不思議そうに返す。


「テルくんに、そういう気持ちはありませんよ?」


「嘘でしょ!?」


 思いがけない返答に、ユエは思わず仰天した。


 カグヤは驚いたように戸惑いながら、小さく両手を振った。


「嘘でしょって……え? え? なんでそんな誤解されてるんですか、わたし……?」


「いやいやいやいやいや……誤解どころか、カグヤちゃんの行動全部から、恋と愛が溢れてるってば!」


「行動から溢れてる?」


「さっきも『わたしにはテルくんしかいないのー!』って、彼氏に捨てられそうな彼女みたいに縋ってたし」


「うっ……そ、それは……」


 自らの行動を思い出して、カグヤは口をつぐむ。だが、その表情には、想いを隠そうとする乙女の恥じらいはなかった。


「たしかに、ああやって縋っちゃいましたけど……実際、わたしにはテルくんしかいないんです」


「いないって……友達は他にも、いっぱいいるでしょ?」


「いますけど……わたしの苦労をわかってくれて、ちゃんと受け止めてくれる友達は、テルくんだけなんです」


「はっはーん、なるほど」


 サチはすべてを悟ったように頷いた。


「ギャルザベスとしての生活で溜まるフラストレーション、全部ツバメくんで発散してるわけね」


「フラストレーションって……。そう言われたら……そういうことです」


 反論も否定もしきれず、カグヤは渋々と、だが素直にその言葉を認めた。


「その様子だと、わたしの身の上について、テルくんから聞いているんですよね?」


「オタクに優しいギャルものかと思ったら、ギャルのオタクもので。しかしその実態は、高校デビューしたヤンキーの成り上がりものみたいな感じでしょ?」


「さすがひじりん、たとえかたが的確だなー。……大体、そんな感じです」


 カグヤは疲れたように肩を落とした。


「誤解されてるって気づいたあの日から、ギャルの仮面を被り続けてきたんですけど……気づけば引き返せないところまで来て。ギャルとしてのカグヤがどんどん神格化されちゃって……正体がバレて、『よくも騙したな』って責められる悪夢まで見るようになって……それがどんどん重くのしかかってきて……」


「そこまで追い込まれてるなら、家族に相談するとか、愚痴を聞いてもらうくらいしたほうがいいよ。そういうの、溜め込むと毒になるから」


 ユエがアドバイスすると、カグヤはゆっくりと首を横に振った。


「わたし、地元にいた頃は典型的な陰キャ女子で、オタク趣味に没頭してて……ギャルにイメチェンして、ギャルのグループにいるって伝えたときは、さすがに両親も驚きましたけど……でも、それまでがそれまでだったからなのか、逆に今のほうがいいって言って、喜んじゃって。『大変かもしれないけど、そのうち慣れるよ』って、わたしの苦労を話半分でしか聞いてくれないんです」


「まあ、表向きは順調に見えるもんね」


「お姉ちゃんはお姉ちゃんで、わたしを更なる高みに押し上げようってノリノリだから……相談相手にはならないし。お兄ちゃんがいてくれたらって、何度思ったことか……」


「今回ホテル取ったってことは、こっちには住んでないんだ?」


「外資系の仕事であっちこっち飛び回って、忙しい人なんです。昔からすごく可愛がってくれた、大好きなお兄ちゃんで……。この前会ったのも小六以来だったから、ついついテンション上がっちゃって」


「あー、それで小学生のときのノリが出ちゃったんだ」


 カグヤは反省するように、無言で大きく頷いた。


「別に、誰かを責めたいって気持ちがあるわけじゃないんです。みんな、基本的にはいい人たちで……楽しいことも沢山経験させてもらってますし。前のような陰キャのまま成長して、社会に出たら、きっと今より対人関係で苦しんでいたんだろうなって。だから……この二年で、ある意味ちゃんと成長はしてはいるんですよね」


「それは絶対あるわね。社会に出たら、『君は陰キャだから仕方ない』なんて配慮はまずされないし。陽キャになれとは言わないけど、そういうノリに慣れてたほうが、後々楽よ」


 と、サチが軽く口を挟んだ。


「そんな風に折り合いつけながら、ひっそりと推し活、オタ活に励んでいたら……出会っちゃったんです。わたしの正体を知っても、後ろ指を差すことなく、この苦労を理解して受け止めてくれる人に」


「それがツバメくんだったわけか」


「はい!」


 ユエの言葉に、カグヤは晴れやかな笑顔で頷いた。


「推しは違えど、同じV好き仲間として初めて語り合える友達ができて……あの日から、毎日が楽しくて、輝いて見えて。あれだけうなされていた悪夢も、気づけば見なくなっていました」


 カグヤはその出会いに感謝するように、胸元で両手を組む。


「もし正体がバレて、みんながわたしのことを否定してきたとしても、テルくんだけはきっと見捨てないでいてくれる。わたしを受け止めてくれる。すべてわかってもらえると思えたら、前よりずっとポジティブになれたし、なにをやっても上手くいくようになったんです!」


「ツバメくん効果凄いねー」


「きっとツバメくんの前世は、壺かパワーストーンね」


 感心したような、でもどこか他人事めいたニュアンスで、ふたりの大人はそんなことを口にした。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
並行して連載しておりますので、こちらもお目通し頂ければm(_ _)m
― 新着の感想 ―
「ギャルザベス」を読む度、銀魂に登場する白いアイツが脳裏に浮かぶのだがw
オタクだからわかってないのは仕方ないのかも。 それにしても、彼に関わった人はみんな幸せになっているとも言えるから(店長……)あながち前世も外していないのかも。
ユエ•サチ「(こ、コイツ無自覚やんけ〜!)」
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