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憧れの先輩のパパ活現場を目撃してしまった僕、大人のお姉さんに拾われる。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
二章 残ったものは

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08 ギャルの仮面

「今更、わたしはギャルじゃないです。ただの陰キャでヒィ担なんですって、言えるわけもなくてさ……その日から、ギャルの仮面を被る日々が始まったの」


 遠い目をしながら、カグヤ先輩は小さく息をついた。


 こうしてカグヤ先輩は、性格とは裏腹のクラスの一軍女子――ギャルとして生きることになったのだ。


「楽しいことも、もちろん沢山あるんだよ。今までの自分じゃ絶対できなかったキラキラ女子高生ライフは、それなりに満喫してるし。でも……仮面の裏ではいつも、正体がバレたらどうしようって震えてるの。『よくも今まで騙してくれたな』って責められる夢で、飛び起きることは何度もあった。今朝もそうやって起きたくらい」


 両手のひらを広げながら、カグヤ先輩は伏し目がちに、それを見つめた。


 僕はふと思いついた疑問を投げかける。


「じゃあなんで、モデルなんてやってるんですか? そんなの、わざわざ死地に飛び込むようなものじゃないですか」


「街でスカウトされて、みんなに持て囃されて、貰った名刺を従姉妹(おねえちゃん)に見せて……気づいたらこうなってた」


「気づいたらでこうなるもんですか?」


「なっちゃったんだ……」


 カグヤ先輩は力なく項垂れた。


 どうやらギャルの友達たちが「モデルデビューしたカグヤをみんなでバズらせよう!」という軽いノリで、色々と画策していたらしい。その遊び心はどんどん広まり、学校内での名声が雪だるま式に膨らんでいき、やがてネット上にまでその勢いが波及。そこに運が味方にしたのか、それともツキに見放されたのか――カグヤ先輩は、ギャルモデルとして売れてしまったのだ。


 あの『ギャルザベス』の異名も、友人のひとりが「カグヤが売れたとき、普通のカリスマギャルじゃつまらんよね」と言い出したのが発端らしい。彼女たちが、SNS上でギャルザベスギャルザベスと持て囃す内に、そのまま雑誌に採用されてしまったそうだ。


 そうやって、正体がバレるのが怖くて続けてきたギャルの仮面が、期待と羨望によってどんどん高みに押し上げられて、ついには引き返せないところまできてしまった――というわけだ。


「すごい話だなぁ……」


 呆気に取られながら僕は言った。


「でも、ここまで来たら、もう本物ですよ。もっと、自分に自信を持っていいと思いますよ」


「ううん、わたしの中身は、地元にいた頃からちっとも変わってない。ただね、みんなが神格化した理想のカグヤ像に追い立てられているだけ。それに捕まったら、『よくも今まで騙してくれたな』って裁かれるのが怖くて、足を止められないだけなの」


 ため息混じりにそう語る姿には、どこか擦り切れたような儚さがあった。


 話を聞き終えたサチさんが、悩ましげに顎に手を当てた。


「オタクギャルのテンプレラブコメものかと思ったけど……前日譚の構造が、ヤンキー漫画の成り上がりものね」


「ヤンキー漫画?」


 ユエさんは不思議そうに首を傾げる。


「こう、高校デビューした主人公がね、不良に絡まれるんだけど、ハッタリと機転、そして運で乗り切っていくうちに、気づけば界隈のトップに立っちゃうの。タイトルは、『最強ギャル伝説カグヤ』で決まりね」


「その作品、主人公が打ち切りを望んでますよ」


「ジャンプで連載したのが運の尽きね。人気作品の引き伸ばし、ほんと酷かったから、昔は」


 サチさんは他人事を肴に、美味しそうにビールを飲んでいる。


「うーん……」


「どうしたの、ユエちゃん?」


 ユエさんがまた唸るような声を上げているので、サチさんが尋ねた。


「実はさ、その先輩ちゃんのパパ活、本当は違うんじゃないかなって、ずっと思ってたの」


「ほう、それはまたどうして?」


「ツバメくんが貰った誕生日プレゼントの財布。先輩ちゃんとお揃いブランドらしいんだけど……ちょっと、さっちゃんに見せてあげてくれる?」


 ユエさんに促され、僕は財布をサチさんに渡した。それを軽く観察した彼女は、意外そうに声を上げる。


「なんか思ってたのと違うわね」


「違うとは?」


 僕が聞き返すと、サチさんは財布を返しながら言った。


「ギャルザベスっていうくらいだからさ、十万、二十万するようなハイブランドを想像してたのよ。でもこれは、そこまでのものじゃない。高校生が使っていても悪目立ちしないラインのものね」


「今使ってる財布、入学祝いに従姉妹から貰ったものらしいです」


「そんな感じだから、先輩ちゃんって多分、ブランド品に執着ないと思うんだよね」


 僕がそう補足すると、ユエさんは頷きながら続けた。


「専属モデルってことは、高校生にしては相応の稼ぎはあるはずでしょ? そんな子が、わざわざパパ活みたいな身体の安売り、するかなって」


「一番の趣味もヒィたんだしね。グッズやイベントにかけるにしても、ハイブラ収集と比べたらかかる金額なんて知れてるし。ま、日頃から赤スパを投げてるなら話は別だけど」


「その手の認知されたい欲求はないそうです」


 僕がそう答えると、サチさんはうん、と頷いた。


「で、パパ活じゃないなら、ユエちゃんはなんだと思ってたの?」


「枕的なやつ」


 サチさんは膝を軽く打ち、「あー、そっちのほうが可能性ありそうね」と声を上げた。


 一方でユエさんは、先程の自分の言葉を振り払うように小さく首を横に振る。


「でも今の話を聞いたら、それもないなーって思った」


「ギャルザベスは、望まぬ高みだもんね。じゃあ、すべては見間違い。ツバメくんの見たのは、白昼夢だったとか?」


「さすがにカグヤ先輩を見間違えたりはしませんよ」


 見間違いであってほしいという願望はあっても、僕はしっかりと首を振った。


「ま、そこを疑ったら、前提が崩れちゃうしね。先輩ちゃんの気質的に、パパ活でなければ枕もありえない。なら、ツバメくんが見たものって、一体なんだったのかしらね?」


 サチさんは酔いの滲んだ目を、ゆるりとユエさんへ向けた。


「なんか、思いついた顔ね」


「もしかして、真剣交際なんじゃない?」


 ユエさんは水滴を帯びたグラスをなぞりながら呟いた。


「真剣交際?」


「本人にとっては、だけどね」


 信じがたい思いで問い返すと、ユエさんは首を傾けたまま付け加えた。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
並行して連載しておりますので、こちらもお目通し頂ければm(_ _)m
― 新着の感想 ―
真剣交際でもアウトじゃね?w 主人公的にも別の意味でも
盲点というか、面白いところにお姉さんたちの推測がきましたね 楽しみです
どっちでも、彼にとってショックなのは変わらないでしょうが。 さてさて、真実は如何に。
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