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憧れの先輩のパパ活現場を目撃してしまった僕、大人のお姉さんに拾われる。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
二章 残ったものは

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03 立てば牛タン、座ればカルビ、歩く姿は上ハラミ

「あー、さっちゃん久しぶり!」


 その焼肉店に入ると、甲高い声がサチさんを出迎えた。推定三十前後、ふくよかで


マシュマロを思わせるような女性だった。


「おひさー、ハラミさん。元気してたー?」


「それはこっちの台詞だって。ほら、さっちゃん……ついに目覚めちゃったろ?」


「目覚めてない、目覚めてない」


 サチさんは大げさに手を振った。


「海外に高飛びしていただけ。帰ってきたら、あの有り様よ。びっくりしたわ」


「まー、あたしからしたら、生涯鎖国を掲げてたさっちゃんが、高飛びしたことがびっくりよ。田舎に引っ込むならともかく、またなんで海外?」


「久しぶりにマスターに連絡取ったら、こっちに来いって手引きされちゃったの」


「あー、マスター! なっつかしいわねー。元気してた?」


「元気も元気よ。まー、忙しくあっちこっち回ってるから、なかなか遊んでもらえなかったけど――って、そうそう。聞いてよ。マスター、実は男だったの!」


「嘘ーっ!? マジ!?」


「マジマジ。私たちが見ていた姿は、人体改造を施した後だったのよ」


「うわー、疑いもしなかったわ……」


 ユッケさんは口元を覆って、唖然としている。


 初っ端からアクセル全開の会話の応酬に、僕は呆気に取られていた。


 すると、ハラミさんの目はギョロリと僕を捉えた。


「ていうか、その可愛い子は誰よ」


「我が名誉聖徒よ」


「あらあらあらあらー。さっちゃん、ついにファンに手を出しちゃったのね。しかも……DK?」


「なんと、十六歳ほやほやのSDKよ」


「まさに食べ頃じゃなーい。通報しますた」


「まだ手は出してないからセーフですー」


「まだ? 正体、現したね」


「おまえを食べるためだよ! って狼になりたいところだけど、その子にちょーだいしてもくれないのよね」


「あー、そういえば今日、三人だったわね」


 今更気づいたように、ハラミさんはユエさんに目を向けた。


「会社の子?」


「違う違う。ただの友達よ」


「……さっちゃん、友達、いたの?」


「いますー! いっぱいいますー! たっちんでしょ、神風でしょ。ユッキー、白濱、ふーみん、ところ天女に――」


「ウェイウェイウェイッ! さっちゃん、さっちゃん。一番のまぶたちの名前、もしかして忘れてない?」


「おっと、私としたことが。紹介するわ。まぶたちのユエちゃんよ」


「どうも。まぶたちのユエです」


 サチさんに急に話を振られたユエさんは、戸惑うどころか臆することなく頭を下げた。そのノリのよさは、きっとバラエティで培ったのだろう。


 だから、そのままテンポよく次の話を振る。


「で、さっちゃん。この人は、お友達?」


「まっさかー。私だって、友達くらい選ぶ権利あるわよ。そもそもの話、そんな趣味が悪いと思う?」


「そうそう、さっちゃんにだって友達を選ぶ権利が――って、誰が趣味悪い相手だ!」


「わー、うけるー」


 ハラミさんのコテコテのノリツッコミに、サチさんは棒読みで応じた。


「この人はね。私の前世、『さっちゃん』として活動していた時代の、配信仲間よ」


「立てば牛タン、座ればカルビ、歩く姿は上ハラミ。どうもー、ハラミちゃんでーす」


「あははははは!」


 変な振り付けを決めるハラミさんに、サチさんは大爆笑しながら惜しみない拍手を送る。


「いやー、ハラミさんのスベリ芸、ほんと面白いわー。なにが一番面白いって、初対面の相手に恥じらいもなくかますところが最高!」


「いい。芸を披露するとき、一番ダメなのは恥じらいを持つことよ」


「ほんと、それだけは唯一、ハラミさんから学んだ生かせることね」


「ふたりとも、仲いいんだねー」


 ユエさんが微笑ましそうに言った。


「そうやって、配信を通して仲良くやってきたんだ」


「全然、全然! そんなことないわよ。なにせ私たち、不倶戴天の敵だったから」


「クソみたいな奴は散々相手してきたけど、この手で始末したいと思ったのはさっちゃんだけね」


 和やかな空気からは想像もつかない物騒な言葉が飛び交う。


 過去を懐かしむように、サチさんは穏やかな表情を浮かべた。


「似たような芸風の歳近い女生放送主(なまぬし)なんて、客を取り合う敵でしかなかったから。ハラミさん、今でこそわがままボディだけど、ほんと美人だったんだから。それであの当時顔出しされたら、こっちの商売上がったり。マジで死なないかなって、ずっと思ってたわ」


「さっちゃんだって、散々あたしにはない胸を活用して人を煽ってきたじゃない。隠されているところは妄想が膨らむけど、あたしのような美人は三日で飽きる、ってね。『見せられた顔じゃない女相手に、盛ってる男どもはバカみたい』って、密かにマウント取ってたのに。いざ顔を合わせたら、学年で二、三番目に可愛い子って感じでさ。ほんと、この手で殺してやりたかったわ」


 こうしてまた、和やかな思い出を語るには物騒な言葉が飛び交った。


 僕はふたりの関係を、こう表現してみた。


「えっと……ふたりは、トムとジェリーってことですか?」


「そんな可愛らしいものじゃないわ。ただの、アンパンマンとばいきんまんよ」


「そんな汚れた性根で、よくアンパンマン気取れるわ。あんたに恥はないんかい」


「いや、ばいきんまんであることは認めるんかい」


 ハラミさんのボケに、すかさずサチさんはツッコんだ。


「ま、アンパンマンはいくらなんでも驕りすぎ。百歩譲って、さっちゃんはドロンジョ様ね」


「ドロンジョ様?」


 聞き慣れないワードを耳にして、思わずハラミさんに聞き返す。しかし向こうは、信じられないものを見るような顔を浮かべた。


「いや……ドロンジョ様って、あのドロンジョ様よ?」


「ハラミさん……」


 ポン、とその肩に手を置くサチさん。


「配信を離れて長いから、実感ないかもだけど……今の若い子は、ドロンジョ様なんて知らないわ」


「いや……またまた。ほ、ほら、ドロンジョ様、最近異世界転生したじゃん。した、よね?」


 乞うような眼差しを向けてくるハラミさんに、僕は首を傾げた。


 ハラミさんは、認めたくないとゆっくり首を横に振りながら、次第に追い詰められたような顔になっていく。ついには耐えきれなくなったのか、


「ご予約の三名様、ご案内しまーす!」


 と、逃げるように席へ案内してくれた。


 通されたのは、店内の奥まった隅にあるテーブル席。その卓上には既に、火のついた七輪がセットされていた。


「ほら、ユエちゃんはそっち」


 サチさんは、ユエさんを手前のソファー席へ促す。


「半個室ってほどじゃないけど、ここなら人目も気にならないわ。注文とかはハラミさんが専属してくれるから、装備外してゆっくりしなさい」


「うん。ありがとう、さっちゃん」


 その気遣いが嬉しいのか、ユエさんはふっと口元が緩めた。


 僕はその隣に腰を下ろし、サチさんは向かいに座った。


「すぐ摘めるように、盛り合わせはもう頼んであるから。まずは飲み物頼んで、あとはゆっくり選びましょ。ユエちゃんはビールでいい? 口に合わなかったら、私が引き取ってあげるから」


「じゃあ、折角だし挑戦してみよっかなー」


「え、もしかしてビール、初めてなの?」


 意外そうに聞くハラミさんに、サチさんは笑いながら説明する。


「この子、二十歳になったばかりなのよ。飲酒デビューしてから、まだ一週間も経ってないわ」


「えー、わっかーい。しかもえっらーい。あたしなんて、デビューしたの十五よ」


「ハラミさんは生まれが悪いんだから。お上品な子と並べちゃダメよ」


「そう言うあんたは何歳デビューよ?」


「十四」


「あんたのほうが悪いやんけ!」


「あっはっはー」


「生、三つ頂きましたー」


「待って待って待って!」


 流れるような漫才の勢いで、そのまま注文をしようとするハラミさんを、慌てて止めた。


「生三つってなんですか!?」


「なーに、大丈夫よ」


「なにが!?」


 僕がツッコむと、ユエさんは申し訳なそうに小さく手を上げた。


「あ、あのー……さすがにこの子には、飲ませられないです」


「飼い主がこう仰せだから、残念ながらダメねー」


 サチさんの飼い主発言をスルーして、僕は大人しくコーラを注文した。

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百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
並行して連載しておりますので、こちらもお目通し頂ければm(_ _)m
― 新着の感想 ―
テンポいいなー。 息ぴったりですね。
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