表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
憧れの先輩のパパ活現場を目撃してしまった僕、大人のお姉さんに拾われる。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
一章 どう、お姉さんのヒモにならない?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/80

38 ラブコメに置けるノルマの消化

いつもご覧いただき、誠にありがとうございます。

私事で慌ただしく、二日間更新が滞ってしまいました。

明日の投稿も未確定ではございますが、決して途中で投げ出すつもりはありません。

お待たせしてしまうこともあるかと思いますが、今後とも温かく見守っていただけますと幸いです。

 草津温泉はその名の通り、温泉が一番の観光資源となっている。


 だから、観光マップを頼りにモデルルートをたどった結果、思った以上に時間を持て余すことになった。


 ゴールデンウィークということもあり、街は観光客で賑わっている。そんな中で、素顔を晒すような温泉三昧コースを満喫するのは、ユエさんには向かなかったのだ。


 楽しめたのは、足湯巡りが精一杯といったところだ。


 ……まあ、当の本人は足湯から上がる度に、


「拭ーいて♪」


 と、素足を差し出してくるので、それはそれで楽しそうではあったけれど。


 基本は、観光地の土産屋を冷やかしながら、食べ歩きをして、見どころをつまみ食いするスタイル。そこに昼ご飯を挟んでも、なお時間は余ってしまった。


 有名な湯もみショーも、午後の部は十五時以降。


 その頃にはすっかり腰を据えたい空気になって、早々にホテルへチェックインすることになったのだった。


「へー、いい部屋だね」


 揚げ饅頭を食べたときと、さほど変わらぬテンションで、部屋の奥へと入っていくユエさん。


 ふたつ並んだベッドの内、窓際のベッドにダイブすると、


「こっちがわたしねー」


 と、無邪気に主張していた。


 一方の僕は、部屋の様相に呆然とし、出入り口から一歩も動けずにいた。


 十畳ほどの和室。低い座卓と座布団が並び、お茶セットと茶菓子が用意されている。奥にはラタンの椅子と丸テーブル。そして小さな冷蔵庫。


 それが、僕が体験してきたいつもの温泉旅行だ。


 しかし、部屋に足を踏み入れた途端、真っ先に目に飛び込んできたのは、ガラス越しに覗く大きな浴槽だった。黒を基調としたバスタブが、堂々と屋外に設置されている。


 ガラス張りの壁の手前には、グレーのソファーセットにローテーブル。


 さらに左手には、ダブルサイズのベッドがふたつ。


 静かで、洗練された空間。


 まるでテレビでしか見たことのない世界だった。


「どうしたの、ツバメくん? そんなところで立ち止まったまま」


「いや……これが普段、友達が見てる景色なんだなって」


 コウくんが身を置く世界を、初めて共有した気がした。


 厚みのあるカーペットを踏みしめながら、妙な居心地の悪さを覚えつつ、僕はソファーに荷物を下ろした。


「しかしまた、凄い部屋取りましたね……」


「内風呂付きってなると、部屋のグレードも相応になるからね」


「内風呂とか、また贅沢――って、ユエさんには必要でしたね」


「さすがにここまで来て、温泉に入れないのは寂しいからね」


 温泉三昧コースがそうであったように、ユエさんは大浴場や露天風呂を利用できない。


「貸し切り風呂もあるけど、ひとりで入るならこのくらいで十分だから」


「なにより、好きなときに入れますしね」


「まあ、ツバメくんが一緒に入ってくれるなら、貸し切っちゃうけど……どうする?」


「入りません」


「うーん、いけずー!」


 最初から期待していない、調子っぱずれな声。


 これに構うとキリがないので、僕はテレビを点ける。ユエさんは地上波厳禁なので、すぐにネットフリックスのボタンを押した。


「やっぱり、こういうホテルのテレビは今どきだなー」


 僕の実家にはついていない機能なので、こんなところにも感心してしまう。


 でも旅行に来てまで、映画やアニメを見たいわけではない。BGM代わりに、過去に見た海外ドラマでも流そうとしたのだ。


 ログインに必要なメールアドレスと、パスワードはユエさんから教わり、スマホにメモしているが……メールアドレスがいかにもな初期設定。ランダムな英数字列で法則性がないから、入力に手間取った。


「ツバメくーん、お先にお風呂頂くねー」


「はーい、ごゆっくりー」


 後ろからかかる声に、テレビの操作に気を取られたまま返事をする。


 入力ミスによるログイン失敗を、二回ほど繰り返したところで、


「ん?」


 コンコン、とガラスを叩く音がした。


 目を向けると、ガラスの壁越しにユエさんが立っていた。


 バスタオルの端を両手で持ち上げ、胸元から下を隠している。肩の素肌が惜しげもなく晒されていた。


 そして、タオルを持っていた両手を、パッと離した。


「なっ!」


 目を逸らさなかったのは、その行動に期待したからではない。あまりにも咄嗟のことで、反応できなかったのだ。


 それが釘付けになったとように見えたのだろう。


「残念でしたー」


 してやったりの声が、ガラス越しに聞こえてきた。


 落としたのは、あくまで目隠し代わりのタオル。本命のバスタオルは、きちんと身体に巻き付けられていた。


「ユエさん……」


 肩をがっくりと落としたのは、裸体を拝めなかった失望ではない。こんなしょうもない罠にひっかかり、心がかき乱された疲労感だった。


「期待させちゃって、ごめんねー」


 合わせた両手を頬に当て、ペロリと舌を出すユエさん。


 そもそもの話だ。バスタオル姿のユエさん自体、年頃の男子には十分毒である。まずはそこに恥じらいを持つべきであり、男心をからかうにしても身体を張りすぎた。


「でも、これで一生ツバメくんの記憶に残ったでしょ?」


 だから、それは天罰なのか。はたまた詰めが甘かっただけか。


 どちらにせよ、下ったのは自業自得の四文字である。


「あっ……」


 どちらが声を上げたのか、判然としない。


 ユエさんの身体に巻かれていたバスタオルが、ふわりと宙を舞い、そのまま足元に無防備のまま落ちた。


 滑らかな肩。


 細くくびれた腰。


 そして、女性特有の柔らかな曲線。


 生まれたままの無垢な姿が、ガラス越しに映し出されていた。


 初めて生で目にした女性の裸体は、これ以上ないほど贅沢であり、生々しい質感をまとっていた。


「ぁ……あ、あ」


 目を逸らせなかった。


 釘付けになったのは、男の本能だったのかもしれない。


 永遠にも感じられる時間――実際には、ほんの数秒だったかもしれない。


 ユエさんは、ぎこちなくバスタオルを拾い上げ、無言で浴槽に入った。


 そして――


「あぁあああああ……」


 断末魔のような声を上げながら、頭まで湯船に沈んで消えていったのだ。


 ようやく我に返った僕は、慌ててカーテンを閉じた。


「いや……たしかにね。これは一生記憶に残ります」


 下半身に巡った血流が落ち着くまで、しばらく時間を要したのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
百合の間に挟まるな! ~脅迫NTRもの展開を阻止した結果、百合の間に挟まれた件~
並行して連載しておりますので、こちらもお目通し頂ければm(_ _)m
― 新着の感想 ―
これは、ラッキーw
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ