二日後ー五里霧中
午後一時、国会内。
「ですから、何度も言っているとおり、現時点でどことも連立を組むつもりはありません。そもそも安全保障や外交といった国の存立にかかわる政策で一致できないような党と連立することは金輪際あり得ません。
基本的には個別の政策で是々非々で判断しますので、与野党問わず、まずは政策協議から始めるのが筋でしょう。どちらにつくにせよ、政権に入りたいから多少政策を譲っても、ということでは我々を信任し、投票していただいた方々を裏切ることになります。我々としては、掲げた政策の実現のために最大限に努力する。それ以上でも以下でもありません。」
「すでにRM党代表から面談の申し込みがあったと聞いていますが。」
「そのようなお話が来ているのは事実ですが、先ほど頼申し上げているとおり、まずは政策協議を重ねていくべきと考えていますので、いきなりトップ同士でということではなくて、幹事長なりが政策のすり合わせをしていくという積み重ねが大事なんだと考えています。」
「与党からは、総理のポストをゆずっても取り込みたいとの過激な意見も出ているようですが。」
「もちろん、首班指名で私に投票いただけるのであれば喜んでお受けしますが、だからと言って、我々が何か政策の面で譲った見返りで、ということではないでしょう。そこを譲らないといけないのなら、ここでそのようなお話を受けることはできないですね。」
午後一時半、JM党本部幹事長室。
「機先を制してきたな。さすがと言えばさすがの狡猾さ。自分たちを高く売るすべをよく承知している。」
「幹事長、このままプランBに移行しますか?」
「それは時期尚早でしょう。まだ日が高い。かれらも立場上言わないといけないところもあるだろうから、それを額面どおりに受け取る必要もないでしょう。とはいえ、正面から話はできないだろうから、彼らも受けやすい形で対話を進める必要がありますね。
とりあえず、これからの国会運営に向けた政策協議だ、ということでチャネルを開き、感触を探りましょうか。その中で党として載ってこられそうか、それが無理なら個別に切り崩す余地がありそうかを見極めていけばよいと思います。」
「それだと総理を外しての話し合いということになりますが?」
「むしろその方がよいのでは。向こうの状況は詳らかにはわからないが、こちらは総裁が直接対話で協議に臨むのは適切ではない。そもそも、総裁選の経緯や今回の選挙結果を踏まえれば、今の総裁にそこまでの全権委任をすることはできないでしょう。こちらの党内がガタガタになりかねない。」
「では、幹事長以下で政策協議という形で持ち掛けてみます。」
「それなら乗ってくるでしょう。すでにRM党は党首会談を断られているようだが、あそこの場合はどのみち党内をまとめきれないから、トップ同士が握ってしまって事後承諾を取るしかないんだよ。既成事実を作ってしまうというまずいやり方ですね。それでも、政権交代が実現できれば納められると踏んでいるのでしょうが。」
「総理の出番は?」
「十分に煮詰まってから、儀式的に、でよいのではないかな。本当に先方が総理のポストを求めてくるようであればその時点で相談着必要だろうが、大臣をいくつか程度の話であれば、最後の最後でよい。むしろ、途中で下手に出てきており会っているところをかきまわしてもらいたくない。」
「わかりました。粛々とやります。マスコミ対策は?」
「政策協議をしているということ自体はオープンにしておいた方が得策でしょうね。その方が国政のことをまじめに考えているように見えるし。ま、考えていないわけじゃないが。とはいえ、数の確保が最重要なフェーズなので、外からの見え方にも配慮しながら、しっかりと実を取っていくということかな。」
午後七時、RM党本部。
「同じ釜の飯を食った仲だというのに随分つれないな。個別の政策協議はするにしても、まずは今後の国会対策としてトップ同士が会談するというのは普通だろう。」
「代表、そうは言っても一緒にいられないということで二つに分かれたわけで。いつまでもなあなあにはできないですよ。そもそも彼らは我が党内の左系とは徹底的に相性が悪いです。彼らの言う国家の存立にかかわる安全保障や外交で交わることはないですよ。」
「だからだよ。だから個別の政策協議はできないんだ。トップ同士で握ってとりあえず大連立を組んで政権交代する。そのダイナミックな動きがあれば党内は何とか抑えられる。」
「でも、それはこちら側の理屈でしかないですよ。先方にはメリットがない。
私たちはそこまで左系を嫌っていないというか、あえて別れるまではしないと判断しているわけですが、彼らは一緒にいられないと考えているのです。政権交代の流れで押し切るといってもどこかで一定の配慮が必要なわけで、それすらも許しがたい、ということなんじゃないですかね。」
「それは確かに・・・。」
「前回政権交代の時に懲りているんだと思いますよ。
それと、彼らは今勢いがあります。このままいけば重要政策のキャスティング・ボードを握る立場にある。そんなおいしい状況なのに、あえてレピュテーションを落としかねないリスクを負って政権に食い込む必要はないと考えているんじゃないですか。もう少し時間がたてばもっと良くなるなら、待った方がよいわけですから。」
それじゃあ、うちが将来がないみたいじゃないか!」
「代表はそれこそいろいろとお考えなのでしょうが、野党の党首は考えることしかできないんですよ。実際には実行に移せないから、それで引っ張っていくこともできない。
それがゆえに、党全体の意思表明としては与党の政策に反対する、与党の政策の揚げ足取りをする、ということに陥りがちなわけです。そこしか党内の妥結店がないから。
KM党に言った連中はそういうところにも嫌気がさしているから是々非々で政策協議する、と言っているんじゃないですかね。」
「ちょっと感情的になってしまった。すまない。それは正論だが・・・。
しかし、あまりにも青過ぎないか?それで政治を担えるのか?私だってむしろ党内よりも彼らの方にシンパシーを感じるが、政権交代を実現するためには数が必要で、そのためには飲み込まざるを得ないものだってあるだろう。」
「実際に総理を経験された代表がそうおっしゃるというのはそうなのかもしれないですが、少なくとも、今の状態では青臭い彼らの方に分があるのも事実です。現時点では野党であるからこそ、むしろそういう青臭さが魅力になるんじゃないでしょうか。選挙の結果もそういうところが少なからず反映されていると思います。」
「初心に帰るか・・・。」
「そういうことを言いつつ全く逆のことを言いますが、彼らが歩み寄らないなら、こちらから寄っていくというのもありますよ。野合するときは野党第一党から総理を出すものだと思ってますが、それはルールで決まっていることではありませんから。」