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当日-当落予測

午後八時一分、JM党本部選挙対策本部控室。

「各局の予測はどうなっている。」

「惨敗です。うちだけでなく、KM党もかなり減らす見込みです。現役大臣も危ない人がいます。逆に、RM党とKM党がかなり伸ばすようですね。」

「消極的な選択肢なのかもしれないが、ついこの間の政権交代であれだけやらかしているのにまだRM党に期待する層があるのか。まともな野党だが議席を伸ばせなかったKM党がここで伸ばしてくるのは順当だが。それにしても、これはまずい。選対委員長は?」

「悲痛な面持ちですよ。彼は各地に応援で駆け回っていましたからね。」

「彼が行けば人は集まるが、それは彼個人の人気であって党への指示ではないからな。まだその辺のことがよくわかっていないのだろう。小学校の学級院長選挙じゃないんだから、人気取りだけでは勝てないんだよ。

 だが、だからこそ、幹事長はあの人を副委員長に据えて現場を仕切らせていたんじゃなかったのか。」

「裏目に出てますね。非公認の支部にも実弾を巻いていたのが投票日直前に報道されてしまった。あれは痛かったですね。表面は取り繕っても結局お仲間は見捨てないんですね、と裏金議員を実際は切っていなかった、と見られている。」

「総理は切ってもよかったんだろうが、それではあまりにも議席が張るからと幹事長が手を打ったのが裏目に出たか。」

「まさにそうでしょうね。いやしかし、これからが大変だ。どうするんだろう?総裁はやめますかね?」

「総裁はやめる気がないみたいだね。過半数を少し割っても国政を預かる身として責任を果たすとかなんとか答えぶりを用意しているようだよ。」

「それですみますかね?欠けるのは少しではさうまなさそうですが。」

「自分はさんざん責任追及をしてきた人だからどうこたえるかはある種見ものではあるが、総理・総裁のポストにしがみつくんじゃないかなぁ。まだ何もできていないわけだし。」

「総理になることだけを生きがいにしてきた人ですからね。

 そうすると、幹事長はやめるんですかね?」

「実はそうもいかないらしいよ。このままいくと少数与党になってしまうので、選挙後の数合わせの調整に奔走する期のようだよ。あの人はとにかく議席の数の人だから。非公認とか無所属とかかき集めるのだろう。今回はそれだけでは足りないかもしれないが。」

「だったらだれが責任を取るんです?これは数字だけ見れば大敗ですよね。」

「それは選対委員長だよ。というか、本人はもうやめる木まんまんという話だ。総理も幹事長もやめない中で彼だけが悲壮感を漂わせて責任を取って辞めます、と言えばますます人気は上がるだろうね。まだ若いし先があるからここはそういう役を引き受けるのが得策だと思うよ。」


午後九時、JM党幹事長室。

「想定以上に数字が悪い。そもそもKM党は党首が落選しそうじゃないか。」

「あるときから岩盤組織票便りの傾向がありましたが、それがもう限界ということじゃないですか。あそこの教団も会長が亡くなってますし。」

「そんなのんきなことを言っている場合じゃないだろう。次善の策としてここからどう動くかだ。

 総理にはここで無責任にやめてもらっては困る。悪いところ全部ひっくるめて最後までこの政権の責任を取ってもらわないと。いまさらここで総裁は首は変えられないぞ。」

「本人もやめる気がないようだからいいんじゃないですか?何もしてないうちに選挙に突入したので、御本人は前任者に責がある、と本気で思っているでしょうし。そういうところも含めて飲み込むのが将の器というもので、周りに流されようがこのタイミングで解散総選挙に踏み切った自業自得なですがね。」

「総理も変わる気がないのならいい。問題は、この後どうやって過半数を作るかだ。少数野党じゃ予算も通せないぞ。

 過半数割れは見越して布石は打ってあるが、非公認や名目上の無所属を足しても全然足らない。それなりの規模で取り込まねば。」

「数的に言うとKM党を連立に入れるとちょうどよいんですがね。彼らは基本的に政策に是々非々だから組めなくもないとは思いますが。」

「それはそうだよ。解体したときにまともな思考を持った人が集まった集団があの党なのだから。うちとしてもまったく飲めないようなことを言ってこないのではないか?」

「そこはわかりませんね。

 私が彼らの立場なら、もう少し長期的に考えて、このタイミングでは取り込まれないようにすると思います。まだまだ自分たちの価値は上がるはずで、ここで安売りする意味がないですから。政権とは距離を置いて重要政策の決定においてキャスティング・ボードを握る。その姿を国民に見せればますます人気は上がるでしょう。」

「大臣のポストを用意してもだめだと思うか?」

「微妙ですね。以前のように総理のポストまで渡す、ということであれば別でしょうが、そこまではまだ我々も割り切れないでしょう。」

「そうなると、野党から一本釣りか。こちらはポストを用意すれば転ぶやつはいるだろう。」

「もう少し見極めが必要でしょうね。野合が起こるとは思いませんが、その可能性が潰せていない段階で打診するのはリスクが高すぎます。逆に、かえって野合の機運を高めてしまうかもしれない。」

「そうなると、もう少し時間をかけて情勢を見極める必要があるか・・・。個人的には鉄は熱いうちに打ちたいが、まだ熱すぎるということか。」

「そうですね。特にKM党の動きでしょうね。おそらくRM党は空気を読まずに上から目線で大連立という名の野合を呼びかけるはず。それに対するKM党の反応を見てからですかね。」

「だとすれば、特別会は遅めの設定の方がよいわけか。重要法案だなんだと官僚はうるさいが、調整の時間が取れるようにしないとまずい。その結果も見えないとなると、首班指名だけして終わりだな。」

「現状で臨時会や予算編成まで見越してもしょうがないですよ。不確定要素が多すぎる。

 とりあえず、今回の選挙は選対委員長が辞職して責任を問てくれるらしいので、裏でいろいろと動いてみます。」

「頼むよ。

 それはいいとして、総理が余計なことを言わなければよいが。」



午後十時、首相官邸。

「総理、今回の選挙で与党の過半数割れがほぼ確実となりましたが、受け止めはいかがでしょうか?責任を取って辞任されるのでしょうか?」

「まだ票が空ききっていない段階でそういうことを軽々に判断すべきものではありません!」

(とりあえずこう答えるしかないが、あらかじめ用意しておいたトーンで大丈夫だろうか?私は国民に信を問う、と言って選挙に入ってしまった。この結果からすれば、憲政の常道で野党に政権を渡すのが道理なのか。しかし、頑丈で野党にはとてもじゃないが国政は担えない。だとすれんば、やはり私が何を言われようと責任を全うするのが筋。しかし・・・。)


午後十一時、JM党本部幹事長室。

「私は今回の結果の責任を取って選対委員長を辞任します。先ほど総裁にも報告してきました。」

「そうですか。今回は正直残念な結果ですが、大変おつかれさまでした。

 私は総理とも相談していますが、これからの政権運営に向けてやらなくちゃいけないことは山積みなのでやめるにやめられないようですよ。」

「幹事長はそれでよろしいんじゃないでしょうか。これは私なりの責任の取り方なので。きれいごとを受け持つ身としては、ここで潔く身を引くのがよいでしょう。

 そして、私のこれからのためにもこれが最善の策だと思っていますし。」

「それは?」

「私が若いからか、皆さん私のことを純真だと思っていらっしゃるようですが、そうでもないんですよ、ということです。

 私は選挙の表だけを担当する。そして、その結果責任を受けてやめる。こうすれば、好感度は上がりこそすれ下がることはないでしょう。特に、他の皆さんがそのポストに居続けるのであれば。

 そして、これから政局が始まってどんどん泥臭くなってくる。私はそこからはまだ距離を取っておきたいんですよ。私は若手のクリーンな政治家代表なんです。下手なレピュテーション・リスクを負うくらいなら、馬鹿だと思われようがピュアなふりをするのが最適解なんです。」

「君はそこまで考えて行動していたというのか?」

「幹事長、個々の選挙の勝ち負けという観点でいえば幹事長のお考えが正しいのでしょう。ただし、選挙は一度きりではなく、この後もずっと続いていくのです。その中で私が一番得するように動くことが私にとっての最適解です。

 自分が当選していればそれでよく、仮に下野したとしても自分が目立てればそれでいいのです。逆にそうなった方が若いリーダーとして私が求められてきますしね。

 私もそこまで馬鹿ではないし、無能でもないので、今回の選挙がはなから勝てる見込みのないものであることは承知していますよ。その中で、最後まで正攻法であえぐだけあえいで、負けは負けとしてきっちりと責任を取る。こうすれば私の評価は党の内外で上がるのです。下手に姑息なことに手を染めてしまっては元も子もないので、あえて皆さんの引いたレールに乗って踊っただけですよ。」

「なるほど。やはり親父さん同様食えない男というわけか。しかし、そういう考え方ができる人材がいるというのは我が党にとってはよいことかもしれんな。」

「もったいなきお言葉ありがとうございます。とはいえ、今言ったことは御内密に。せいぜい客寄せパンダとしても使えなかったとかなんとか言っておいていただけるとありがたいですね。発射台が低ければ低いほど、たいしてことをしなくてもほめてもらえますから。」

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