夢の二階建て
念願の一戸建て、しかも憧れていた二階建てに住める!高井イサムは引っ越しの移動中、車の中でワクワクしっぱなしだった。「早く着かないかな……!着いたらソッコー二階に上がってやる!」「気が早いな。見るのも良いけど、先に母さんの様子確かめに病院に行くんだぞ」「わかってっよ!弟も出来るし一戸建てには住めるし、至れり尽くせりだな!」引っ越しの理由は、彼らが話している内容から分かるかな?新たに家族が増え、これまでのアパートに暮らし続けるのは窮屈だから、郊外にある一戸建てに移るわけ。父が運転する車はどんどん田舎町へ進み、昨日までイサム達が住んでいた街中とは風景が違っている。後部座席から運転席へと顔を覗かせ、父へ労いの言葉をかけるイサム。「父さんの稼ぎのおかげで、豊かな地域で暮らせるよ!ホント、お疲れっす!」感謝、感謝でいっぱいだ。「家族の為だからな」
そして一旦病院に寄り、久々に会った母は元気そうだった。一時間ほど三人は語り合い、再び車で移動。いよいよ待望の一戸建てへと向かう。「母子ともに健康だとさ。イサムもお兄ちゃんか!弟、可愛かったら良いな」「そりゃ可愛いよ!母さんの子で、俺の弟だからね」「父さんは……?スルーかよ」「あっ!あれだね!」新しい家が見えてきた。が……何か変だ。「ん?」「さあ、着いたぞ!中、見てきな」車から降りたイサムと父。父は荷物を運ぶ用意をし、イサムは唖然と家を見つめる。(やけに低いな……)二階建てにしては、高さが足りない。聞いていた話と違う。「父さん……これ、ホントに二階建て?」「二階建てさ。玄関から入って右側、階段が在るぞ。地下に続く階段がな」玄関を開けて、イサムは階段を見る。「ホントだ」「な?二階建てだろ?」良い笑顔で父ときたら、そのまま荷物を運び出した。「父よ、貴方は一休さんですか?」