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青い糸  作者: 小田虹里
9/15

1-9

「相変わらず呂華様、美人だったなぁ!」

「呂華様素敵すぎだろ!」

「最高だったね!」

 男女ともに感嘆の声が漏れる中、アップテンポのバンドがステージに上がった。不知火の作ったゆったりとしたバラードの空気が徐々に消え、再び会場の中は熱気で溢れかえっていく。いよいよライブも後半戦。イケイケソングで盛り上がりに盛り上がって、首が飛んでくんじゃないかってくらいに首を振って、一体感を生んでいく。運動神経の無いボクには、そこまでのノリはなく、一番後ろで手を振って声だけは出していた。もう、三杯目のジンジャエールも空になりそうだ。いよいよ最後の組が、アンコール曲を歌うところまで来た。この心地よいベースやギター、ドラム音の中、それぞれの個性あるヴォーカルが奏でる歌も、おしまい。また、次のライブまではCDを聞いて楽しまないと。

 最後のバンドが終わったところで、全組の出演者がステージ上に並んで、軽く挨拶をするのだが、不知火のメンバーも上がるには上がるけど、そこで呂華を見たことはなかった。今日はどうだろうと思いながら一番後ろから眺めているけど、やはり今日も呂華の姿はなさそうだ。

 早めに終えたバンドメンバーは、たまにドリンクコーナーまで下りて来て、お客さんと一緒になってお酒を飲んでることもある。それに期待して、ジンジャエールに三杯も課金してみたが、結果はいつも通り。呂華はおろか、不知火のメンバーの誰もが下りてこなかった。プロ意識が高いのかもしれない。


 不知火のメンバーの言葉は聞いたし、帰ろうと思って箱を出た。中があまりにも暑くて薄手のTシャツ一枚になっていたからか、外がやや冷えて感じた。左手には紫のリストバンド。完全なる呂華推しだ。

 会場から一番近くにある地下鉄駅で電車を待つ。まだ、二十一時過ぎくらいだ。終電までまだまだ時間はある。電車が来たところで乗り込むと、先に乗って座っていた見覚えのある顔を見つけた。咄嗟に、

「一夜くん!」

 割と大き目な声をあげてしまった。

「あぁ、うん」

「名古屋に来てたの? こんな時間まで?」

「まぁね。お前は?」

「ボクは今日、大須でライブがあったから。ほら、前に誘ったでしょう? 不知火のライブ」

「あぁ……そんなこともあったっけ」

「もう忘れちゃったの? これ、つい最近のことなんだけどなぁ」

「嘘、嘘。覚えてるよ」

「本当に?」

「ほんと」

「それなら話すけど、結局ひとりで行って来たんだ。生物科のみんな、誰も釣れなくて」

「へぇ」

「でも、だからこその良さがあってね? 感動しちゃった。最前列で呂華さま見れたんだよ!」

「そ、よかったね」


 ――よかったね。それは、どこかひっかかる言い方だった。でも僕は、興奮さめない中でキミに会えたことで、小さな変化を読み取ることなんて、どうだってよくなっていたんだ――


「一夜くんは?」

「大須で買い物。中古で黒服漁ってた」

「黒服着るの!?」

「ダメ?」

「ううん! 絶対似合うよ! シルバーアクセも決まってるし。いいなぁ。スタイルよくて顔よくて。羨ましすぎる」

「お前だって、別にモテない顔ではないでしょ?」

「ボク……彼女居ない歴=年齢の寂しい虚しい男子生徒なんだけど」

「俺と同じじゃん」

「えええええっ!?」

「ん?」

「その美しさ、その色っぽい声、高身長! 何を取っても女子にきゃーきゃー言われそうなのに、なんで?」

「うーん……性格に難ありなんじゃない?」

「あ……」

 僕は一瞬黙った。気まずさを覚え、ちらっと一夜くんの顔を見てみる。大丈夫、こちらを観察しているわけではなかった。一夜くんは、いちいち人の対応で感情が揺さぶられるほど、子どもじゃないんだろうなと勝手な推測をまた立てた。

「えっと、大須で買い物してたんだよね。よく来るの?」

「まぁ、たまにね」


 ――部屋が隣のキミとは当然、下りる駅も同じ。一緒に岐阜駅でバスに乗って、アパートまで向かう。ボクは道中、ライブの感動が止まないまま、キミにライブでの話を延々と繰り返していたよね。あのときのキミの横顔が、どこか遠くを見ているような目に感じたのは、気のせいだったのかな――

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