表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い糸  作者: 小田虹里
6/15

1-6

「面白いことを聞いてくるね。“何を見てるの?”じゃなかった」

「あぁ、だって! キミの目には何が映っているのかなぁって。何もないところに、興味持つような感じには思えなくて」

「……さぁ」

「?」

「なんだろうね」

「……一夜くん?」

 一夜くんは、それ以上何も語らなかった。ただ、ゆっくりと立ち上がるとみんなの方に歩み寄って来た。みんな、ちょっと驚いた顔をしていたけど、悪い人たちは居ない。一夜くんにも自分たちで組んでみた予定表を見せて、書き写しをさせてあげていた。

 専門科目は一通り見た。後は全学部共通科目を空いている曜日の時間に充てるだけ。それは、どの教科でもよかったから、みんな各々の興味が向くままに、カリキュラムを組むことにした。ボクたちは資料をカバンにしまって、家に帰ることにする。

「じゃ、十五日に会おうぜ!」

 石山くんが声をかける。ムードメーカーな石山くんは、ハキハキしていて威勢のいい子だった。

「ライムしようね」

「うん、またな!」

 アパートに下宿組と、実家組に分かれて、大学構内を出た。

 僕は自転車に乗ってアパートを目指す。その隣に、一夜くんも居た。

「一夜くんもこっちなの?」

「うん」

 どこまで走っても、僕の隣に一夜くんが走っている。もうすぐそこが赤色屋根のアパートだ。T字路を曲がって、突き当りの川沿いにあるアパート。その駐輪場まで一緒だった。

(まさか、まさか、一緒のアパートだったなんて!)

 思わず飛び上がりそうなほど、ボクの胸はときめいていた。あ、ボクは純粋に女の子が好きだし、男色家では決してない。そういうところに偏見もないけど、所謂ノンケというやつだ。それなのに、一夜くんの存在はキラキラとしていて、あの深い青い瞳に吸い込まれそうになる。黒髪から覗く青い目は、海のような深みのある色をしていた。

 ボクたちは、並んでエレベーターに乗る。

「何階?」

「六階」

「まさか、隣だったりしてね」

「お前も六階なの?」

「うん」

 チン。ガラガラ……ドアが開く。一丁前にエレベーターまで付いているアパートだけど、ちょっとエレベーターは安っぽくて、振動も激しいし、ドアが開く音も大きかった。

 先に下りたのは一夜くん。後からボクも下りると、二人して左手側に進んだ。一番奥の角部屋のドアに鍵を差し込む一夜くんを見て、僕は思わずカバンを通路に落とした。

「ほ、本当にお隣さんだった!?」

「へぇ」

 

――一夜くんはさほど興味を示さなかったけど、ボクはもう、これは運命でしかないと確信したんだ。初めての地で出会った初めての人が、同じ学科でお隣さん。運命じゃないなんて、言わせないよ。そんなことを言われても、キミは困るだけかもしれないけど、僕はそれでもよかったんだ――


「これからよろしくね! 一夜くん!」

「……うん」

 素っ気なく頷く一夜くんは、ガチャリとドアノブを下げて部屋の中に姿を消した。僕は数分間扉の前に佇んで、ひとり余韻に浸っていた。

 芸能人に出会った一般人。そんな言葉がよく似合うと思う。思わず呆けてしまって、身体に上手く力が伝わらなくなっていた。同じ一年生にはとても思えないくらい、一夜くんは大人びていて。どこか影を帯びているそこがまた、深みを増すようでボクの好奇心は掻き立てられたんだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ