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青い糸  作者: 小田虹里
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1-5

 オリエンテーションを終えると、小木曽先生は退出した。みんなが席を立って、昼食を食べに行こうと声を掛け合った。この大学には第三食堂まであって、ボクたちは第二食堂、通称「二食」に行くことにした。

「一夜くんも行くでしょ?」

 ひとり椅子に座ったままスマホを触っていた一夜くんに、ボクは声を掛けた。一夜くんはボクに目を合わせることもなく、手短に、

「パス」

 とだけ告げて、足を組み替えた。細くて長い脚だなと思った。

「早く行かないと、席なくなるぜ?」

「行こ、行こ!」

「う、うん……」

 一夜くんのことが気になりながらも、ボクも第二実験室、通称二研を後にしようとした……ところで、足を止める。

「やっぱり、ボクも残るよ」

「えー、零斗も食べないの?」

「うん。ボク、まだそんなにお腹空いてないし。カロリーメイト持ってきたから」

「ふーん。じゃあ、俺たち行って来るわ」

「いってらっしゃい」

 ひらひらと手を振る。八人の生物科の仲間たちは仲良さそうに会話しながら階段を下って行った。ボクは、へらっとしながら一夜くんの隣にまた座った。一夜くんは、やはり僕に視線は合わせない。ただ、話しかけてきた。

「なんで残った? みんなと行けばいいのに。お前、そのうちハブられるかもよ」

「キミだってそうじゃない」

「俺はいいよ。別に」

「なんで?」

「なんでって……あ、電話かかってきた。じゃあ、俺行くから」

 誰からの電話かもわからないけど、確かにバイブ音が鳴っていた。嘘ではなさそうだ。一夜くんは席を立つと、さっさと二研を出て行った。残されたボクは、ぽつんと座ったまま、お腹をぐーぐー鳴らしている。

「ごはん……食べ損ねたちゃったなぁ」

 仕方なく、おやつにと持ってきていたカロリーメイトのチョコ味を開けると、はむはむ食べ始めた。美味しいけど、昼ごはんにするには物足りない。入学して初めての昼食が実験室でぼっちでメイト。うん、寂しい。


 十二時五十分。二研に二食へ行っていた仲間たちが戻って来た。今日のA定食は豚の生姜焼きだったらしい。他にも、丼ものとか、ラーメンまであったと話していた。ボクも学食デビューは早いうちにしたい。今度はみんなと二食へ行こうと決めた。

 そしてその五分後、一夜くんも二研に戻ってきた。

 まだ、春休み中。特別に二食だけ運営されているけど、基本的には学食もまだ休み中だった。講義は四月十五日から始まるようだ。それまでに、みんなでどの講義を受けるか話し合うことになった。全学部共通科目と、専門科目に分かれている。どちらも必要単位数があり、受講しなければいけない。あまりにも多くの講義がありすぎて、自分ひとりではとても決められそうになかった。それに、取りのがしてはいけない単位もあるので、そういうのをチェックするには、みんなで組んだ方が安心だ。特に専門科目。ここで落とすと、次にチャレンジできるのは来年の春になる。絶対に落とせない。単位制というのが、高校にはなかったから、まだどういうものなのか、イマイチ掴めていないところがある。みんなも慣れていないはずなのに、ボクよりも段取りもよく、月曜から金曜日まで、ハイスピードで専門科目の予定を組んでいった。ボクは、隣に居た桜井くんの提出容姿を参考に、みんなの意見をまとめていた。

 一夜くんはというと、相変わらずボクたちと関わるつもりはないらしくて、端っこの椅子に座ったまま。スマホを取り出してポチポチ何かしている。このままだと、一夜くんだけみんなの予定を把握できないと思って、僕は声を掛けにいった。ライムだって交換していないんだから、今出遅れたら、下手すると講義に出られなくなる。

「一夜くんも、こっちにおいでよ。一緒にカリキュラム組もう?」

「……」

 聞こえているはずなのに、一夜くんはふいっと外を見た。窓側の一番後ろの席。ボクは気分を害することなく、一夜くんと同じ方を見てみた。

「何が見えるの?」

「何も」

「?」


 ――そのとき、キミはふと笑みをこぼしたね。あの時のちょっとした表情の変化を、今でもボクはハッキリと覚えているよ。キミのことを、何ひとつ知らないボクなんかに、キミの痛みはきっと計り知れなかった。それでもボクは、傍に居たいと思ったんだ――


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