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青い糸  作者: 小田虹里
3/15

1-3

 ついに迎えた入学式。黒のスーツを着て、青色のネクタイを締めたボクは、大学から近いところにあるセレモニーホールの席に座っていた。学長の挨拶や、新入生代表の挨拶などが行われていく。これが終わったら、大学に移動して、各学部に分かれることになっている。

「それではこれにて、入学式を終わります」

 司会がそう告げると、ざわざわと声があがった。席順は特にないが、ブロックごとで学部に分かれていた。新入生は全体で一四〇〇人ほど。それだけの中から、同じ理科教育の生物科の人を探すのは、難しい。さっさと教育学部棟に移動して、研究室に入った方が仲間に会えるのも楽そうだ。ボクは」、いそいそと外へ出た。外では、何台ものバスが並んで居る。順々に大学へ運んでくれる。ボクもバスに乗り込んだ。親が来ている人は、親の車で移動する。

 大学のロータリーに着くと、バスのドアが開いてドドドっと新入生が降りていく。目の前に広がるのは、大きな大学棟と、多くの先輩たちだ。サークルの勧誘をするために、チラシを持ってバスから降りて来る新入生に声を掛けていた。

「テニス部、どうですか~! 一緒にやりましょう!」

「こちら茶道部です! お茶会どうですか?」「馬術部です! 一度見に来ませんか?」

(うわぁ、すごい人……)

 人酔いしそうなほどの先輩と新入生の数に、ボクは圧倒されていた。田舎育ちのボクには、こんなにも多くの人の中に囲まれることは滅多になかった。

 ボフ! きょろきょろしていたら、ボクは前を歩いていた人にぶつかってしまった。背は一八〇センチくらいあって、肩幅は広めだけど、すごく華奢。襟足が長い黒髪で、後ろから見るだけでも美人だと直感が訴えかけて来る人だった。私服だし、きっと先輩だ。

「すみません! 前、よく見てなくて……!」

「勧誘すごいからね。仕方ないよ」

「先輩もサークルの勧誘しているんですか?」「え?」

 振り返ったその人の顔に、ボクは面食らった。

「キミって……ラーメン屋で相席した人?」

「ラーメン? あぁ……言われてみれば、なんかそんなことあったね」

「すごい! 運命みたいだ!」

「運命?」

 青年の目は、今日も青かった。青い目が不思議そうな輝きを放つ。

「あ、今……変な奴……とか思った?」

「うん」

「ひどーい! ボクはこれでも本気で思ったのに!」

「嘘、嘘。冗談だよ」

 心にもないことを思っているようにも見えたけど、気にしないことにした。ボクは青年の隣を歩く。

「それにしても、先輩と再会できるなんて……夢みたいです」

「俺、新入生なんだけど」

「嘘!? その見た目で!?」

 ダメージジーンズに黒のTシャツ。あまりにもラフな格好過ぎて、とても今まで入学式に列席していた新入生には、思えなかった。でも、嘘を言っているようにも見えない。だからきっと、本当のことなんだとボクは思い直した。

「見た目で人を判断しちゃダメだよ」

「そ、そうだよね……ごめん。ちょっと、驚いちゃって」

 脚も長い彼は、一歩が大きかった。背丈が一七〇くらいしかないボクが隣を歩こうとすると、早歩きになってしまう。

「ボク、教育学部なんだけど……キミは?」

「俺も」

「え! ちなみに……専攻は?」

「生物」

「……嘘だ」

「?」

「ボクも! ボクも生物なんだ!」

「へぇ……奇遇だね」


 ――キミは、特別気にした様子はなかったけど。ボクは、この出会いを本当に運命だと確信したんだ。良い年した男が運命だなんて、おかしいよね。だけど、笑われたって良い。ボクは、キミのことをもっと知りたい。そう、思ったんだ――。


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