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青い糸  作者: 小田虹里
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1-2

「今日はありがとうございました」

「それじゃあ、また入居日決めたらご連絡くださいね」

「はい!」

 小さな不動産を出ると、ボクは少し外を歩いてみることにした。これから四年間、生きて行く街だ。僕の田舎よりは、栄えている。スーパー、コンビニ、飲食店がずらりと並ぶ大学前通り。不動産も、その一角にあった。一本奥の小道に入ってみると、昼時を過ぎたのにまだ混んでいるラーメン店があった。きっと、美味しいに違いない。お昼をまだ済ませていなかった僕は、今日はこのラーメン店を視察しようと中に入った。ガラガラと木造の引き戸を開けると、中はいっぱいだ。唯一、奥のテーブル席に空きがあるくらい。でも、そこにも人は居た。相席OKだろうか。ひょろ長い背丈の青年がラーメンをすすっていた。

「あの、相席いいですか?」

「どうぞ」

 睫毛が長くて、切れ長な目。指も白くてしなやかに伸びている。シルバーの指輪を全指にしていて、なんか格好いい! 落ち着いた風貌からして、上級生だろう。これが大学生か! と、僕は目を輝かせた。

「ごちそうさま」

 先に食べ終えた青年は、伝票を持ってお会計に進んだ。その様子を目で追ってから、僕は青年が店の外へ出て行くまで、その光景に惹きこまれていた。



 ――その時から既に、魔法にかかっていたなんて。鈍感な僕が気づく筈も無かった――。



(あ、このラーメン美味しい)

 そんなことを思いながら、視察を無事に終えて僕はまた電車に揺られ、地元に帰宅した。仕送りをしてくれる両親に、今日決めてきたアパートの話もしなければならない。

 JR岐阜駅から電車に揺られて、美濃太田まで行く。そこまではパパに送迎してもらっていて、帰りも時間を伝えてあり、その時間にロータリーに車をつけてもらうよう手筈を整えていた。

 美濃太田の駅で電車から降り、改札を出て長い階段を下る。ロータリーは小さいから、すぐにパパの車を見つけることが出来る。

「零斗。いい物件はあったか?」

「うん! 安くていい部屋、取れたよ。ちょっとだけ大学から離れているけど、その分家賃が安いんだ。それに、お風呂とトイレが分かれているセパレート! BSアンテナもついているんだって」

「テレビに需要はあるのか?」

「お世話になるかもしれないじゃん?」

「たしかに? あって損は無いか」

「うんうん」

 助手席に乗って、窓の外を見る。この景色とも、四年間は遠ざかってしまう。そう思うと、感慨深いものがある。

 美濃太田から車で二十分走ったところに、僕の住む団地がある。団地といっても一軒家が建ち並ぶ。ビル街が並ぶ団地とは、また違った味がある。

(それにしても、ラーメン屋の先輩……美形だったなぁ。あんな美人さんがいるんだ。高校までとは違うなぁ)

 高校は化粧も禁止だった。髪を染めるのはもちろん御法度。化粧は、禁止と言ってもほとんどの女子が化粧していたけど、髪を染めてる人はそこまで居なかった。ラーメン屋の先輩も、髪は黒かったけど、目が青かったようなイメージがある。あまりじろじろ観察したわけじゃないから、気のせいだったかもしれない。でも、もしかしたらお洒落でカラコンを入れているのかもしれない。高校と大学は、大きく違った組織なんだと思い知った。明らかに垢ぬけた少年のインパクトと言ったら、絶大なものがある。

(大人の匂いがぷんぷんする!)

 帰宅した僕は風呂に入り、すぐにベッドに横になった。

 角部屋を抑えられなかったのは残念だったけど、その隣を決められてよかった。隣に入って来るのも、きっと新入生だ。仲良く出来るといいなと思った。


 だけど、学生アパートで隣人との交流ってあるのかな?


 本当は学生寮にも入ってみたかったけど、家から学校までの距離と、両親の給料の関係で、書類審査が通らなかった。仕方なくアパートを探すことになったのだが、安いところが見つかって、親も満足そうだった。

 余裕を持って引っ越しをしたいので、始業式が四月頭。三月半ばまでには荷物を動かしたかった。卒業式は、三月頭にとっくに終わっていた。清太と冬香がいつ引っ越すのか聞いていないが、昨日サヨナラの乾杯をしたところだ。しばらく会うことはない。

(ラーメン屋の先輩は、何学部だろう。まさか、同じ学部だったりして!)

 岐阜東大学には医学部、工学部、農学部、人間健康学部、地域科学部、教育学部など、多くの学部があった。零斗は教育学部だが、ピンポイントで同じ学部にあたることは、確率的にどうだろうか。たとえ教育学部だったとしても、国語、数学、理科、英語、社会、体育、技術、音楽、学校心理と細かく分かれている。さらに確率は低くなる。



 ――それでも僕は、何故かまたキミに会えるんじゃないか。そんな期待を捨てる事が出来ずに居て。これからの人生を、キミと過ごすんじゃないか。そんな大袈裟な夢みる少女のようなことまで考えてしまったんだ。笑っていいよ――。



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