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青い糸  作者: 小田虹里
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 ひとり暮らしにしては大き目の鍋を買ったので、カボチャ三つ分も簡単に煮ることが出来た。ある程度は染み込ませた方が煮物は美味しい。すぐに一夜くんのところへ持って行きたいところだったが、冷ましがてら煮汁で染み込ませるのを計った。

 待っている間は、不知火のCDを聞いていた。今は平成、ラジカセで音楽を楽しんでいる。

「ほんと、不知火っていい歌多いなぁ。バラードしかないから、夜に聞くと安眠効果もあるんだよね」

 ジャケット写真を見ながら、不知火ボーカルの呂華の容姿を見ては惚れた。ライブ会場で何度も見てきたけど、実物は写真よりも線が細くて美しい。声はちょっとハスキーで、本当に女性なのか男性なのか分からないところがまたいい。

「次のライブいつだろ。告知入ってなかったなぁ」

 前回のライブのパンフレットの中にも、何も入っていなかった。ネットを見ても特別情報は出回っていない。ファンサイトでも、次のライブはいつか、いつかと待ち望む声は上がれども、運営から明確な答えは帰って来ていなかった。焦らされると、余計に期待してしまう。次は大きな会場かもしれない。


 三十分待った。CDも一周したところで、ボクは台所に向かった。カボチャを幾つか皿に分けて、ラップをかける。それを持って、玄関ドアを開け、隣の部屋の一夜くんの玄関チャイムを鳴らした。すると、中からゴソっという音がして、足音がドアに近づいて来た。薄いドア越しに、ボクは一夜くんに話しかけた。

「一夜くん、ボクだよ。楠井」

「あぁ……何?」

 如何にも面倒臭そうな声だ。ボクはちょっとショックを受けながらも、めげずに待った。とりあえず、鍵は開けてもらえた。チェーンも外して中から一夜くんが顔を出す。

「カボチャだよ。カテキョ先でいっぱいもらったんだ。煮物にしたんだけど、一夜くんも食べない?」

「いいの?」

「うん。三玉ももらっちゃったから。ひとりじゃ流石に食べきれなくて」

「じゃあ、もらう。あがってく?」

「あ、いいの?」

「どうぞ」

 ドアを開けた状態で、一夜くんはボクが通れるだけのスペースを作った。そこをくぐって中に入り、靴を脱いだ。すると、目の前にあるリビングのカーテンレールに、黒服がかけてあることにすぐに気が付いた。

「え! かっこいい!」

「今日お迎えしてきた子」

「これを取りに行ってたの?」

「まぁね」

 ボクはちょっとだけ、腑に落ちなかった。それくらいのことなら、わざわざ隠すこともないのに。そんなに黒服を着ることを、恥ずかしいと思っているのかな?

「キミも黒服好きなの?」

「うん! 大好きだよ! 大学にはなかなか派手な格好で行けてないけど、いっぱい持ってるし。あ、あと指輪も好きだよ!」

 ボクは一夜くんの指に視線を落とした。一夜くんは、全指にシルバーリングを嵌めていた。ごつめの物から、線の細い石付きのリングまで様々。その手はしなやかで、指も色白でリングが似合う。ボクの貧弱な指とは全然違って、羨ましいなと素直に思った。

「一夜くんは、指も長くて指輪もよく似合うね」

「好きな物は好きでいい。似合う似合わないは関係ないでしょ」


 ――そう言ったキミの目は、どこか優しかったことを、ボクは今でも覚えているよ。好きな物を貫く強さを、キミは持っていたんだね。あの頃のボクはm同い年のキミのことが、とても大人びて見えていたんだ――

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