表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青い糸  作者: 小田虹里
10/15

1-10

 ボクの高校はバイトすることが校則で禁止されていたから、大学生になったらバイトするんだって決めていた。何のバイトだっていい。でも、何をするにしても初めてのことだから不安だった。どうやってバイトを探せばいいのかも分からない。そんなとき、同じ生物科の石山くんが、大学生協でバイトを斡旋していると教えてくれて、ボクは大学会館二階にある大学生協を訪れてみた。

 狭い白いドアを開けると、中は六畳くらいの空間があった。壁際にテーブルがあり、そこにはファイルがあって、様々なバイト情報が入っている。ボクはひとつずつファイルを手に取ってみて、中を見た。教育学部向けに、家庭教師、通称カテキョのバイトが多く載っている。子どもはもちろん大好きだ。それに、いずれは教師になりたいのだから、人に物を教えることに慣れておいて損はない。ボクはたくさんある中から、小学五年生の男の子の募集用紙を手に取った。国語と算数を見て欲しいとのことだ。ボクは紙を生協の職員さんに渡した。そして、数日後親御さんの面接を受けることになる。

 周りのみんなも順々にバイトをはじめていった。大学近くのファミレスのホールのバイトや、塾講師。結婚式場のバイトなんていうのもあった。

 いつもの第二実験室、通称二研で生物科一年生はだべっていた。ひとり窓の方を見ている一夜くんの方にあゆみよって、ボクは話しかけた。

「一夜くんは何かしないの?」

「たまにしてるよ」

「え!? いつの間に!?」

「結構前から」

「そうなんだ! 何してるの?」

「メイク系」

 ボクたちの話を聞いていた石山くんが話に割って入って来る。

「最近は男もメイクする時代だもんなぁ」

「メイクアップアーティストって奴?」

 桜井くんも話に入って来た。みんな、一夜くんとは距離を起きがちだったけど、嫌いな訳じゃない。何だかんだ気にしているんだなと思うと、ボクはなんだか嬉しくなってきた。ただ、一夜くんはどちらかといえば困っている様にも見える。

「そんな大したことはしていないよ。ちょっと手伝ってるだけ」

「すごーい! 一夜くんって綺麗だし、自分にメイクすることもあるの?」

「うーん」

「あれ? しない漢字?」

「さぁ、どうかな」

 一夜くんの返答は歯切れが悪かった。なんだか誤魔化すように咳払いをして、また窓の外を見た。そのままスマホを取り出して、操作をはじめる。

「徳永はしないだろ。そういうキャラじゃないじゃん」

 桜井くんはそういうけど、ボクは腑に堕ちなかった。

「そうかなぁ。似合うと思うんだけど」

「あ、俺用事できた。午後からの講義代返頼むね」

「え、一夜くん!」

 なんでか気になって、ボクは廊下へ出て行った一夜くんの後を追った。そのまま後姿を追いかける。背丈の高い一夜くんは、歩幅が大きい。速足で構内を出てバス乗り場に向かった一夜くんに追いつく頃は、ボクは息が切れそうだった。一応追い払われないように、間をあけてついていったつもりだけど、ここまで離されるとは思わなかった。

(どこへ行くんだろ?)

「つけるの下手だね」

「!?」

「はぁ」

 一夜くんは大きく溜息を吐いた。明らかに迷惑がっている。でも、それを分かっていながらも、ボクは自分の好奇心を抑えることが出来なくて、一夜くんに問いかけた。

「いつもひとりでどこかへ行っちゃうんだから。ボクにも秘密教えてよ」

「秘密なんてないし。俺はお前の秘密なんて知らないし。フェアじゃないでしょ」

「そ、そうだけど」

「ついてこないでね」

 プシュー。タイミングよく到着したバスのドアが開き、一夜くんはそのバスに乗り込んだ。そのままドアは閉まって、バスはブロロロと走り去っていく。ボクはひとり、置いてけぼりだ。


 ――絶対に、キミは隠し事をしていたよね。何をどこまで隠していたのかは分からないけど。みんなに知られたくないほどの秘密って、何だったのかな――

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ