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44 だから話を聞けって!!


朝、リリアーナ様に叩き起こされた私は、シトラ様がガヴェイン君と何処かへ行ってしまった事を聞いた。二人とも未婚の男女だし、シトラ様はゲドナ国で、何処へ行くにも外面が良い精霊達に囲まれていたので、疲れてしまったのではないのでは?私はそうやんわりと伝えたが、リリアーナ様に引っ張られしまい、私は支度をして宿の外に出る。


既に外には他の精霊達がおり、皆険しい表情を向けていた。周りの平民達は、美形三人が威圧感を出しながら突っ立っているのに、二度見しながら通り過ぎている。わー、ちょっと抜け出すだけでこれなんて。本当にあの子大変だよなぁ。ふと母が、よくクソ親父の事を「ヤンデレ」と言っていたのを思い出した。ヤンデレの意味は、恋愛対象に狂気的な愛情を持つ人。今目の前にいるのはヤンデレ精霊トリオと言った所か。そんな事を考えていると、赤髪のヤンデレがこちらを鋭く見た。


「遅いぞアメリア。お前がシトラに付けたチョーカーで、今の彼女の居場所を辿れ」

「えぇーそれは野暮すぎませんか?ガヴェイン君とイチャイチャしてるかもしれないのに」


もしもシトラ様とガヴェイン君が一晩でそんな関係になったのであれば、翌朝突然といなくなるのは分かる。というかほぼそうだろう。


……銀髪のヤンデレが珍しく、風を制御出来ず周りに纏わり付かせている。水色髪のヤンデレも身体中から汗のように水を出し、赤髪のヤンデレも体から陽炎を出した。……そして後ろにいるリリアーナ様も、人間なのに恐ろしいほどの黒いオーラを出している。一番後ろが怖い。


四人の威圧感に、私は顔を引き攣らせ冷や汗を出した。これはいけない、指示通りにしないと殺される。私は慌ててシトラ様に付けたチョーカーを魔法で辿った。あのチョーカーに、目を瞑れば居場所や、なんならチョーカーから、現在の様子を見れるようにしたのはやはり必要だった。一応聖女で、公爵令嬢の彼女のプライベートを覗き見れる様するのは抵抗があったが、絶対何かしてかすと思っていた。


「シトラさんは今城かな?えーっと、城で何………………」


チョーカーから見える光景に、私は言葉を失った。水色髪のヤンデレが怪訝そうにこちらを見た。


「どうした?城で娘は何をしているんだ?」

「……………えっ……と………」


どうすればいい?素直に言ったほうが良いのか?でももしかしたら、シトラ様が望んでこうなっているのかもしれない。そうなのであれば確実に野暮、いやもはや最低な事をしようとしているのでは?どう伝えれば良いのか脳をフル回転させながら考えていると、自分の肩に誰かが触れた。前を向けばそこには銀髪のヤンデレがおり、まるで彫刻の様な美しい顔面を向けてくる。


「シトラは、何をしているんだ?」


美しい顔面から、鋭利な刃物の様な、思わず悲鳴をあげたくなるほどの声を出す。あっ、これ言わなきゃ本当に殺されるやつだ。……私は冷や汗を出しながら、シトラ様に心の中で謝罪をして口を開いた。


「……し、城で……王太子、殿下と………その……ベ、ッドに、います………」



緊張しすぎて声が吃ってしまった。

だが次の瞬間、三人はそれぞれ移動魔法を唱えた。突然現れる魔法陣に、周りも驚愕し混乱している。私は慌てて側にいたリリアーナ様を引き寄せ、同じく移動魔法を唱えた。


あぁもう!本当にあの子は可哀想だな!?こんな環境だからろくに恋愛出来ず、あそこまで鈍感になったんじゃないのか!?


「城に突撃するなんて!!大問題になりますってば!!もーーー!!!」



まさかイザーク様を説得するために、こんな目に合うとは思わなかった。

こんな毎日を過ごしているであろうシトラ様に、私は同情した。






◆◆◆





「いいから!!話を!!聞けぇぇぇーーーー!!!!」



口が自由になった私は、剣を交えている二人に届くように叫んだ。結構な大声になってしまい、二人ともこちらを驚いた表情で見ている。私はそのまま畳み掛ける様に声を張り上げた。


「470年前にこのゲドナ国で起きた疫病!!それがまた起きようとしてるの!!!」


私が叫んだ言葉をようやく聞く気になったのか、ルーベンは驚いた表情から怪訝なものに変わる。


「疫病?だがそれは既に鎮まったはずだ」

「鎮めたんじゃなくて!当時の聖女が魔法で抑え込んだの!!」


470年前に起きた疫病。突然発生したそれは、感染した者が生きたまま腐敗していく病だった。原因もわからないその恐ろしい病が、何故世間に広く知られていないのか。……その理由は、疫病がたった数ヶ月で鎮まったからだ。


私が次の言葉を伝えようとした時、突然静電気の様なものが襲う。それと同時に体の拘束魔法が解かれ、私はすぐに起き上がり上半身を隠そうとした。……が、そんな私の頭に上着の様なものが覆いかぶさる。


「わっ!」

「それ着とけよ」


知らない男の声が聞こえる。私は頭上に掛けられたものを取ると、思った通り上着で、それは男のものなのだろう。


突然現れたその声の主へお礼を伝えるべく、前を向くとそこには茶褐色の猫耳が見えた。ガヴェインのものと違い小さい耳で、ピクピクと忙しなく動いでいる。思わずその耳に夢中になっていると、奥からガヴェインの唸り声が聞こえる。


「テメェ……どっから入ってきやがったんだ」

「なんだ居たのか狼っ子。そりゃあお前と同じ、移動魔法だよ」


飄々と応える男に、ルーベンも険しい表情を向けて剣を男へ向ける。


その男は、茶褐色の髪と耳で、やや中年寄りの男だった。赤い目を細めて二人を見ており、その表情は柔らかい。もしやこの男がアイザックが言っていた猫の獣人だろうか?あれぇ可笑しいな、私の部屋に入ってきていた男の声は、もっと若かったんだが。


「聖女王の言ってる通り、早く話を聞け。じゃないとゲドナ王を助ける前に、この国が滅亡するぞ」


猫の獣人の言葉に、目を大きく開いたルーベンは、そのまま暫くすると剣を鞘にしまった。彼は疲れた様なため息を吐いて、ベッドの上にいる私に目線を向ける。


「……話を聞こう」


思いがけない登場により、ようやく場が収まった所で、突然部屋の扉が開く。そこには目をハートマークにしたグレイソンの腕に胸を当てているアメリアと、その姿を見て頬を赤くし慌てているマチルダ。……そして、恐ろしいほどの形相をしたアイザック、ウィリアム、ディラン。そしてリリアーナがいた。思いがけない登場に、私は驚いて口を開けてしまう。え、何故ここにいる事が分かった!?というかアイザック達はどうした!?


自分に気づいたドアにいる皆は、その姿を見て固まった。アメリアだけは「うわぁああ〜〜」と悲惨そうな表情を向けた。その表情で、私は自分の今の現状に気づいた。

上着で隠しているが、上半身は臍の見える肌着のみ、そして王太子のベッドの上。そして隣には不審者扱いされている猫の獣人。そして最後に剣を持つガヴェインとルーベン。……もう、どこにツッコミすれば良いのか分からない現状だ。



私が皆に言い訳をしようと口を開いた所で、炎の熱と、蒸発した水。そして鋭い音を鳴らす風の音が聞こえたので………私は、次に起きる事を理解してため息を吐いた。


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