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36 愛の精霊と、猫

6/22 少し加筆しております(聖女聖人の在り方について)


この時代で、自分以外に加護を持つ存在がいないとは思っていなかったが、まさかルーベンがその存在である事には驚いた。

5歳の時に戦いの神ヴァンキルにより、加護を与えられ異世界から召喚されたルーベンは、先代の加護を持った聖女と同じく、ゲドナ王の養子となったそうだ。なのでマチルダとは兄妹だが血は繋がっていない。


私を除く、通常の聖女聖人と呼ばれる加護を持つ存在は皆、それぞれの神に直接召喚され異世界からやってくる。500年前には何人か加護持ちの存在がいたが、私は今のところルーベンしか知らない。よくよく考えると、予言の神は精霊に召喚された私に、何故加護を与えようと思ったのだろう?まぁ、与えてくれちゃったので戦争に参加する事になったのだが。


そんな彼は前の世界でもそれなりの高位の貴族だったそうで、あっという間に国の采配を任され、今では血縁関係のある妹ではなく、ルーベンが王太子だ。ゲドナ国は歴代の王は全て男なので当たり前といえばそうだが、それでも彼だから13歳で王太子となったのだろう。私に爪の垢を飲ませてほしい。同じ加護持ちでここまで違うとは。


「イザーク殿下にお会いする為に来たそうだが、生憎彼は、国の端にある医療施設の見学に行かれていてね」

「あっ知ってます、二日後に戻られるんですよね?」

「……ハリエド国では、王族の予定が誰でも分かるようになっているのか?」


いくら平和なハリエドでもそれはない。と思ったが詳細を伝えるとギルベルトの立場が悪くなりそうなので、私は苦笑いで返答した。

突然の王太子の登場に周囲が騒然となり、申し訳ないがルーベンをそのままにして逃げようと思ったが、彼が握る手が異常なほどに強く離れない。すっっげぇ強いじゃん、もげそうなんだけど。


どうしたものかと慌てていると、突然また黄色い魔法陣が側で浮かび上がり、そこから少し長めの灰色髪の青年が現れる。深緑の軍服を着崩さずに着た、金縁の眼鏡が似合う青年はルーベンに向かって怒りを露わにする。


「閣下!!突然会議中に抜け出して!何をしてるのですか!?」

「グレイソン、丁度良かった。お前にも紹介したかったんだ」


グレイソンと呼ばれた青年は、怒りの表情のまま此方へ向かってくる。元からつり目の様だが、怒りで更につり上がっている。そして手を握られている私に気づくと、驚いた表情を浮かべた。


「……何故、ハリエド国の聖女がこの国に。特にあの国から、連絡はありませんでしたが」

「どうやらお忍びで来たらしい。シトラ、この男はグレイソン。使者の加護を持つ俺の秘書だ」


使者の加護を持つ者までいたのか!?あまりの衝撃の連鎖に引き攣った表情を浮かべていると、グレイソンは金縁の眼鏡を指で上げながら、背筋が凍るほどの冷たい目を向ける。何かしたか私?


「500年前の建国の聖女。とても聡明な方だと聞いておりましたが、急な訪問や我が国の王太子との馴れ馴れしさ……とんだ作り話だった様ですね」

「す、すいません……聡明じゃなくて……」


馴れ馴れしさは知らないが、それ以外は本当なので何も言えない。私が彼に愛想笑いを浮かべていると、後ろから肩を掴まれる。その方を見ると、美しく微笑むアイザックがいた。もはや生きていると思えないほどの美しい顔面に、グレイソンも、周りの野次馬も頬を赤くさせている。アイザックはグレイソンを見つめながらゆっくりと口を開く。


「少々事情がございまして、連絡もなしに突然の訪問をお許しください。……しかし、我がハリエド国の聖女に、()()()使者の加護を持った、()()()秘書が。随分と不躾な態度ですね?」

「なっ!」


あっこれキレてる。顔面でカバーしてるけど物凄いキレてる。しかもちょっとガヴェインの事も悪く言っている。別にグレイソンの言っている事は本当なのだから、そんな怒らなくてもいいのに。だが次には反対の肩に触れたリアムが、同じく美しい顔面でカバーしながらグレイソンを見る。両側に美の権化がおり、眩しすぎてサングラスがほしい。


「ゲドナ国では、随分と失礼な方を王太子の側に置いているんですね?人手不足ですか?」

「っ、な、何なんだお前たちは!?」

「ああ申し遅れました。僕はペンシュラ伯爵家当主、リアム・ペンシュラと申します。ハリエド国王より依頼され、貴国との貿易での責任者を務めております」

「ペンシュラ伯爵!?」


どうやらリアムはゲドナ国でも有名らしい。自分の親友が有名人な事に、私は全く関係ないのに自慢げに鼻息を出した。グレイソンは思わぬ人物の登場に慌てているが、まだ私の手を握るルーベンが、呆れた様にため息を出して彼を見る。


「ペンシュラ伯もそうだが、銀髪の貴人はハリエド国の王弟殿下だ。……ついでにシトラの周りにいる彼らも、カーター侯爵家の令嬢や最古の精霊達、それにお前と同じ使者の加護を持つ聖騎士だ」

「は!?ゲドナに侵略でもしに来たんですか!?」

「そう思う奴らが多いから、彼女達はお忍びで来たんだろ」


えっ、侵略しに来たと思われる位の面々なの?リアム以外は、ただイザークのイザークを潰しに来た連中なんだが?アイザックとリアム以外の皆も、グレイソンに鋭い目線を向けている。何だか彼が可哀想になってきたので、私は皆を止めようとしたが、それよりも先にアメリアが頬を膨らませてグレイソンの前に向かっていった。歩くたびに揺れる胸に、グレイソンは目のやり場に困ったのか下を向く。アメリアはそのままグレイソンの目の前で立ち止まり、膨れた表情で彼を見た。


「シトラさんは、確かに頭弱いし!令嬢だけど平民みたいだし!異常な魔力量しか取り柄がないけど!でも500年前にハリエド国を建国した、私のママも認めるすごい人なんですけど!!」

「ねぇそれ褒め言葉なの?貶してない?」


ちゃんと私のお願いを聞いて「シトラさん」にしてる所は褒めるべきだが、それ以外はひどい。私の声掛けを無視して、アメリアは下を向くグレイソンの額を軽く小突いた。

……その時、額に小さく魔法陣が浮かび上がったのを私は見落とさなかった。他国の使者に何をしたのか問いただそうとしたが、それは小突かれたグレイソンの、ハートマークの目により言えなくなった。アメリアは腕組みをして彼を見る。


「ママが認めるシトラさんを、もう貶さないでください!」

「はい!!アメリアさん!!!」


先程までの真面目で冷たいグレイソンは何処へやら。情熱的にアメリアを見て、大声で返事をしている。というか、アメリアの名前を何故知っている?あまりの変わり様に私も、そしてルーベンも驚いているが、精霊達三人は何か知っている様で、アメリアに呆れた表情を向けていた。


「ねぇアイザック、アメリアさん何したの?」


私の問いかけに、アイザックは苦笑いを浮かべて説明してくれた。


「アメリアは、神と神から生まれた特殊な精霊で、「愛の精霊」なんだ」

「アイって……あの、「愛」の事?」

「そうです!その愛です!!」


私達の会話が聞こえていたのか、アメリアは此方を振り向いて、自慢げな表情を向ける。


「私は両親である神二人が、数百年愛し合った結果生まれた愛の精霊です!!あっ愛し合ったっていうのは、両親が毎日濃厚な性」「それ以上言うなよ!?」


ルーベンやリリアーナは成人前なのに、なんて事説明しようとしてるんだ!?ほら見ろリリアーナさん後ろで顔隠してるし!純粋なガヴェインも頬を赤くしてるじゃないか!!ルーベンだって!………いやルーベンは平気そうだな。本当に13歳か?アイザックは咳払いをして、再び説明に戻る。


「アメリアは愛の精霊で、その……魅了で相手を意のままに操れるんだ。だから彼は、アメリアの魅了の力で操られている」

「は!?他国の使者に何してるの!?」

「大丈夫ですよ〜!軽い魅了ですから、ちゃんと意識はあります!私の言う事が絶対になったけで!!」

「全然軽くないなぁ!?」


私は慌ててアメリアに魅了を解除させようとしたが、グレイソンは魔法の効果が強く出る体質だった様で、解除しても数週間は効果が切れなくなってしまった。それでも確かに意識はあるし、ルーベンとの対話も変わらず出来ていたので安心した。まぁアメリアを見る目はうっとりとしていたが。


あまりにも騒がしくしていた為、私達の周りには野次馬が大量に湧いてしまった。ルーベンと私達はまた明日会うこととなり、今日はこの場で解散となった。リアムも仕事があるので別れ、私達は予約を取っていた宿に向かった。……イザークが帰ってくるまでやる事もないので、ルーベンの誘いに乗ってしまったが、明日もこの調子で皆が暴れたらどうしよう?寝る前に、明日すぐ謝罪出来るように練習しておこう。









◆◆◆







ジョシカイ、だの何だの言って女達が集まって世間話をしていたが。それも収まった深夜に、俺は自分に割り当てられた部屋を出て廊下に出る。そのまま耳を隠す為にフードを被っていたが、後ろから聞こえる足音に耳が反応した。


「ガヴェイン、何処へ行く」


振り向けばやはり、アホ聖女を狂うほどに好いている王弟がいた。全員が振り返る様な小綺麗な顔をしているが、この男はシトラを殺そうとしたのだ。刺された本人は許しているし、男も反省したのかその後は真面目に王弟の仕事をして、この男からシトラに関わる事は無くなっていた。……自分も最初は、シトラを殺そうとしていたので何も言えないが、それでも俺を差別的に見るこの男が嫌いだ。


「俺が何処へ行こうが勝手だろ、気味悪ぃな」

「……お前とは、暗殺者として捕らえた時以来全く話していなかったが、ウィリアムの言う通り、本当に食って掛かる狼だな」


シトラの前では穏やかな表情しかしないが、俺には随分と冷たい表情を向ける。この王弟の男は俺の事を毛嫌いしているのは分かっているので、舌打ちだけして廊下を進んだ。そのまま放っておいてくれると思ったが、男は俺の後ろに付いてくる。……宿から出て、人通りの少ない道を進んでも付いてくるので、俺は流石に苛立ってきて後ろを鋭く見た。


「何処まで付いてくるんだよテメェは!!」


俺の怒鳴り声に、王弟は怪訝そうな表情を向けた。


「お前も俺と同じで、昼間からの気配に気づいていると思ったんだが、買い被りすぎたか?」

「……」

「やっぱり気づいてたか。……ウィリアムも来たがっていたが、あいつにはシトラの護衛を頼んだ」


……そう、この王弟の言う通り、俺は昼間から感じた異様な気配に気づき、その気配は宿に着いても感じていたので、周辺を探ろうとしていた。自分と同じ事をしようとしているなら、声をかけた時にさっさと言えばいいだろうに。このクソ王弟は本当に性格が悪い。


「俺はお前みたいに、鼻がきく獣じゃない。さっさと見つけてくれ」

「テメェなぁ!?」


まるで犬の様に言ってくる男に、俺は怒りで胸ぐらを掴もうとした。




……だがその時、上から男の笑い声が聞こえた。




「まさか精霊と狼の獣人が仲良くしてるなんて、見るまで信じれなかったな」

「っ!?」



俺達はすぐに上を見たが、そこには誰もいない。だが直ぐに耳元で剣が抜かれる音が聴こえ、俺は自分の剣を抜き向かってきた衝撃を受け止める。異常に重い剣に、俺は自分の手が痺れるのを感じ顔を歪める。月が雲に隠れているので姿は見えないが、それでも男の笑い声は聞こえる。


「流石狼だな!」

「昼間から俺達を監視してたのはテメェか!?」

「ちょっと頼まれてな!お前達にも、あの聖女様にも危害を加えるつもりはねぇから安心しろ!」


言い返そうとしたが、突然後ろから男に目掛けて突風が放たれる。男は軽々と避けていたが、それでも刃物の様に鋭い突風で服が破ける音がした。突風を出した王弟は鋭い目線で男を見る。


その時、ようやく雲を抜け出した月があたりを照らし、その男の姿を曝け出す。……男は、茶褐色の髪で、頭には髪と同じ色の耳が付いていた。長い尻尾は、今の状況を楽しそうにゆらゆらと揺れている。……俺も、そして王弟もその男の姿に驚き目を見開いた。


それを見て男は、血の様な赤い目を細める。


「何だ、自分の種族以外の獣人を見るのは初めてか?」

「……お前」





月の光で姿を見せた猫の獣人は、驚く俺達を見て笑った。




ちょっといつもより長くなってしまい、申し訳ございません。

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