表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
83/119

31 仲間集め


二股野郎の玉潰そう作戦を立てた翌日、私はゲドナ国へ向かう準備の為に城へ来ている。


詳しく言えば、城の王国騎士団に用があるのだ。建国祭の準備で何度も城へ来ていたからか、私の名前が有名だからか、城の門番も通る使用人達も皆笑顔で迎えてくれた。なんなら公爵家の使用人よりも優しいかもしれない。うちの使用人、特にメイド長はお菓子に制限をつけてくるからね全く。


そのまま騎士団の訓練場へ向かうと、一際目立つ赤髪と白の騎士団服の男が見えた。お目当ての人物が見えたので、私は駆け足で向かう。足音を聞いてその人物、ウィリアムはこちらを見る。


「ウィリアム!」

「珍しいな、貴女が俺に会いに来るなんて」


そう言えば、いつもウィリアムの方から会いに来ていた。私は笑顔で前に立つと、ウィリアムも微笑んで頭を撫でてくる。どうやら騎士団員の訓練を見ていたらしい、後ろで汗を流しながら訓練をしている騎士団員が、皆口を開けて驚愕していた。そりゃそうだ、令嬢がお供なしで、王国騎士団に用なんてそうそうないだろう。私はそのままウィリアムに頭を撫でられ気持ちよくなりながら、肝心の旅行の話を告げる。


「ねぇねぇウィリアム!もしよかったら一緒に旅行とか」

「行く」

「返事早くない?」


まだ最後まで伝えていないのに、真顔で食い入るように返事をしてくる。頭を撫でていた手は肩を掴み、美しい顔面を近づけてくる。照れる所なんだろうが圧が強すぎて怖い。


「で、何処に行くんだ?いつ行くんだ?」

「ゲドナ国!イザーク様の玉潰しに行くの!」

「……貴女は、もっと恥じらいを持った方が良い」


私はウィリアムに、アメリアとイザークの恋模様と、イザークの愚行を説明した。だが説明すればするほど、ウィリアムの表情は険しくなっていく。……そして、最後まで話した所で呆れた様なため息を吐かれた。


「……貴女らしい解釈だ」

「どういう事?」

「何でもない。……分かった、間抜けを再起不能にしよう」

「良かったー!後はねぇ、アイザックとディランを誘う予定なんだ〜」

「あの親馬鹿精霊は要らないだろう」


ウィリアムが鼻で笑いながらそう言うと、突然空から怒鳴り声のようなものが聞こえた。私達はその正体が分かっているので、面倒臭そうな顔をしながら空を見た。


「誰が親馬鹿精霊だ!!この変態精霊め!!!」


落ちてきた精霊は、そのまま訓練をしていた騎士団員に突撃する様に地面に落ちた。砂埃と共に大量の水が団員に襲いかかり、皆悲鳴を上げて逃げている。

私は颯爽とウィリアムに横抱きをされ、ドレスが濡れるのは回避できた。そのままずぶ濡れの上半身裸のディランは、険しい表情を向けながら私達の元へ向かってくる。


「俺様を誘わずに愛娘と旅行だと!?お前とアイザックなんて、娘を襲うに決まってるだろう!?」

「シトラにパパと呼ばれて興奮する男に言われたくないんだが」

「俺様のは家族愛!!お前達のは犯罪!!」

「今目の前で、騎士団員を洪水で襲ったのも犯罪じゃない?」

「ほらお前のせいで娘が変なこと言う!!」

「あっはぐらかした」


そのまま露出狂は私達の目の前で「俺様も行く!」と駄々をこねている。正直この姿を見て一緒に着いて来られるのは不安しかないが、ここまで暴れるディランを放っておくと後が大変だ。……私とウィリアムは、同時にため息を吐いた。







次にアイザックを誘う為に、私は王弟の執務室へ向かった。そう言えばアイザックに会いに行くのも初めてかもしれない。少し緊張しながらドアをノックすると、中からアイザックの声で「後にしてくれ」と声をかけられた。やはり王弟殿下であるアイザックには、先に連絡しておくべきだったな。私はまた後で来ようと中へ声をかける。


「では、また後で来ますね」

「え!?シトラ様!?」


中からアイザックの驚いた声と、中から慌てている音が聞こえた。そして勢いよくドアが開くと、目に隈が出来たアイザックが驚いた表情でこちらを見ている。


「ど、どうしてここに!?」

「来ちゃ駄目でした?」

「全然!全然大丈夫です!!」


叫ぶような声を出すアイザックに吃驚しながら、私は部屋の中に招かれた。


初めて来た王弟の執務室。王族の証である真紅色を基調にした豪華な部屋で、座ったら沈みそうなソファと大理石のテーブル。そして王弟の座るのであろう執務机と椅子が置かれている……が、その机を埋め尽くすほどの書類が、これでもかと言うほどに積み上げられている。思わず真っ青になって見つめていると、隣にいたアイザックが苦笑いをした。


「これでも、普段より少ない方なんですけど……」

「少ないのこれ!?」


仕事量が三倍になったと聞いていたが、これが三倍!?前も相当酷いだろ!あの国王は精霊だからって使いすぎじゃないか!?こんな隈が出来ちゃう位に大変だなんて!!私は二人きりなので砕けた言葉遣いに変えた。


「ちゃんと寝てる?ご飯食べてる?」

「だ、大丈夫。食事はちゃんと取ってるよ」


あっ寝てないな!?寝てないぞこれ!?目線を泳がせるアイザックを見て、私は頬を膨らませてアイザックの腕を掴み引っ張る。突然の行動に驚いているが、やはり眠たいのか私に引っ張れるままだ。そのまま二人掛けのソファにアイザックを座らせると、私も隣に座り、自分の腿を軽く叩く。呆けている彼に、私は頬を膨らませたまま声をかけた。


「ちょっとでも寝て!」

「………えっ、と」


何故か頬を赤くするアイザックに、私は堪えかねて彼の頭を掴み無理矢理腿の上に寝かせる。呆けているアイザックに、私は彼の美しい銀色の髪を撫でる。


「ちょっと寝たら私も手伝うよ。500年前にもやってたし、少しは手伝えるよ」

「……………うぅ」


アイザックは、耳まで赤くした顔を自分の手で隠す。何だその声はと思ったが、そのまま髪を撫で続ける。……あ、そう言えばゲドナ国の事を伝えなくてはならない。こんな仕事まみれの王弟殿下が来るとは思わないが、一応聞いてみよう。私は撫でる反対の手で顔を隠している手を突く。


「ねぇねぇアイザック。もし良かったら私と旅行に」

「行く」

「何でみんな即答なの……でも休み取れる?大丈夫?」

「勤続500年分の有給があるから大丈夫」

「パワーワードすぎる」


そのまま私は顔を隠すアイザックに、事の経緯をウィリアムの時と同じく話した。すると段々と顔の赤みもなくなり、ようやく手をどかしたと思えば、無表情でこちらを見ている。


「何がどうなって、そうなったんだ」

「ふぇ?」

「いや何でもない。……でもそうか、君とゲドナ国へ行くのは二度目だ」

「そうそう!あの時は魔物退治大変だったよねぇ!」


アイザックとゲドナ国へ行くのは、500年前の近辺諸国への挨拶回り以来だ。その時はまだ魔物が存在していたので、ゲドナ国に大量発生した魔物を急遽狩ることになって大変だった。その時に当時の国王と友好関係を築けたので、それから今までゲドナとハリエドは親密な関係にある。アイザックも当時を懐かしそうに目を細めた。


私はそのまま銀髪を撫で、アイザックが少しでもリラックス出来るようにした。少し落ち着いてきたのか、そのまま彼は目を瞑り規則的な吐息を出す。


「やっぱり疲れてたんだね」


私はそのままアイザックを寝かせて、自分は魔法でこちらへ移動させた机の書類に手を掛けた。







◆◆◆







さて、人数は揃った。魔法の使える精霊四人もいれば流石に安心だろう。皆来てくれるか心配だったが、アメリアは「絶対来ます!!」と言っていた通り全員参加だ。私はその晩、父に嘘偽りなくゲドナ国へ、王子の王子を潰しに行く事を伝えた。普通に許されると思ったが、父は険しい表情を向ける。


「許可できない。友好国であれど、他国に行くのは危険だ」

「いや、流石に精霊四人もいれば安心では……」

「その精霊が一番危険だ。魔法を禁止されているシトラに、あの精霊達は何をするか分かったもんじゃない!!」


いやいや、流石にないでしょと首を振るが、父は頑なに許可しない。私はどうしても行きたい事を伝えるが全く受け入れられない。やがてそれは喧嘩の様なものになり、話が脱線してケイレブとルーベンと共に建国祭で踊った事を責められるまでになった。私は段々苛立ちを抑えられず、最終的には初めて父に怒鳴り声をあげる。


「もういいですもん!こっそり行きますもんねーだ!!!」

「もう言っている時点でこっそりも何もないだろう!?……ああもう!分かった分かった許可しよう!」


苛立ちながら父は許可をしてくれたので、私は喜んだ。だが「ただし!」と父が睨みながら付け足してくる。


「行く際の旅費はハリソン家では出さない。自分で用意しなさい」

「えっ?」

「用意できないならゲドナ国へ行くのは諦めて、私と家で仲良くお茶をするんだ」


なんか最後の方父の希望が入った気がするが、どうやら父はただの令嬢である私が、ゲドナ国までかかる資金を家のお金なしで用意できないと思っているらしい。勝ち誇ったような笑みを浮かべる父がいる。


「言っておくが、カーター家やペンシュラ家に頼るのも駄目だからな?」

「………」

「用意できないだろう?さぁさぁお父さんとお茶をしよう!実はシトラが好きだろうと思って取引先から貰ったお菓子が」


父が嬉しそうに引き出しを開けているのを、私は机を叩いて止める。驚いた表情を向ける父に、私は笑顔を向けた。


「お父様!許可をいただきありがとうございます!!」

「……シ、シトラ?」

「実は私、500年前の戦争で旧ハリエド国から賠償金を頂いていまして、それを一部城の秘密の地下室に保管しているのです。人間が三世代豪遊できる位の金額でして」

「えっ」


目を大きく開く父に、今度は私が勝ち誇った笑みを浮かべる。


「ハリソン家も、他の家からも借りずに!私はゲドナ国へ行って参ります!!」

「ちょ、ちょっと待て!?そんな大金の話聞いてな」


私はそのまま、慌てている父にお礼を伝えて執務室から出た。廊下からも聞こえるほどに暴れている父の声が聞こえるが知ったこっちゃない。私を普通の令嬢と思っていた父が悪いのだ。


確か隠し地下周辺は、今は先代王の遺した温室になっていた気がする。現在は王妃様が所有しているので、明日ギルベルトに掛け合ってみよう。正直500年前の財宝が今どの位の価値になっているか分からないが、それでも六人分の旅費にはなるはずだ。


「よーし!準備するぞー!!待ってろイザーク!!」


私は自分の部屋に向かいながら、気合を入れて声を出した。


次回、王妃様とご対面です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ