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28 兄は、男性だった


謹慎後の早朝、俺はアメリアに教会に呼ばれた。恐らく建国祭後に発表された人事異動についてだろう。久しぶりに教会の司教用の祭服を着て、俺は指定された部屋に向かう。中に入ると既にいたアメリアが、美しい顔を歪ませてこちらを見ていた。


「イザーク様!何で私が次の大司教なんですか!!!」


やはりこの話か。俺はため息を吐いて、頭を掻きながら彼女を見る。


「教会は精霊王でもあった聖女を祀り、遺物や魔術魔法を研究する施設だろう?この教会でお前以上に其れに詳しい職員がいると思うかい?」

「150年位研究すれば、皆この位になりますよ!!」

「人間の寿命がそんなにあると思うか?」

「やだやだ駄目駄目!!イザーク様辞めないで!ずっとここに居て!!ゲドナ行かないでー!!私は自由に研究がしたいだけなんですー!!」

「仕事しなさい」


その後も嫌だ嫌だと、半泣きになりながら俺に駄々をこねる。その姿がかつての恋人と被り、思わず保護者のような目線で見てしまう。アメリアは何を言っても無駄だと思ったのか、最終手段で俺に抱きつき、職員が舐めるように見ている胸を押し付けながら上目遣いで見る。


「私と一緒に居てください!イザーク様!!」


普通なら、頬を赤く染めてしまう所だろうが。生憎俺が反応するのは一人だけなので、目を細めて窘めるように彼女を見る。


「………アメリア……私に、それ通用すると思う?」


アメリアは目をまん丸に開き、そして暫くすると舌打ちをしながら離れていく。教会の男性職員の高嶺の花が、美しい顔を歪ませこちらを睨む。


「そうですよね!イザーク様はシトラ様にしか興味ありませんもんね!」

「なっ」

「500年前の宰相の魂が混じったとしても、元の魂もちゃんとあるんですから。13年も元の魂の気持ちなしで、公務そっちのけでシトラ様を守るなんて出来ませんもんね!聖女の論文まで出して!このストーカー男!!」

「……」

「あーあ!シトラ様可哀想に!こんなストーカー王子に?腹黒王子達に病んだ精霊達にも想われて!誰の気持ちに答えても、ろくな恋愛できないですって!」


一気に開き直って、俺と彼女を同じく想う男達の愚痴を、事実を言うのを、俺は止める事が出来なかった。


そのままアメリアの攻撃を受けつつ、俺は早く彼女に会いたいと頭の片隅で切望した。







◆◆◆





朝、妹が何度目かの失踪をした。今度はご丁寧に置き手紙も置かれていたが、内容が「恋愛イベント行ってきます!」だったので、それを見た俺と父は倒れた。一体誰に、何を受けるのかも曖昧にしか書かれていないので邪魔する事も出来ない。ただただ俺は絶望に打ちひしがれ、妹の帰りを待った。絶対叱ろうと思った。




が、妹の護衛であるガヴェインが現れた時、その体に蝉の様にしがみ付いている妹に俺は固まった。手足を使い、ガヴェインの体にしがみ付いて震えている。俺は妹と騎士を何度も交互に見て、ようやく声をかけた。



「……おい、なんだいこの蝉は」

「お前の妹だろ」

「何で妹が蝉になってるんだ」


ガヴェインは耳を下げながら、言いづらそうに口を開く。


「…………失恋したってよ」

「は?」

「朝、移動魔法でやって来て、そう叫んでからこの調子だ」



……えっ、失恋?妹は、恋愛イベントを受けるではなくした方だったのか?頭の処理が追いつかず呆然としていると、俺の存在に気づいたのか、妹は蝉が違う木に乗り移る様に俺の胸に飛び込んでくる。ガヴェインは名残惜しそうに右手を出して、すぐにそれを戻した。基本的に面倒事に関わるのが嫌そうな奴が、何故そんな態度を取っているのか分からず俺は怪訝な表情を向けてしまったが。……その理由は、その蝉のように引っ付く妹のか細い声で理解した。


「お、おおにーさまぁ、ううっ……」


顔をこちらに向けた妹。シトラの表情は泣いて潤んだ瞳で、見たこともない程に弱々しく震えて自分にしがみ付いている。普段の元気な妹とは全く違い、その姿は色々な意味で庇護欲を掻き立てられるものだった。思わず喉が鳴ってしまいそうになるのを咳払いで誤魔化す。


「……シトラ。公爵家の令嬢が、そんな姿を人前で晒すんじゃない」

「うー……」


何だその声は、駄々か可愛すぎるだろう。こんな姿を奴に見せていたのかふざけるな。俺はガヴェインに一応、ここまで連れて来てくれた礼を伝えた。流石にこの状態の護衛も何もないので、ガヴェインは渋々教会へ戻っていった。


俺はそのまま妹を抱え込み、離れない妹を引っ付かせたまま仕事をした。父も母も、使用人も最近の妹の情緒不安定具合に混乱をしている。特に父は羨ましそうに見ていた。正直自分に引っ付いて体を擦り寄せてくる妹は可愛すぎるので最高だが、こんな状態になった理由を知りたい。

仕事を終え、食事を終わらせたらゆっくり話を聞こう。時間が経てばこの状態の妹も、流石に少しは元気を取り戻すだろう。……そう思っていたが、妹は時間が経てば経つほど甘えたな性格になって行く。もしかしたら建国祭でのストレスもあったのだろうが、引っ付く強さは増していき、妹の色々な部分が当たり俺も流石に手が震えてくる。


夕食も終え、何とか離して風呂に入りそのまま後は寝るだけになった。……なったんだが。


「お兄様と一緒に寝るぅううう!!!」

「……………」


風呂上がりの妹は、メイドに引っ張られても頑なに俺から離れない。流石に今までは人目があったので抑える事が出来たが、夜は駄目だ。二人っきりは絶対に駄目だ。というか寝巻き姿で、風呂上がりの柔らかい肌を当てるな我慢できなくなる。俺は必死に平静を保ちながら、全く離れない妹に声をかける。


「シッ、シトラ………流石に成人した男女が一緒に寝るのは」

「お兄様は家族じゃないですか!家族に男女もないでしょう!!」


後ろで引っ張っていたメイドが、妹の言葉に「あっ……」と哀れみの表情を向けてきた。おいやめろ余計に傷つく。

そのまま全く離れなくなった妹に、俺は腹を決めてため息を吐き、メイドに伝えてそのまま俺の部屋に連れて行く。メイド達は「明日は起こしに行きませんので!!」と興奮げに言っているので睨んておいた。妹に俺の気持ちを受け入れてもらっていないのに、そんな事するわけないだろう。


部屋に入ると、俺はそのまま妹ごとベッドに寝転ぶ。そして胸に顔を埋める妹へ、俺は声をかけた。


「どうしたんだ今日は。皆心配しているだろう」

「………」

「言わなきゃ俺も、何も助けてやれないよ」


俺の声掛けに顔をこちらに向けたシトラは、まだ涙を浮かばせながら口を開く。全く手間の掛かる妹だと内心笑っていたが、それは彼女の答えによって笑い事では無くなった。


「……イザーク様に、プロポーズされると思ったんです」

「イザーク殿下!?」

「でも、イザーク様はアメリアさんと恋人同士だったんです。……だから、イザーク様は私なんて、昔の女としか思ってなかったんです」



…………色々と突っ込みを入れたいが、俺は一番聞きたかった事を質問した。



「………お前は、イザーク殿下が好きなのか?」



その質問にシトラは頬を赤く染めて、俺の知らない女性の顔をする。恥ずかしそうに目線を逸らしていたが、やがてそれは収まり、真っ直ぐ俺を見る。……その仕草も、表情も全て初めての事で、俺はドス黒い感情が芽生えていく。




「…………はい」



その言葉と、色香を出す彼女に。


「…………そうか」


俺は自分の血管が切れる音と共に、気づいたら無理矢理彼女を引き剥がして覆いかぶさっていた。やろうと思えば案外、女性の力などすぐに抑え込めてしまうものだった。……驚いて目を大きく開く彼女に、嘲笑った声を出す。


「結局、お前はどこまでも俺を兄としか見てないんだな。だから平気で俺に、そんな事言えるんだな」


違う、こんな事を言いたい訳じゃない。彼女自身が望んでくれるまで、俺は努力すると決めたんだ。決して、兄の立場を使って捕らえようとしてはいけない。


「お兄、さま」


ああ、兄と呼ばれるのがここまで苛立ったのは、生まれて初めてだ。俺のベッドの上で、何もされないと思っている彼女が憎らしい。


「兄じゃない存在になりたいと……ただの男になりたいと、俺はお前に言っただろう?」


でも、我慢してこんな結果なんて、あんまりだろう?何度も手を出そうとして、何度も兄の立場に苦しんで。……なのに彼女は俺が言った言葉も忘れて、見たこともない表情で他の男が好きだと言うのだ。


俺はそのまま、シトラの寝巻きの前ボタンに触れる。俺の態度に混乱しているのか、彼女は固まって動かない。そんな危機感もない哀れな彼女に軽く笑い、抵抗もないのでボタンの一つを外す。……そうしたら、ようやく理解したのか首まで真っ赤に染まる。震える彼女に、もう遅いと声に出さずに変わりに二つ目のボタンに触れる。


そのまま、可愛い真っ赤な耳に小さく呟く。




「お前、そんな俺と寝たいって言っただろう?」





そのまま俺は、二つ目のボタンも外した。

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