表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/119

8 お茶会を開きましょう


シトラ・ハリソン。異世界から召喚された子供で公爵家の養子。

初めて彼女に会ったのは親戚のお茶会だった。この国では見たこともない顔立ちで、可愛らしい少女。初めて見た時から一目惚れをしたんだと思う。

兄が常にいるため声をかけることは難しかったが、俺の誕生日パーティーの招待客を聞かれた時に一番に彼女を希望した。…そのせいで両親に彼女への思いを気づかれてしまったが。


当日、美しく着飾った彼女を見て見惚れてしまった。見つめるだけで声も聴いたことがなかったので、可愛らしい声にまた胸が高鳴る。


少しでも彼女と話したい。そう思って常に見ていたため、彼女が兄から離れて中庭へ向かった時には自分も追いかけた。


途中で見失ったが、その代わりに聞こえたのは妹の声だった。

妹を見て、倒れた彼女を見て、また妹が問題を起こしたと思った。しかし彼女、シトラは妹は悪くないと説明をしてくれたので勘違いだったが。



特に両親から言われたわけじゃない。けれど、他の貴族たちは皆、リリアーナを妹に持つ俺をかわいそうな目で見てくる。そのたびに、もっと有能にならなければならない。そう思ってしまう。

どれだけ努力しても功績を残しても、誰も俺を憐れみの目以外で、見てくれる人はいなかった。



「今まで頑張ってこられたんですね」



そう言われて撫でられている今は、夢じゃないかと思ってしまう。

じゃなきゃ、恋焦がれていた人に、自分が一番欲しかった言葉をかけてくれるなんて、あり得ないと。


「でも無理しないで!私を是非頼ってください!ケイレブ様のために頑張りますので!」


そう笑顔で伝えてくれるこの人が愛おしい。

胸がいっぱいになり、勝手に手が動いてしまい彼女を困らせることになってしまったのは、とても恥ずかしかった。


まだリリアーナを信じたわけじゃない。けれど、彼女が俺とリリアーナのために力を貸してくれると言っているのだ。

だから、俺ももう一度妹を信じてみようと思った。







ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


あの後、ケイレブとリリアーナ見守り応援隊を結成した私だが、どうやってリリアーナを応援しようか悩んでいた。

ギルベルトやリアム、そして兄や父に話を聞けば、本当にリリアーナは問題児だったらしい。「え、知らなかったんですか?」と若干箱入りすぎる私に引き気味だったギルベルトの顔が思い出される。


リリアーナは気が強く我儘で、お茶会で気の弱そうな令嬢を見つけては礼儀作法の間違いを嘲笑ったり、暴言を吐いていたそうだ。全く今のリリアーナと違うのは、数ヶ月前にカーター夫人、リリアーナの母が倒れてからだという。夫人は自分の娘の問題の後始末に追われる毎日で、体を病んでしまったそうだ。

そこからリリアーナは変わった。自分でも開いていたお茶会をやめ、部屋にこもるようになったらしい。


侯爵も、そしてケイレブも妹の問題により肩身が狭い思いをしていたようなので、この前の兄なんだから見守れよと言ったのは、いささか無神経だったかもしれない…いや無神経すぎる。

しかし言ってしまったものは戻らないし、ケイレブもリリアーナを信じてみると言ってくれたのだ。


問題はどうやってリリアーナを見守り助けるか…でも、リリアーナのやってたことって礼儀作法を教えてたって感じだもんなぁ、確かに言い方めちゃくちゃきつい子だけど、別にそれだけで教えてくれる知識はとてもためになったし…まずはリリアーナを外から出して、少しでも周りと仲良くさせなくては…でもリリアーナを招待してくれる令嬢いるのかなぁ…あ。


「私がお茶会をひらけばいいのか!!!」


そうだ!私がひらけばリリアーナもケイレブも呼べるし、他の貴族子息令嬢も呼んで今のリリアーナと話して貰えば、彼女が改心したことを知らせることができる!私天才じゃないか!!


そうと決まれば、と夕食の際に両親と兄へ伝え、お茶会の準備に取り掛かった。父は「なんで今更!?まさか誰かと親しくなりたいのか!?」と慌てられたが、事を説明すると落ち着いた。が代わりに兄が「俺のいない間にそんなことに…」とぼやいていたが、何か言い返すとまた怒られそうなのでそのままにした。

使用人達にお茶会をすると伝えると、「ようやくお嬢様も令嬢らしい事を!」と失礼な事を言われたが、皆喜んで準備を手伝ってくれたし、なんなら私よりも張り切っていた。





そうしてコツコツと準備したお茶会は、無事に当日を迎えられた。

とりあえず兄の知り合いの家や、公爵家とゆかりのある家、そしてカーター家へ招待状を出したのだが、なんと全員出席、なんなら噂を聞きつけて自分も招待してほしいと連絡がくる始末。…さすが公爵家、伊達に貴族で一番の爵位じゃない…!



「シトラ嬢、お招きいただきありがとう。これは城の庭園で摘んだ花です、どうぞ」


ギルベルトが王子スマイルで美しい薔薇の花束をくれる。花の効果あってか背景がキラキラして見える。…あれ、この時期に薔薇?これもしかして先代王が愛した温室薔薇園の薔薇じゃないかなーこれいいのかなー怒られないかなー?と思いつつ、そっと受け取る。


「シトラ!今日のドレスもとても可愛いね。ご招待のお礼としてこちらをどうぞ」


可愛らしい笑顔でやってきたリアムはこの前私が絶賛した紅茶の茶葉だった。ちょうど切れそうだったのでありがたい。


他の招待客に黄色い声援を浴びながら、二人はお茶会の会場へ向かっていった。お互いがお互いの贈り物を見て鼻で笑っている。男同士で競い合ってるのかな?いい友情だな。


そう思っていると、また馬車がやってくる。今度はカーター家の紋章だ。

ドアが開くと少し目線を泳がせているリリアーナと、彼女をエスコートするケイレブが降りてきた。どうやら少しずつ歩み寄ろうとしているらしい。


「ようこそ我が家へ!お二人とも楽しんでください!リリアーナ様、会えて嬉しいです!」


そう言って駆け寄るとリリアーナは恥ずかしそうに耳を赤くして、「ええ」とだけ言ってそのまま会場へ向かう。すれ違う途中でケイレブはこちらを見て微笑んでくれた。





お茶会開始の挨拶をし終わると、大勢の招待者に囲まれた。今まで一度も開いたことがないお茶会のためか、皆公爵家と縁を結びたいのだろう。よかった!礼儀作法や社交辞令の練習もしっかりしておいて…!


肝心のリリアーナはどうかというと…ケイレブの側で離れないようにしているが、その周りには誰もいない。流石にすぐに話しかける人たちは少ないか。私は挨拶を無礼にならない程度に区切り、リリアーナ達の元へ向かう。


「お茶会の装飾や、お茶やお茶菓子のお味はいかが?私が初めてお茶会を開くものだから、使用人達みんなが張り切って、こんな豪勢になってしまったの」


リリアーナに話しかけると、彼女は少し恥ずかしそうにしている。


「12歳で初めてお茶会って、あまりにも遅すぎないかしら?…まぁ、確かにとても素敵なお茶会ね」

「よかった〜!リリアーナ様に怒られないようにしっかり貴族マナーも見直して準備したから!」

私たちが話しているのを見て、周りの子息令嬢は驚いているのか、小さな声で囁きながら話している。


「俺もハリソン公爵家に来るのは初めてだが、中庭も美しいし、お茶会も今まで見た中で一番です」

「そうなんです!うちもカーター家に負けず劣らずの中庭なので、紹介させてください!リリアーナ様もこっちにきて!」


そう言ってリリアーナの手を掴み自慢の中庭へ足をすすめる。リリアーナは掴まれて驚いて「貴女令嬢としてのマナーを!」と言っているが素直に握られたまま付いてきてくれる。

それを見てケイレブはリリアーナの態度が意外だったのか、目を開いていたが、その後可笑そうに笑って私たちの後ろについてきてくれた。


次回でカーター兄妹編は最後の予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ