20 踊りましょう
教会の晩餐会を行う会場に到着した私は、そのままケイレブにエスコートされながら会場へ向かった。会場に着くと既にギルベルトとリアムがおり、二人とも私達を見て驚いていた。
二人へ話しかけようとしたが、私達の登場を心待ちにしていたであろう自国の貴族や、他国の要人が周りを囲んだ。ケイレブは、自分よりも遥かに年上の貴族要人達に、緊張もせず堂々と話している。えっ、私いる?と思うほどに立派な貴人として接していたので、私は開いた口が塞がらない。えっ、私いらなくない?
「シトラ、どうかしたか?」
そんな私の表情を見て心配したのか、ケイレブがこちらに声を掛けてくれた。あまりにも堂々としてて素晴らしかったです。と言ってやりたいが、それは年上の彼に失礼だと思い少し言葉を考える。考えた末、一番しっくり来る言葉を告げた。
「ケイレブ様に見惚れてました」
「……お前なぁ」
ケイレブは眉間に皺を寄せながら、頬を少し赤く染める。ちょっとストレート過ぎたかと私も恥ずかしくなってきたが、本当にそう思うので良いのだ。なんならもっと「格好いい!」とか「よっ男前!」とか言いたかった。ケイレブは咳払いをして、そのまま頬を染めた表情で私を見つめる。
「あんまり、可愛い事を言うんじゃない」
「かっ!?……いやいや、何言ってるんですか全くもう」
「……本当に可愛いよ、お前は」
あまりの破壊力のある表情を向けてくるケイレブに、私は社交辞令な事を忘れて耳まで赤くなっていく。なんだよもう!皆最近、私を恋愛脳にしようとしてるな!本音と建前がわからない女になんて、私ならないんだからね!
「もう!私じゃなかったら勘違いしちゃう所でしたよ!」
「いや、勘違いしていいんだが」
「そうやって私を恋愛脳にしようとする!!」
「恋愛脳?……はぁ、本当に鈍感すぎないか?」
しれっと馬鹿にしてくるケイレブに頬を膨らませていると、会場に音楽が流れ始める。ケイレブは私が添えていた手を取り、手の甲に口付けを落とす。思わず固まる私に、灰色の瞳で真っ直ぐ見て微笑んだ。
「俺と踊って頂けますか?」
「……へい」
思わず可笑しな返事をする私に、ケイレブは笑ってそのまま中央へ連れて行く。私はそのまま、音楽の音と共に彼とダンスを踊った。一応公爵令嬢としてダンスは踊れるが、ケイレブは友人達の中でも一番背の高い男性の為、何回か彼と踊った事はあるが、全て足がもたついてしまっていた。……だが、今日はなんだか踊りやすい。思わずケイレブを見ると、彼は苦笑した。
「毎回お前に足を踏まれるのも嫌だからな、特訓した」
「いや、それは私が下手だからで、ケイレブ様が頑張る必要は……」
「お前と楽しく踊りたいから特訓した。と言えばいいか?」
優しく微笑むケイレブに、私は恥ずかしさで終始顔が赤いままだった。く、くそう……ケイレブが恋愛脳にしようとしてくる。そして私の為にここまでの力を付けてきた彼に、何かお礼を返したい。
そして閃いた私は、目を輝かせてケイレブを見た。急に表情を変えたので、驚いたのか目を開かせている。私はそのまま呪文を唱え、自分の踊る床に魔法陣を出した。突然の魔法に、ケイレブも流石に慌てた様子だったが、私は笑う。
「シトラ!?」
「大丈夫です!」
そのまま魔法陣は光り、硝子の花びらが私達の周りに舞う。その花びら達は、私達に纏わり付き空中に浮かび、そして踊りの振り付けに反応して花びらも動く。美しい花びらの光景に、周りで同じく踊っていた貴族達は感嘆の声を上げながらこちらを見た。私と踊っているケイレブも、美しい花びらに驚いて口を開けている。私はしてやったりともう一度笑った。
「記憶が戻って色々な魔法を思い出したので、魔法同士を掛け合わせて色々作ってるんですよ!どうですか!?綺麗でしょ!」
「……ああ、すごく綺麗だ」
花びらを見て、私を見たケイレブは目を細めて嬉しそうに笑った。よし、大成功だ!これで他の貴族から、聖女に魔法を使わせる事の出来るカーター家次期当主として、一目置かれる事間違いなしだろう!やりましたよカーター侯、ケイレブ一目置かれる大作戦は成功です!と勝利の悦に浸っていると、急に腰を掴まれる感触と同時に、足が床から離れる。驚いて意識を戻しケイレブを見ると、彼は恍惚をした表情をこちらに向けていた。そのまま私を足を持ち、横抱きした状態で踊り続けるものだから、私は恥ずかしさで慌てた。
「ちょっ、ケイレブ様!これは恥ずかしいです!!」
「俺達の踊る周りにだけ、幻想的な花を散らしたお前が何を言うんだ」
「い、いやっ、でもこれは……これはちょっと!!」
こんなの熱々の恋人同士がやるダンスだよ!見てケイレブ様!令嬢達が真っ赤になってこっち見てるよ!?黄色い悲鳴も聞こえるよ!?ああそこにカーター侯と婦人が……何で笑ってるんだ!?
だがケイレブはそのまま踊り続けながら、私の耳元に顔を近づける。小さくため息を漏らすので、私は思わず目を瞑ってしまう。
「最初に煽ったの、お前だろ」
そのままため息と共に囁かれる甘い声に、私は首まで赤くなっていく。目の前の男は、そんな私を見てうっとりとした目で見てくるものだから……もう好きにしてくれと考えるのを放棄した。後言っておくが煽ってない。断じて煽っていない。