表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/119

19 晩餐会の前に


あの後、私はウィリアム改め変態精霊を何度も殴り飛ばした。殴る度に喘ぎ声に近いものを出してくるのが腹が立ったが、それでも恥ずかしさにより拳を抑える事が出来なかった。皆も私と変態精霊の姿に何も言えずに固まっており、廊下でその声を聞いた教会の職員が、何か不埒な事をしていると思い慌てて突撃した所で、皆お開きとなった。職員よ、トラウマを見せてしまってすまない。


口付けが友愛ではない事は、前にケイレブに口付けをした際にリリアーナに訂正された。という事はその前にされたリアムからの口付けは、私に好意を寄せられている!?と一瞬恋愛脳が襲ったが、こんな女にあの「黒の君」と呼ばれている色気しかないリアムが好意を寄せる事はないので、多分私と同じく間違えたのだろう、全く世間知らずなんだからリアムさんは、常識がある私が相手で本当に良かった。



変態精霊が私を連れ出した事により、その後の挨拶回りは猛スピードで行い、夜は自国の王族と一部貴族、そして他国の要人との晩餐会がある。晩餐会と言っても、人数が多いので舞踏会に近いものだそうで、ちゃっかりダンスも必要になる。二日連続舞踏会とか聞いてないぞおい。ハリソン家からも両親、そして兄も出席する事となっている。有望貴族であるペンシュラ伯爵のリアムや、勿論カーター侯爵家も皆出席するそうだ。ガヴェインもウィリアムと共に警備を担当するらしいし、気の知れた友人達が居てくれるのはありがたい。


……と、思ったのも束の間。舞踏会の数時間前、挨拶回りを終えて教会の一室で疲れた体を休ませていた私に、カーター侯爵が話があると突然やって来た。公爵である父ではなく何故私に?と思ったが、カーター侯はいい笑顔を私に向ける。


「今日の晩餐会だが、よろしければうちの息子にエスコートさせてくれないだろうか?」

「息子って、ケイレブ様ですか?」

「その通りだ。実はまだ公には公表されていないが、500年前にダニエル・カーターの起こした殺人事件が潔白となった為、我がカーター侯爵家はケイレブが当主となる際に、公爵に戻る事が正式に決まってね」

「え!?」


私は驚いた声を出してしまうが……そうだ!!確かに500年前カーター家は公爵家だった!おそらく、一族の者が私を殺した罪で降爵したのだろう。だが真実はアイザックが行った事で、潔白となったカーター家は元の爵位に戻ると。……私は自分の元世話係である、アイザックが起こした罪を長年被ってしまっていたカーター家に謝罪をしなければならない。そう思っているのが顔に出ていたのだろう、カーター侯は苦笑する。


「既に王弟殿下からは直接謝罪を受けているし、私達も知らなかった500年も前の出来事だ。それに君は塞ぎ込んでいた娘を救い、息子と娘のわだかまりを解消してくれた。……親である私達が出来なかった事を、君は私達の代わりにしてくれた。そんな君が家族だと言う王弟殿下を、私達が許さない訳がないだろう?」

「……カーター侯」


私は思わず涙が溢れそうになるのを押さえて、私はカーター侯へ笑顔を向けた。それに侯爵は笑って頷き、そして結構強い力で肩に触れて来た。


「ま、だが君の家族の所為でうちの息子が、次期公爵として注目と重荷を背負っているんだ。今日の晩餐会で呼べる婚約者もいない息子は、他の貴族や他国の要人達からさぞいい餌食になってしまうだろうなぁ〜」

「そんな!ケイレブ様を傷つける奴は皆、魔法でぶっ飛ばします!!」

「それは迷惑だから穏便にいこうシトラ嬢。建国祭での君はあの建国の聖女シルトラリア。……君が息子と共に行動してくれたら、建国の聖女と交友関係があると思われる息子は、他の者達も一目置くと思わないか?」

「………た、確かに!!!」


私はカーター侯の提案に、何度も頷き目を輝かせた。建国の聖女として、名前だけ売れている私が側にいれば、ケイレブを他の貴族達から守る事ができるのだ。散々迷惑をかけたカーター家に恩返しが出来る!私は座っていたソファから立ち上がり、目の前に拳を掲げカーター侯を見た。


「お任せくださいカーター侯!ケイレブ様と私の仲良しっぷりを!晩餐会でしかと皆に見せつけてやります!!」

「おお!では今日の晩餐会は是非よろしく頼むよ!」

「仰せのままに!!」


後ろで話を聞いていた護衛のガヴェインが、何故か引き攣った表情を向けている。恐らく私が次期公爵になるケイレブと、行動を共にするのが相手に迷惑ではと思われているのだろう。大丈夫だガヴェイン、一応公爵家令嬢として生きて、成人の舞踏会の際にはあのギルベルトにエスコートをしてもらったのだ。進化した私は、そんじょそこらの貴族に負けない!多分!!!カーター侯もいい笑顔でこちらを見てくれているし、この任務、聖女シルトラリアの名に置いて完璧にやってみせる!!!


その後、晩餐会までハリソン家に戻った私は、父から「言いように丸め込まれてる!!」と叫ばれたが、なんの事だろうか?








そして夕方、ハリソン家にカーター侯爵家の家紋の馬車が止まり、馬車の扉が開くと、藍色の正装を身に纏ったケイレブが現れた。他国の要人も招いた晩餐会だからか、髪も整え普段と違うケイレブに惚れ惚れしてしまう。私も祭服から藍色のドレスに変えて、それなりに整えてきたが完全に輝きが違う。ちくしょう顔の差か、私は思わずケイレブへ向かう足を止めそうになったが、カーター侯との約束もあるので恐る恐る彼の元へ向かう。こちらに気づいたケイレブは、目を大きく開いて固まってしまった。どうした!?何か可笑しい所があるか!?顔は無理だぞ!?私はしょげながら小さな声を出す。


「す、すいません……こんな姿じゃケイレブ様の迷惑になりますよね……」

「違う!!そうじゃない!!!」


私の声に反応して、ケイレブは首が捥げそうなほどに横に振った。その所為で折角整えた髪が少し乱れ、それを治しながら彼は目線を下にして頬を染める。何かを堪えるように暫く黙り込んでしまったが、やがて頬が赤いまま、真っ直ぐ私を見つめる。


「……すごく、綺麗だ」


その真っ直ぐな声と、情熱的な灰色の瞳に。私もケイレブと同じように頬を赤く染めていく。い、いかんぞこれは!社交辞令なのにこんな風に言われてしまうと、恋愛脳が出てきてしまう!!!思わず声が出ずに狼狽えてしまうと、後ろから強く肩を掴まれる。誰かと思いそちらを向けば、恐ろしいほどに眼光を鋭くした兄がいた。思わず小さく悲鳴を出して、赤く染まっていた頬は真っ青になっていく。


「今日は、やむ無く、パートナーをお前に頼むよ。くれぐれも羽目を外すなよ、ケイレブ」


それは遠回しに私に言っているのか兄よ。ケイレブは顔を更に赤くさせながら「外すか!!!」と叫んでいる。そうだそうだ!ケイレブがそんな事する訳ないだろう!遠回しに私に言っているのは分かってるんだぞお兄様!!


その時、馬車から藍色のドレスを美しく着こなしたリリアーナが現れ「外させません!!!」と意味不明な事を言っているが、三人ともそんなにも私が羽目を外すと思っているのか?ちょっとは信頼してほしいと苦笑いを浮かべてしまう。


そのまま私はカーター家の馬車に乗り、晩餐会の開かれる教会へ向かうのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ