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17 かつての騎士は


『シルトラリア!!』


この世界での私の名前を呼ぶ声が聞こえる。その声の主を知っているが、こんなに明るい声は初めて聞いたので驚く。そのまま声の聞こえた方向を見ると、炎の精霊が、これまで見たこともない笑顔で此方へ駆け寄ってきていた。


『ウィリアム、どうしたの?』


私の目の前まで駆け寄ったウィリアムは、下を向いて呼吸を整える。……暫くすると顔を上げて、泣きそうなほどの笑顔を向け、自分の手の甲を見せる。そこには金色の紋章が描かれていた。


『予言の神より神託を受けた。神の使者になる加護を授かったんだ』

『……どういう事?』

『貴女を守る事を、神に託されたという事だ』


ウィリアムは嬉しそうに自分の甲を眺め、そして再び私を見た。



『俺は、貴女を守る為に生きる事を許されたんだ』



まるでそれを、ずっと望んでいた様に伝えるウィリアムに、私はなんて面倒見がいい精霊だろうと思ってしまった。こんな人間を守る運命を授かってしまって、何故そこまで喜ぶのか分からなかった。


……でも、彼は嬉しそうに、それは嬉しそうにするものだから。何故そこまで喜ぶのか、理由を聞けなかった。





ーーーーーー








……頬に、温かいものが落ちてくる。何度も何度も落ちてくるものだから、私は重たい瞼を開けた。……そこは藁の焼かれていた場所ではなく、前にリリアーナとガヴェインと来た、屋敷の広間だった。どうやら祭壇にある、私の銅像の前にもたれ掛かり地面に座る誰かに、私は抱かれている様だ。


私は、温かいものが落ちてくる方向を見る。そこにはウィリアムがいて、強く抱きしめる私を見下ろしながら、涙を溢していた。金色の瞳から溢れる涙は、ここまで美しいのかと場違いに感心してしまう。……私は、小さく口を開く。


「ウィリアム」


声をかけても返事がなくて、炎の精霊はただ、弱々しく泣く。私は抱きしめられる腕を掴み、今度は顔を近づけた。


「ウィリアム」


二度目の声に反応する様に、腕に力が込められた。目の前の表情は歪み、縋るようにも見えた。彼の後ろにある壁のステンドグラスの赤が、赤い髪を美しく魅せる。思わずその光景を見ていると、ようやく口から息を吐いた。


「……俺は、貴女が幸せなら、どんな事も耐えれた」


まるで懺悔するように吐く言葉に、私は声を出せなかった。


「でも、もうここまでだ。これ以上は、俺は耐えれない」

「……」

「500年前の真実で、貴女が人間へ向ける愛情で。かつての人間への憎しみを、貴女が幸せになるならと耐えた。……その結果がどうだ?再び精霊は虐殺され、貴女は怒りで再び手を汚した」


その言葉に、私は藁の精霊に火を付けた男達の声を思い出す。思わず唇を噛んでまうほどの怒りが込み上げ、ウィリアムはそれを見て、私の唇へ指を添わせる。唇に添わせる手の甲には、あの時に嬉しそうに見せてくれた紋章はない。


「俺は、使者の加護が消えても、貴女の騎士だ。貴女を守る為に俺はいる」


かつても、そう言いながら私に優しく微笑んでくれた精霊は、今は涙を流し、顔を歪ませて同じ言葉を唱える。壊れものに触れるように、唇に添わされた手は、頬を撫でる。


「……人間をみんな殺して、俺と二人でずっとずっと一緒に居よう。……もう、貴女を泣かせたくない」


……そう縋るように、再び出会った時と同じ言葉を言うウィリアムに。

私は、声を出そうと大きく息を吸う。






◆◆◆






シトラの跡を追い、イザークは神の言葉を使い魔法を使った。その事実に驚き、俺は衝撃で固まってしまった。だが、隣にいたギルベルトは直ぐに衛兵を呼び、俺に追跡魔法をするように命じた所でようやく意識を取り戻した俺は、シトラとイザークの場所を追跡し、衛兵に伝えた。……けれど、その結果その場所に駆けつけた衛兵が見たものは、酷いものだった。


ハリエドの民が、精霊を虐殺した。体の服を、藁を剥ぎ、苦しむ精霊に火を付け殺した。なんとか原型がある亡骸を抱えるディランは、いつもの調子の良さも忘れ、悲痛な表情を浮かべている。虐殺させた男達は、シトラが得意とするツタの魔法で縛られ、足や手が亡骸の精霊の様に歪んでいた。


「大司教!!王弟殿下!!!」


教会から知らせを聞いたアメリアが、移動魔法で駆けつける。精霊の亡骸と、縛られた男達を見て驚愕の表情を向けたが、直ぐにそれは怒りへ変わる。そのまま縛られたままの男達へ、怒りのあまり涙を浮かべながら叫ぶ。


「お前らみたいな人間が!!片手で数えれるだけの数の人間が!!魔法が使える下位精霊には勝てない!!それがどうしてこうなったと思う!?」


そのまま襲い掛かろうとするのを、俺は後ろから羽交締めにして止める。アメリアはそれでも食い掛かり、涙を浮かべながら男達へ怒声をあげる。男達はその声に、その表情に目を大きく開けて見つめていた。


「使えばお前らが傷つくのをわかってっ!人間と精霊の関係が崩れると分かっていたから!魔法を使わなかったんだよ!!……っ、精霊王である、聖女が作ったこの国を!!守るためにあの精霊は!!お前達に魔法を使わなかったんだよ!!!」



全てを吐き終えたアメリアは、弱々しく地面に座り込み、言葉ではなく嗚咽を吐く。……アメリアの目の前に、イザークがしゃがみ、彼女の肩に触れた。


「……アメリア、今日はもう休みなさい」


イザークは優しく微笑みながらそう伝えると、アメリアは地面を向き嗚咽を吐いたまま、小さく頷いた。それを確認し、イザークは立ち上がり俺を見る。


「王弟殿下、現在ウィリアムがシトラ様を連れて、行方が分からなくなっています」

「ウィリアムが!?」


俺は驚いて声を荒げたが、亡骸をゆっくりと地面に置いたディランが、大きく舌打ちをしながら此方を見る。


「ウィリアムは娘に異常に執着している。そんな娘がこんな目に遭っていたんだ。……正直、俺様も今のウィリアムが何をするか分からない。また「アレ」をするかもしれん」


俺はその言葉に目線を下に向ける。だがイザークは意味が分からなかった様で、怪訝そうな表情を浮かべた。


「……過去に、ウィリアムは何をしたんですか?」



ディランは、目を細めわざとらしくため息を吐き、頭を掻く。暫く目線を合わせずに黙っていたが、ようやく伝える気になったのか、イザークを見つめる。


「ウィリアムはかつて、神より使者の加護を得ていた。……だが娘が殺され、()()()()()()()()、ウィリアムは使者の加護を神より剥奪された」

「………ウィリアムは、聖女を守れなかったから加護を剥奪されたのでは?」

「違う。それはあの馬鹿精霊がそう思っているだけだ」


驚愕するイザークに、ディランは何度目か分からないため息を吐いて、険しい表情を浮かべる。



「……ウィリアムは娘亡き後、死の真実を隠蔽した人間側に激昂し、関係者である人間を全員殺したんだ」


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