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8 脳裏に焼きついてる

私がダニエルを見間違える筈がない。

500年経ったとしても、かつての恋人の顔は脳裏に焼き付いているのだ。でも何故私に今まで会いに来てくれなかったのだろう?私が記憶を戻しているのだから、彼も500年前の記憶をとっくに思い出している筈だ。……まさか500年経ってしまって、私に飽きたのだろうか?確かに体は寸胴だし顔も平凡だし、この世界には友人達のような美形もいる……まさか!?恋人がいる!?浮気されて……あ、いや浮気じゃないけど!ダニエルからしたら私は前世の女であってそ「シトラ様〜〜〜聞こえてますか〜〜〜!?」


耳元に響く大声に、私は驚いて意識を戻す。目の前でアメリアが不機嫌そうにこちらを見て、胸を揺らしながら私に顔を近づける。おい自慢か?


「もうすぐシトラ様の出番なんですから!しっかりしてください!」


そう言いながらアメリアは先日選んだ藍色のブローチを私に付けた。今日は彼女も白衣を着ないで、教会の祭事用の藍色の制服を着ている。


アメリアの言う通り、今日は建国祭初日で、教会で行われる開会式に王族と一緒に出る為に祭服を着ている。建国祭は通常は一日だが、来賓数があまりにも多すぎる為今年は三日行われる。初日は開会式、明日は城下町のパレード。そして最終日は要人を招いた舞踏会がある。この三日間は私はほぼ祭服を着て、来賓や国民へ顔見せするのだ。……駄目だ、昨日のダニエルそっくりさん?が頭に張り付いて全く身が入らない。うっかりしたらダニエルって言いそう。


「す、すいません……ちょっと昨日色々ありまして」

「もー!今日はシトラ様はあの「建国の聖女シルトラリア」なんですから!ちゃんとしてくださいね!」

「いやどっちも私なんだが?別物じゃないんだが?」


顔を膨らませながらこちらを見るアメリアは、同性の私でも胸が高鳴るほど美しい。私もこの位美女だったらな〜こんな悩まなくても良いんだけどな〜。と羨ましく思っていると、ドアからノックが聞こえ、私の出番が近づいている事を教えてもらう。

私は大きく深呼吸をして、両頬を叩きダニエルの事を忘れようと気合を入れる。まぁ今日は開会式だし!もし来賓だったとしても会えるのは三日目の舞踏会だろう。私はそのままドアを開け、開会式の会場へ向かう為歩き出す。祭服は前回着た時よりも、金の刺繍が縫われていたり、床に引きずるほどの長さになっていたりとなんかもうザ・聖女の服装になっている。こんな豪華な服装本当に嫌だが、それでも用意してくれたものなので着なくては針子達が可哀想だ。……そんな事を考えながら進んでいたので、私は後ろにいる存在に気づかなかった。


「シトラ様っ!!!」

「うぎゃーーー!!!」


いきなり両肩を後ろから掴まれ、私は廊下で大声を上げる。廊下に他に誰もいなくてよかった、危うく建国の聖女は奇声を上げる女と囁かれる所だった。私は自分を驚かせた、よく知っている声の主に文句を言うために後ろを振り向く。案の定、そこにはイザーク第一王子兼大司教がいた。久しぶりに会うが変わらない笑顔で、今回は流石に王族としての出席なのか真紅色の正装だ。


「イザーク様!吃驚するからやめてください!」

「久しぶりですね〜シトラ様!お元気でしたか?あっ祭服すごくお似合いですね!」

「話を聞けい!!!」


相変わらず人をイラっとさせる天才だ。イザークはそのまま隣に立ち、にっこりと笑いながら腕を差し出してくる。


「ギルベルトは今ゲドナ国王子の接待をしておりますので、私が会場までエスコートしますね」

「え〜〜。一人で行けますよ〜〜」

「不敬罪って言葉知ってます?」

「有難うございますイザーク様!!!」


私は慌ててイザークの腕に手を添える。彼はそれに満足そうにすると、そのまま会場まで歩き出した。……なんて野郎だ不敬罪なんて言葉を使うなんて。ギルベルトもそうだが、この兄弟は本当に腹黒いな。この国、ハリエド国じゃなくてハラグロ国の方がしっくり来るぞ?なんて酷い事を考えていたが……そう言えば、この男が留学する事を思い出し、私は隣を見る。


「アメリアさんから聞きました。留学されるんですよね?」

「ええ、建国祭が終わってすぐにゲドナ国へ数年ほど行きます。流石にもう教会より、公務を優先する必要がありますしね。見聞を広めるにも良いと思いまして」

「えっ、じゃあ大司教も辞めるんですか?」

「ええ、アメリアに任せようと思っています。まだ言ってませんけど」


あと三日なのにまだ言ってないのか!?アメリアさん吃驚するぞ!?私の表情を見たイザークは面白そうに笑い目を細める。添えている腕に少し力が入った気がして思わず腕を見るが、イザークはそのまま小さく声を出す。


「……私と離れるの、寂しいですか?」

「寂しいです」

「そうですよね〜寂しくないですよ……………え?」

「え?」


イザークはまるで、鳩が豆鉄砲を食らった様な表情をした。何故そんな顔をするのか分からないが、私は添える手を強くして、真っ直ぐ彼を見る。


「そりゃ寂しいですよ。イザーク様好きですから」

「………」

「えっ、まさか嫌いだとでも心外すぎません?……そりゃあ確かにイラッとした事は沢山ありますが。それでも私がシルトラリアの記憶が無い時に、いつも助けてくれたじゃないですか。そんな人嫌いになれませんって」

「……………」


無言だ、こんなにも誉めているのに。自分の眉に皺が寄せられていくのが分かる。

暫くしてイザークはようやく意識を取り戻したのか、反対側の手で自分の顔を隠す。それでも耳と首が赤いので表情は大方検討がついている………え!?照れるの大司教が!?あの性格がひん曲がっている大司教が!?私は今までイザークにされた弄り返しと、好奇心に負けて顔を近づける。彼の思いがけない反応に、私は鼻息が荒くなる。


「ちょ、ちょっと顔見せてくださいよイザーク様!!」

「嫌です」

「今ここに私しか居ませんし!良いじゃ無いですかちょっと位」

「嫌です」

「めっちゃ嫌がるじゃん!?」


ええいこうなったら無理矢理だ!!イザークが顔を隠している手を私は掴み、思いっきり力を入れて引っ張る。しかし全く剥がれない。なんて力だ握力いくつだ?


私は最終奥義で小さな爆発魔法を唱え、イザークの目の前で爆発を起こす。小さいので怪我をする事はないが音は大きい為、まるで目の前で風船を割られた様な音が鳴った。イザークは音に驚き体を震わせ手が緩む。私はそれを見過ごさなかった。


「隙あり!!」

「ちょっ!?」


再び力を込めてイザークの手を掴むと、彼も阻止しようと添えていた手を離し抵抗する。私は添えていた手に少し体を預けていたので、急に支えがなくなり体がもつれる。それでも私は掴んでいたイザークを離さなかったので、そのまま彼ももつれ、床に倒れた私に覆いかぶさる様に倒れた。


「痛てて……す、すいませんイザー………」


私は自分に覆いかぶさるイザークへ声を掛けながら、彼の顔へ目線を向けたが、最後まで声を発する事が出来ずに目の前の表情に固まる。


……イザークは、予想通り真っ赤な顔をしていたが、それだけでなく今にも泣きそうな表情だったからだ。思わず固まる私を見て、イザークは熱が込められたため息を吐く。


「……だから、見られたくなかったのに」

「…………」

「あーもう本当に……最悪ですよ」

「………あっ、えっ、と……」


第一王子を泣かせた=不敬罪が頭をよぎる。泣くほど見せたくなかったのか!?私最悪すぎないか!?真っ青になりながら謝罪の言葉を告げようとするが、あまりの彼の表情の衝撃に言葉が吃る。イザークはそれを見て、真っ赤なまま不満げな表情を向ける。


「シトラ様が悪いんですからね」

「す、すん、すんませ……」

「シトラ様が俺の事好きっていうからですよ」

「えっ……あ、すんませ……」


イザークよ。俺になっているし、私馬鹿だからちょっと言っている意味が分からないんだが?しかし取り敢えず謝る。不敬罪になるわけにはいかない。私は何度も吃りながら謝罪を述べる。何故かそれに、イザークは更に不満げな表情で眉間に皺を寄せ、私に顔を近づける。美しい赤い瞳が目の前に来て、私は真っ青から血色が良くなり、やがて恥ずかしさから赤くなっていく。


それを見たイザークは、まだ赤い顔のままだが不満そうな表情をやめて、目を細め優しく微笑んだ。



「……その顔を見せてくれたので、今回は特別に許します」



………何でだろう?

その優しい表情が、先程まで考えていたからかもしれないが……全くもって、本当に似ていないのに。





不覚にも、ダニエルみたいだと思ってしまった。

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