7 前夜祭
とうとう明日が建国祭となった今日、準備を全て終わらせた私はリアム、リリアーナ、ケイレブ、ガヴェインの四人と城下町の前夜祭に来ている。前夜祭から建国祭まで、ほとんどの人が藍色の服装の為貴族も平民に紛れやすい。私達も藍色の服装で前夜祭に来ているが、それでも周りから遠目で見られるのは、私の周りのこの美男美女の所為だろう。全く、見せ物じゃないんだよ彼らは。それ以上見たら金取るぞ?
「お姉様!あの出店に売っている商品を見たいです!」
「いいよ〜どれどれ?」
リリアーナは私の腕に抱きつき、並んでいる出店に目を輝かせている。正直彼氏の気持ちでいる、めっちゃ可愛いリリアーナ。最近私よりも胸が大きくなったよね?君もアメリア側へ行ってしまうのかいリリアーナ?そのまま連れて行かれた出店ではどうやら髪飾りを売っているらしい。建国祭の事も考えてほとんど藍色で、美しい装飾のされた髪飾りをリリアーナは楽しそうに見ている。私も同じく見て、そしてその中からシンプルなリボンの髪飾りを取るとリリアーナの髪に当ててる。
「リリアーナは綺麗な髪だから、この位シンプルが似合うね」
そう微笑んで伝えると、リリアーナは目を大きく開けてこちらを見たが、すぐにそれはとびっきりの笑顔に変わる。あまりの可愛さに、何かを吐きそうになったが寸前で耐えた。そのままリリアーナは後ろで見ていたケイレブに声をかける。
「お兄様!この髪飾りを買ってもよろしいですか!?」
「ああ勿論いいが、シトラは何か買わないのか?」
「えっ、私ですか?」
特に買う気はなかったが、ケイレブにそう言われると買いたくなる。私は出店に置かれている髪飾りを見て悩んでいると、突然後ろから手が伸びてきて、その手は藍色の花の装飾がついた髪飾りを取る。思わず後ろを見ると、至近距離にリアムがいて驚いてしまった。流石ノアの息子、アイザックには負けるが神々しい。
「シトラにはこれが似合うんじゃないかな?」
そう言いながら私の髪に当てる。最近更に背が伸び大人っぽくなったリアムの色気が、近すぎて当たりすぎて上せそうになり頬が赤くなってしまう。それを見たリアムは優しく微笑んでくるものだから、もう背後に薔薇が大量に見える。そのうちリアムの半径3メートルは立ち入り禁止にした方が良いのではないか?現に近くにいた女性が「ひゃあん!」と変な声出して倒れた。リアムは私が呆けている内に会計を済ませ、私の髪に髪飾りを付ける。
「えっ、いや払いますよ!?」
「僕が贈りたかっただけだから、気にしないで」
そう美しく笑うリアムを見て、私は視界がぐらつくのを堪える。ノア〜!君の息子は、とんでもねぇ男になってしまったよ〜!もう少し年齢制限落とせる位に出来なかったのかな〜?リリアーナはケイレブに「お兄様あれが足りないんですわよ」と肘で蹴りながら言っているが、よく分からないがケイレブがしょげているので止めなさい。ガヴェインも何故耳が垂れているんだ。私は買ってもらった髪飾りに触れ、リアムに微笑む。
「じゃあお言葉に甘えて……有難うございます。大切に使いますね」
「うん、いつか指輪も贈らせてね」
「指輪?」
「リアムお前なぁ!!!」
いつの間にか元に戻っていたケイレブが、慌ててリアムの肩を掴む。何を慌てているのだろうか?呆けていると隣から更に強く握られる感触するので、リリアーナの方を見ると笑顔で「この二人は置いてあちらへ行きましょう」と言われる。笑顔なのに威圧感がすごい。さっきから黙っているガヴェインもため息を吐きながらこちらを見て頷くので、私はそのままリリアーナとガヴェインと共に他の出店も見ることにした。なにせ今日、私リリアーナの彼氏だからね!へへん!
前夜祭の最後には、今回は精霊達の協力で爆発魔法、というか花火が打ち上げられる予定だ。昔私がウィリアムに花火の存在を伝えていた記憶はあるが、まさか魔法で作り上げてしまうとは。おそらく魔法に詳しいディランと、ウィリアムがいてこそだと思うが……あの二人仲悪いのに良く協力したなぁ。
そう考えていると夜空に一本の光が登っていく。そのままその光は上へ上へいき、バチバチと音が鳴ったと思えば、空一面に色とりどりの小さな爆発が規則正しく舞い、大きな花火が現れた。前の世界で夏によく見た花火と全く同じで、私は思わず懐かしさが込み上げる。リリアーナ達は初めて見るのか四人とも目を輝かせており、思わずその反応に顔が綻んでしまう。
だが、私はその奥に人混みに紛れた中にいる、とある人物に視線が釘付けになる。
「…………嘘」
「どうした?」
思わず溢れる言葉に、後ろにいたガヴェインが反応する。彼の声を皮切りに、三人も反応しこちらを心配そうに見つめているが、今私は彼らに答える事が出来ないほど、目の前の人物から目がそらすことが出来ない。
私の見ている先に、一人の青年がいる。長い美しい金髪で、瞳の色はエメラルド。周りの観客と明らかに雰囲気が違う洗練された佇まいのその青年。
彼の顔は、かつて私が愛した宰相に瓜二つだった。
「ダニエル!!!」
私は名前を叫びその青年の元へ向かう為に走り出す。友人達は私が叫んだその名に目を開く。ダニエルはかなり奥の方におり、花火を見るために集まった観客達が立ち塞がり上手く向かう事が出来ない。それでも私は彼に会いたくて、話をしたくて無理矢理進んでいく。けれどその直度、フィナーレである一際大きい花火が空に舞い、観客も近くで見ようと動き出すので私は体がよろけてしまう。
「おい!!」
地面に倒れる前に、後ろからガヴェインに掴まれた。そのままガヴェインは腕を離さないので、私はダニエルの元へ行けない。
「ガヴェイン離して!」
「バカかお前は!今進むのは危ねぇだろ!!」
「シトラ!!!」
ガヴェインに続いて三人も私の元へ辿り着き、ケイレブに至っては怒りから顔を歪ませる。
「何をしているんだ!!危ないだろう!?」
怒鳴り声を上げるケイレブも、リリアーナもリアムも、皆私を心配してくれているのは分かる。腕を離さないガヴェインも、守るべき私が危険な行動をして怒りが込み上げているのか、唇を噛み締めている。……私はダニエルがいた方向を見たが、もう彼は見つける事が出来なかった。私は下を向き、ポツポツと言葉を溢した。
「……ダニエルがいたの」
「ダニエルって、君が過去に恋人、だった?」
リアムが呟く様に告げる言葉に私は頷く。髪の色も目の色も全く違うが、あの青年はダニエルとそっくりの顔をしていた。リアムに続けて、リリアーナが口を開く。
「お姉様の見間違いでは、ないのですか?」
「私がダニエルの顔を見間違えるはずがない」
やや強めに言ってしまい、慌ててリリアーナを見るが、彼女は顔を歪ませて悲痛な表情を向けていた。リリアーナだけでなく、他の友人達も暗い表情を向けている。私が危険を顧みず走り出したのに心配をしているのだろう、本当に優しい友人達だ。私は目を瞑り深呼吸をして、友人達へ笑顔を向ける。
「多分、建国祭に来た来賓かな?また会えると思うから、その時に今度こそ声をかけるよ。ごめん皆、危険な事して」
できるだけ笑顔を作ったと思ったが、友人達は皆作り笑いと分かっている様で、こちらを見る表情が暗かった。