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3 突撃する精霊


公爵家に現れたガヴェインは、何故か耳をペタンと下げて疲れた表情をしていた。出迎えた私はあまりの普段との違いに、体調でも悪くなっているのかと思ったが、そうではないらしい。

しょぼくれる耳が可愛すぎて思わず触ると、ピクピクと揺れて反応してくれる。えへへ可愛い〜。相変わらずふわふわな耳をそのまま堪能していると、恥ずかしくなったのかガヴェインは私の手を掴み、頬を赤くして不機嫌そうな表情を向ける。


「おい触りすぎだ」

「えぇ〜もっと触りたい〜……じゃなくて、どうしたの今日は?元気ないじゃん」


首を傾げて質問すると、疲れている理由を思い出したのかまた耳を下げる。


「昨日、旅に出ていたっていう精霊が、突然俺の部屋に来て吐きそうになる位に調べられた」

「旅って……ああ!毎年聖女の遺物管理してた精霊か!」


そう言えば、前に聖女の遺物管理を手伝った際に、いつもアイザックと共に管理をしている精霊が、旅に出たと言っていたのを思い出した。その精霊が戻ってきて、おそらく新しい神の使者であるガヴェインに興味を示したのだろうか?500年前にもいた精霊かな〜?


「その精霊の名前ってなんていうの?」


私がガヴェインに質問をしたその直後、公爵家の庭から大きな爆発音が聞こえた。私もガヴェインも驚いてその方向を見るが、ガヴェインはふと空を見て目を開き、私の腕を引っ張り抱き寄せ、制服のマントの中へ体を隠す。どうしたと慌てるが、雲ひとつない天気だったのに突然雨が降る……いや、これは雨ではない。何かが川に落下して、その爆発の衝撃で川の水が飛んできているのだ。えっ?まさか濡れない様にマントで隠してくれたの?ガヴェインが?ガヴェインなのに?と困惑していると、頭上から声をかけてくる。


「おい、濡れてねぇか?」

「あ……うん。ありがとうガヴェイン」


こっ、こんなの惚れちゃう!!只でさえ恋愛脳になっているのに!こんなんされたら惚れてまう!!落ち着け私!こんな女に惚れられても迷惑なだけだ!過去にガヴェインに鼻で笑われた事を思い出すんだ……!!!


「あ〜………腹立ってきた」

「はぁ?」

「何でもないこっちの話!爆発音が鳴ったのは川の方だから、確認しよう!!」


無事に恋愛脳を抑えた私は、雨が止んだのを確認して、ガヴェインのマントから離れると爆発音の鳴った場所であろう、公爵家の庭にある川へ向かう。





川に着くとまず驚いたのは、いつもは静かにせせらぐ川が、水が増えており溢れている事。しかも普段も美しい川だが、今はそれ以上。底が透き通って見える程に美しくなっている。川に住まう魚達も生き生きしている様に見えて、まるで神聖な場所の様になってしまっているこの場所が、何故か500年前の光景とダブってしまう。


……その川の中央に、人影が見えた。褐色の肌で、何故か上半身が裸、そして背中を覆うほどの薄水色の髪。……私は今日の夢は、この精霊と出会う運命なのだと、天からのお告げだったのだと確信した。


「ディラン!!??」


ディランはこちらに気づくと、美しい金色の瞳を、昔と変わらずに輝かせてこちらを見る。


「我が愛娘シルトラリア!!父が会いにきたぞ!!」


ガヴェインは劇的に変化した川の光景と、私を娘と呼ぶディランに、もう何が何だか分からなくなっているのか、私とディランを困惑した表情で何度も交互に見ている。ディランは私たちの方へ川を歩き始める。


「俺様の名前が分かるという事は、完全に記憶を取り戻した様だな!はっはっは!!結構!!」

「いやいやいやいや!?ディラン今まで何処にいたの!?っていうか何でここにいるの!?」

「だから愛娘に会いにきたと言っているだろう!あと俺様の事はパパと呼べと!500年前にも言っているだろう!!」

「誰がパパじゃふざけんなって500年に何度も言ってるじゃん!!!」


ディランは川から出て、私の隣に困惑したガヴェインがいる事に気づく。顎に手を添え興味深く顔を近づけて見るものだから、ガヴェインは耳を下にペタンと下げて怯えている。


「昨日ぶりだな狼青年!昨日は有意義な検査が出来た!また頼む!!」

「もう一生やらねぇよ!!」


ガヴェインの怯え様、相当トラウマになる検査だったのだろう。さっき自分で吐きそうになる程って言ってたし。いや、それよりもこの現状だ。公爵家の庭に、上半身裸の変態精霊が不法侵入(不法落下ともいう)してきたなど、牢屋に入れられても可笑しくない程の重罪だ。私は急いで周りを見て、まだ誰もこちらへ来ていない事を確認すると、ディランの腕を掴み引っ張る。その行動に最初は驚いてされるままだったが、暫くすると大きな笑い声をあげる。


「なんだ遊んで欲しいのか娘よ!よろしい!!俺様が、子供の遊びから大人の遊びまで教えてや」「いいから大人しく着いてきて!!」


ガヴェインも後ろから、周りを確認しながら着いて来る。取り敢えずこの目立つ精霊に服を着せねばならない。適当な物陰にでもディランを隠して、使用人用の制服を借りて着てもらおう。


そのまま庭の物陰を目指して急足で歩いていると、庭の隅の、使用人用の扉が内側から開く。使用人なら頼み込んで黙ってもらおうと思ったが、その人物は深緑の髪色だった。


「爆発音が鳴ったのは庭か?シトラが魔法でも失敗したのか……………」


そこにいたのは、父だった。どうやら庭に一番近いこの扉から爆発音の確認をしようとしているらしい。丁度扉の前を通る私達を見て、目を大きく開いて驚いている。私もガヴェインも、最悪な状況に固まっているが、引っ張られているディランは、父を見て嬉しそうに手を振る。


「おお!愛娘の育ての親とはお前の事か!!」

「…………は?」

「俺様は水の精霊、ディラン様だ!仲良くしようではないか人間!!」


水も滴るいい男、ディランは爽やかな笑顔を父に向ける。……そう、昔からこういう奴だった。大海原の様に広い心で、些細な事は一切気にしない。自分がやりたい事をやる。……悪く言えば、すっっっげぇ空気読まない男。それが水の上位精霊ディランである。父は突然現れた不審者に驚いて固まっていたが、暫くするとディランの上から下まで見て、そして腕を持つ私を見て………握っていたドアノブを、歪な音を立てながらへし折った。



「うちの娘に近づくな!!!露出狂ーーーーーーーーー!!!!」



お父様、そんな大きな声出せるんですね。


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