48 意気込む令嬢
ウィリアム以外、全員が呆然とこちらを見ている。……あれ、早口すぎて聞こえなかったのかな?それならばと私はもう一度、今度はベッドの上に立ち上がり、今度は拳を顔の前で。
「アイザックをぶっ飛ばしに行きましょう!!!」
「…………いや、私達は聞こえなかった訳じゃないです」
ギルベルトが引き攣った表情を向けながらそう答える。なんだ聞こえてたのか〜よかったよかった。と私はベッドから飛び降り、手首を鳴らしながら部屋のドアに向かって歩く。
「じゃあ行ってきます!!」
「いやいやいや!?何行こうとしてるんですか!?」
ギルベルトに腕を掴まれ止められる。その背後には慌てた様子の皆がこちらを見ており、リリアーナが「そうです!」と一番にギルベルトに賛同する。
「お姉様は王弟に刺され死ぬところだったのですよ!?それに、まだあの男の居場所は分からないのです!」
リリアーナは顔を歪めながら声を荒げる。
……私は自分の胸あたりを触る。ガヴェインの治癒魔法で傷は綺麗に塞がっているのか、押してもあの時のような痛みはない。私はリリアーナに笑顔を向ける。
「大丈夫!魔法でアイザックの居場所を見つけれるし、それに他の魔法も、使い方も全て思い出しだから、そう簡単にやられないよ」
「………記憶が、戻ったのか?」
ずっと笑ってたウィリアムが、驚いた顔をしてこちらを見る。
「うん、500年前の事も、前の世界の事も全部」
私はウィリアムの方へ歩き目の前で立ち止まる。かつて、自分の騎士だった精霊の頬に触れる。一瞬震えるが、それをウィリアムは受け止める。それと同時に私は治癒魔法を唱え、ウィリアムの傷は金色の光と共に消えていく。私はウィリアムを見つめる。
「ずっと、私を助けてくれて、守ってくれて、有難う」
かつての戦争から戻ってきた様に、ウィリアムは優しく微笑む。
「………当たり前だろう。……貴女の騎士なのだから、貴女を守るために俺はいる」
光が収まり、ウィリアムが傷を全て治した事を確認した後、私はにっこりと笑いかける。そして手をボキボキと鳴らしながら、後ろに体を反らせる。
………そして、思いっきり腹に拳を入れた。もう容赦無く入れた。
ウィリアムは後ろに倒れる。
「ぐっ!!!!」
「500年前の私の事はいい!宗教教祖もこの前で私は許した!でもリアムの家の事もリリアーナを勝手に魔法で飛ばすのも、まだ本人に謝ってないでしょ!?いい加減に謝りなさい!いま即刻に謝りなさい!!私も一緒に謝るから!!!」
「っ、ぁあ!素晴らしいッッッ!!!記憶が戻ったお陰でっ!前回よりも更にイイ……!!!」
私が容赦無く、興奮するウィリアムに怒りを露わにしながら殴り続けていると、後ろから慌ててリアムが私を羽交締めにする。私は暴れてどうにか拘束を解こうとするが、出会った時から随分と成長したリアムに敵わない。
「シトラ大丈夫だから!!」
「リアム!?どうして!?」
「どの道、前妻はウィリアムに魔術を教えられてなくても、他の方法で家族を襲っていた!」
私は暴れるのをやめて、リアムを見る。彼ももう暴れないと分かったのか拘束を解いた。
涙を流した後だからか、目元が赤い。私はそっと、リアムの目元を撫でる。……リアムは、その手を掴んで、歪んだ表情をしながら顔に擦り付ける。
「………シトラ、戻ってきてくれて、ありがとう」
「リアム………」
そのままリアムの顔が近づいていく。……確かリリアーナが、口付けは流行りの劇で友愛の証、なんだっけ?あれ違ったっけ?まぁでもそうなんだろうな〜まだ流行なんだな〜すごいな〜前の世界じゃ考えられないな〜。
私はリアムの友愛を受け入れるために目を閉じた。………が、それが届く事はなかった。目を開けると、ケイレブが顔を真っ赤にしながらリアムの肩を持って止めている。
「何してるんだ!!?」
リアムは止められた事に舌打ちをしている。私もどうして止めるのか分からない。……もしかして、ケイレブも友愛の口付けをしたかったのだろうか?私と?恥ずかしいけどな〜う〜ん。でもケイレブも友達だからなぁ。
「ケイレブ様」
「シトラ!お前もそんな安易と受け入れ…………っ!?」
私はこちらを振り向いたケイレブに、精一杯つま先立ちをして口付けをする。自分からするのはガヴェインを助ける以来だろうか、慣れていないので可愛らしい、子供のようなものになってしまった。………しかし恥ずかしい、これは本当に友愛なのか?違ったっけ?
「ねぇリリアーナこれって本当に友達にするもの………うん?ケイレブ様?おーーい!」
疑問を確かめるためにリリアーナのに声をかけ向こうとしたが、それよりも先にケイレブが後ろに倒れた。ウィリアムの隣に倒れ込み、顔を手で覆って悶えている。リアムは何度も私とケイレブを見て、衝撃なものを見たような表情をしている。それを全て見ていたギルベルト、ガヴェイン、家族もリアムと同様で、唯一リリアーナだけは「なんでこうなるの!?」と大きく叫んでいる。
………やっぱり、友愛じゃなくないか?
そう思っていると、床に座ってこちらを見ていたウィリアムが、頬杖をつきながら眉間に皺を寄せる。
「何やってるんだお前ら」
………………私は、やってしまったと頭を抱えた。
どこかで、クロエの笑い声が聞こえた気がした。