表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/119

45 告白

ギルベルトとのダンスを終えた後、私はリアム、ケイレブ、そして兄と続けてダンスを踊った。正直言って四人連続は厳しかったが、どれも気の知れた友人達との楽しい時間だったので、私は気分良く終える事ができた。

流石に疲れが出てきたので、私は飲み物をいただこうと使用人を探す。だがそれを見越してギルベルトが飲み物を持ってこちらへやって来た。


「お疲れ様です。どうぞ」

「有難うございます」


前にもこんな事があったな、と思い出しながら私は飲み物を受け取る。踊り疲れた体に、冷たいドリンクは沁みる。


「バルコニーに出て、少し涼みましょうか」


ギルベルトの提案に私は頷き、そのまま二人で会場のバルコニーへ出る。

夜風が火照った体に心地よい。バルコニーに置かれている椅子に座り、私は深呼吸をした。ギルベルトも隣の椅子に座わる。……舞踏会もどうにか、無事に終わることができそうだ。私はギルベルトの方を見る。


「ギルベルト様、今日はエスコート役をしてくださって有難うございます」


そう伝えると、ギルベルトはこちらに微笑む。


「私の方こそ、エスコートさせてくれて有難う」


私はそれに対して同じく微笑む。……ずっと、こんな風に友人と、家族と幸せに過ごしていたい。けれどもう私も成人なのだ。今まで関係ないと思っていたが、私にも婚約者ができるだろうし、友人達も同じくそうだろう。……その未来で、私が500年前の記憶を全て思い出した時、私は皆を危険な目に合わせてしまうかも知れない。その為にも、記憶が全て戻る前に宰相を、ダニエルを見つけなくてはならない。

暫く黙ってしまった私の手を、ギルベルトは握りしめた。その表情は覚悟を決めたようで、どうかしたのかと問おうとした。だが、それよりもギルベルトの方が早く口を開いた。


「……シトラ嬢、私の婚約者になってくれませんか?」

「……え?」


思いがけない言葉に私は大きく目を開く。婚約者とは、あの婚約者の事か?いつもの調子で伝えられていれば、私も冗談だろうと笑う。……けれど、目の前にいるギルベルトは、とても冗談でその言葉をかけたのではないと分かる。でなければ、あのギルベルトが耳まで赤くするなんて事、ないだろう。


「……わ、私は、恋愛結婚をしたくて……その、政略結婚は」

「こんな顔で伝えている私が、君へ愛がないとでも?」

「……で、でも」


駄目だ!自分の顔が赤くなっていくのが分かる!思わず顔を逸らそうとするが、それを遮るかの様に顔に手を添えられる。逃げ場を探そうと立ちあがろうとするのも、反対の手で腰を掴んでいる為できない。………え、本当に?本当に本当のギルベルトから?嘘でしょ?嘘だよね!?


「私は、何年も前からずっと……君の事が好きです」

「えっ、やっ、そのっ、えっ!?」


青い瞳が真っ直ぐにこちらを見て、そして近づいてくる。私は恥ずかしさと混乱で声をうまく出せない。


「君は覚えていないかも知れませんが、私達はペンシュラ家の事件よりも以前に、会った事があります」

「……それは、お茶会の時ですか…?」


私は誘拐事件の一年前に、ギルベルトと出会ったお茶会の事だと思ったが、ギルベルトは首を横に振る。……あれ、それ以前に会っていたのか?私は昔の記憶を思い出してみるが、全く記憶がない。


「……君が、まだ定期的に教会へ検査に来ていた時です。……君は聖女の器として、化け物として扱われていた時。……私は何度も君と廊下ですれ違っていました」


化け物、その言葉に、心臓の鼓動が跳ねる。……教会へ定期的に呼ばれ、何度もよくわからない検査をされていた幼少期。私は他の貴族達や教会の職員達から、陰で「異世界の化け物」と呼ばれていた。今ではなんとも思わないが、まだ小さかった私は、迎えの馬車でよく泣いていた。


「王族は代々、六歳から自国の歴史と見聞を広める為に、何度も教会へ行き学びます。……君と最初にすれ違った時、化け物と恐れられているからてっきり、恐ろしい少女だと思っていましたが……君は嬉しそうに廊下を走り、聖女の墓へ向かっていた。……異世界人ではあるが、無作法に走る君を見て、最初はなんて変な少女だろうと子供ながら思っていました」


……全く記憶がない。まさか自分がその時代に嬉しそうにしていたとは。記憶ではいつも泣いていた所しか覚えていない。


「けれど何度もすれ違って、嬉しそうに向かう君を見ているうちに。声をかけたくなったんです。……だから、私はある日君を追いかけた」

「……」

「追いかけた先で、君はとある人物に嬉しそうに抱きついていました。……そして、愛おしそうにその人物へ笑いかける君を見て、私は声がかけられなくなった」


ギルベルトはその時の自分を思い出しているのか、乾いた笑い声出す。


「「その人物の位置に自分がいたらいいのに」と自分で思っていた事に、当時はひどく驚きました。自分の感情に恐ろしくなって、一度は見ないようにもしましたが……無理だったんです」

「……」

「そしてようやく気づいた。私は君へ恋愛感情を持っているのだと」


私は目の前のギルベルトの放つ言葉に、言葉を出せなかった。そんな記憶もなければ、ギルベルトの存在も知らなかった。とても信じれないが、真っ直ぐ見つめられている青い瞳が、真実だと告げている。


「そのまま声もかけられず、お茶会でようやく話せたと思えば、緊張しすぎて全く話せず……そして、あの舞踏会の夜で、私はようやく君とまともに話す様になった」


目を細めながら、私の頬をゆっくりと触れる。


「本当に嬉しかった。君に私の名前を呼ばれて、君の瞳が僕を見つめてくれて。そして君という人物を知るたびに、どうしようもなく君が欲しくなった」


……あまりにも衝撃すぎて、私は顔を赤く染めながら黙ってしまった。目の前にいる、物語の王子様の様な美しい男性に、まさか自分が好意を持たれていたなど、全く考えもしなかった。やがて唇が触れる位の距離まで顔が近づいても、私はその美しい瞳から目が逸らせなかった。





《 俺は君の全てを愛している。シルトラリア 》

「 私は君の全てを愛しています。シトラ 」





その言葉を聞いた途端、目の前に亜麻色の髪の男性が残像の様に現れた。それと同じく脳裏に焼き付くように浮かび上がる知らない景色、人、景色、景色。……愛おしく私を見る灰色の目。


「っ、」

「……シトラ?」


腰に添えられた手に、体重を預けて後ろに倒れそうになる。それを受け止めたギルベルトは慌てた様子で私を見ている。けれど瞬きをすれば、亜麻色の髪色が現れる。




思い出さなければならない気がする。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


ギルベルトが私へ何かを叫んでいるが、それも遠くなる。


思い出せ、思い出す必要がある。











《 シルトラリア、俺と共に生きてほしい 》


そう言いながら、私はあの美しい花畑で、左薬指にあの金色の指輪を嵌められる。私は、それを見つめながら、その亜麻色の髪の男性の、灰色の瞳を見つめる。


《 …………有難う。ダニエル 》










「ああ……ああ、ああ、」

「シトラ!?大丈夫ですか!?」


そうだ、思い出した。私は、全てを間違えていた。


私に声をかけ、そのままギルベルトはバルコニーから人を大声で呼でいる。私は、ゆっくりと口を開く。


「全てが違ったんだ」


ゆっくりとギルベルトから離れて、バルコニーの柵へもたれ掛かる。


「私は………私は…………私は!!!」



全てを伝える前に、声を出す事ができなくなった。

胸にじんわりと広がる温かさに、私は声を出せずにその場所を見る。





そこには、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()





「どうして、どうして君は、なんで」


歪んだ金色の瞳は、真っ直ぐに私を見つめる。私は、だんだん暗くなる視界の中で、その人物へ口から血を出しながら絞るように声を出した。







「アイザック………」





私の世界は、そのまま闇に落ちた。


ブックマークありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ