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39 赤髪の男性


あの後、椅子に呆然と座っているのをリリアーナに見つけられ、私は一緒にガヴェインを迎えにいった。そのまま公爵家の馬車で家に帰り、たわいも無い会話に花を咲かせた。そんな中でも、あの男性の言っていた言葉が頭から離れない。……どうしてもあの男性が、気になってしまう。


私はベッドから静かに起き上がり、隣で寝ているリリアーナを見る。


「…おやすみ、リリアーナ」


明らかに危険な場所へ行くのだ。大切な友達をそこへ連れて行くわけにはいかない。私は服を着替え、物音を立てないように廊下へ出る。自分の服の擦れる音しか聴こえない静まった廊下。すでに使用人達も寝ているのだろう。両親も兄も社交パーティーで遅くなるから、貴族御用達の宿に今日は泊まっているはずだ。私は「よし!」と小さく声を出してそのまま玄関へ向かおうとした。


「どこ行くんだよ」

「わっ!?」


誰もいないと思った所にいきなり声をかけられ、私は驚いて声を出してしまう。後ろを見ると、廊下の壁にもたれているガヴェインが仏頂面でこちらを見ていた。


「式典が終わってから、おかしいと思ってた」

「ちょ、リリアーナが起きちゃうから、静かにして…!」

「私は起きてますわよ?」


今出てきた部屋のドアが開き、そこからリリアーナが眉間に皺を寄せて現れる。まさか二人に見つかるとは思わず、目線を泳がせる。


「お姉様が、いつもよりも可笑しいんですもの。絶対何かあると思いました」


若干悪口言ってないかリリアーナ。二人に、さっさと隠している事を言えと目線で責められている。………私は大きなため息を吐いた。









私、ガヴェイン、リリアーナは移動魔法で、指示されていた屋敷の前にいる。ガヴェインの力では一気に三人も移動できないそうなので、私が二人と手を繋いで公爵家から一気に移動した。……なんか強くなってない?行った事無いところでも移動できちゃったな。


「赤髪にエメラルドの瞳の男性。そんな方は貴族ではいらっしゃらないはずです」


未成年ながら数々のお茶会に参加し催したリリアーナがそう言うのだから、あの男性はやはり貴族でないのだろう。目の前の屋敷はかなり古い屋敷だったが、手入れがされており、屋敷の扉周辺には百合の花が美しく咲いていた。私達は緊張しながらドアノックに手をかけようとする。


「今晩は聖女様。それにお二人も」

「うぎゃ!?」


いきなり耳元に声を囁かれ、私は吃驚してドアに頭を思いっきり当てた。声を出した本人、赤髪の男性は可笑そうに笑っている。ガヴェインとリリアーナも気づかなかったのだろう、二人とも驚きながら、ガヴェインに至っては腰に付けていた剣に手をかけていた。


「魔法を使われたので、直ぐわかりましたよ」


それだけ言うと男性は屋敷のドアを開けて、私達を手招きした。







屋敷の中には使用人が寝静まっているのか、それとも居ないのか。とても静かだった。そこらじゅうにある蝋燭の灯火が揺れる。


「つい最近この屋敷に戻ってきまして、使用人もまだ雇っていないのです」

「……そうですか」


前を歩く男性は、そのまま応接室に向かっているのかと思えば、屋敷の奥にある大きな扉へ案内される。扉に手をかけ男性はゆっくりと開けた。


そこは、昼に見た城の大広間と同じような作りの場所だった。違うのは、城の大広間ではステンドグラスに描かれていたのは聖女シルトラリアと人間、精霊の公にされている歴史だったが……ここに描かれているものは、戦争の絵だった。血の色に見立てているのか、赤がふんだんに使われているステンドグラスは、月明かりに照さられ、恐ろしさもあり幻想的だった。そして正面には国王陛下が立てるような祭壇があったが、ここには人と同じくらいの銅像が建てられていた。遠くにあるのでここではよく見えないが、女性の銅像だと思う。リリアーナがステンドクラスを見て、口を開く。


「これは……人間と、精霊の戦争ですか?」

「ええ、5()0()0()()()()()()()()()作らせました」


そう言うと男性は何かをつぶやき、リリアーナの頭の上に手を置く。次の瞬間リリアーナは姿を消した。

いきなりの事で私は固まってしまったが、後ろからガヴェインが私の肩を掴み抱き抱える。唸り声を上げながら剣を抜く。だが、それを見た男性は嘲笑い、ガヴェインを見た。


「お前のような獣が、聖女の聖騎士など、神の使者など馬鹿げている」


私はその言葉に自分の血が沸騰するような感覚を覚えた。そして目の前の男性に怒りをあらわにする。


「ガヴェインは私の大切な騎士で、聖女関係なく、私の大切な人です!馬鹿にしないで!!」


ガヴェインは驚いてこちらを見ているが、本当の事なのでなんの恥ずかしさもない。……目の前の男性は、その言葉を聞いて一瞬、顔を歪めた。しかしすぐに元に戻り、こちらへ軽蔑のような目線を向ける。エメラルドの瞳が、色をどんどん変えていく。


「……俺を、俺を本当に覚えていないのか…?」


やがてその瞳は、精霊の証でもある輝く金色に変わっていく。


その瞳を見た瞬間、私は身体中に電流が走ったような感覚に落ちる。


目の前の男は、男は、そうだ、何かを忘れているんだ。思い出すべき事を。


「おい!?クソ聖……っ、おい!シトラ!!」

「シルトラリア、俺は500年前も今も変わらない。貴女の為に生き、貴女の為に存在する」


ガヴェインは男へ剣を向ける。男はそれを悲痛な、まるで泣きそうな程の表情で見る。



「俺は、その場所にもう戻れないのか……?」




私は、泣きそうな男を見つめながら

獣人族を滅ぼした、かつての私の騎士の名前を呟いた。



「………ウィリアム」



男は、ウィリアムは、その言葉に嬉しそうにした。


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