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4 少年は人生が変わった


物心ついた時から、僕はお父様に暴力を振るわれていた。そのたびに「お前なんか生まれなければよかったのに」と怒鳴られ続けていた。

母親違いの兄も、僕のことはないものとして生活していた。唯一の救いは、お父様は餓死をしない程度で食事をくれることだった。


それでも量が足りなくて、どんどん痩せていく。

どうして、僕を産んだ人は、僕を連れていってくれなかったんだろうか。僕をお父様の元へ預け、どうして出ていってしまったんだろう。


先代から引き継いだ男爵の地位も、お父様とお兄様の贅沢な暮らしによって資金が底をつき、とうとう領民を捕らえ奴隷として他国へ売り始めた。

捕らえられた領民の、死んだような目を見るのは苦しかった。助けようにも、助ける力がなかった。今回の王子と公爵の女の子だって、きっとあんな風になってしまう。


そう思っているとどうやら表情に出てしまったのだろう。お父様が怒鳴り花瓶を投げつけてきた。バランスを崩して床に崩れると、そこからまた何度も何度も殴られる。


…僕は、どうして生まれてきたんだろう。


けれど、突然のドアを蹴破る音と共に、僕の人生は変わった。






「君の境遇を考えて、今回の騒動では君は何も罪に問われないでしょう」


馬車の中で、目の前のギルベルト様は僕を見つめてそう伝えた。隣にいる、シトラ様のお父様であるハリソン公爵は僕を優しい目で見つめて


「今まで辛かっただろう、安心してくれ。私とギルベルト王子が君の今後の身の安全を保証する」

「…ありがとう、ございます」


今まで優しい目で見られたこともなく、そんな言葉もかけられたことがなかったので、なんだか落ち着かない。…僕を助けてくれたシトラ・ハリソン様。幼き頃に禁忌の召喚でこの世界へやってきた女の子。彼女のことを考えるとさらに落ち着かなくなる。


僕の側にいてくれると、そう笑ってくれた。

あの時に、僕は人生が変わったんだ。


「……あの…」

僕が恐る恐る声を出すと、ギルベルト様が「どうしましたか?」と聞いてくれた。僕は一呼吸置いてから、ギルベルト様をしっかり見つめる。


「シトラ・ハリソン様とは、またお会いすることはできるでしょうか?」


その時隣の公爵は思わず立ち上がり天井に頭をぶつけた。目の前のギルベルト様も一瞬目を見開いてから、すぐに笑顔になる。


「まだ今回の件で君に聞きたいことが山ほどあるので、すぐにとはいきませんが、……事が落ち着けば、会えると思いますよ」


それを聞いて僕は嬉しくて少し顔を赤くしてしまった。


僕を救ってくれた、シトラ様にまた会うことができる。

シトラ様が言ってくださったように、側にいたい。

だから、僕はそのためにどんな事でもしよう。



僕がそう決心を決めていると、公爵は「そんな…娘に虫が…虫が…」と呟き、ギルベルト様は美しい笑顔で「待て待て待て待て待て」と言っていた。どうしたんだろう?




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



国中では、第二王子が奴隷商人を行なっていたペンシュラ男爵を捕らえたことが話題になっていた。ただ第二王子と私が捕らえられていたことがなかったことになっていることと、リアムの事情も少し変わっていた。


『男爵家次男が父が他国に奴隷を売っていることを知り、第二王子へ相談をし今回の逮捕に至った。この事件で現男爵と共謀していた長男は身分剥奪、男爵にあたっては処刑をされた』と。



「ペンシュラ家は次男が継ぐらしいからね、おそらくその際に彼を領民を救った英雄とした方が良いと父上とギルベルト王子は判断したんだろう」


父と同じ深緑の髪の、しかし少し癖っ毛がある、私より少し年上の少年。

ジェフリー・ハリソン。私の兄は男爵の記事が書かれている新聞を見ながら教えてくれた。



あの後公爵邸に戻った私は、門の前で仁王立ちしていた兄によりそれはそれはキツく説教をされた。お母様も後からやってきたが、兄とは違いとても楽しそうな顔をして「で!?誘拐犯は何発殴ったのかしら!?」と言ったので私と並んで兄に怒られた。


今日は兄の執務室に呼ばれ、誘拐事件の結果を報告されている。

男爵は正妻を追い出してまでリアムの母と添い遂げようとし、嫌がったので無理矢理手篭めにしたそうだ。そしてリアムが産まれたが囚われ衰弱していた母親はリアムを産んですぐ自らの手で亡くなってしまったらしい。


その結果を男爵は受け入れず、まだ生きているとし、リアムが生まれたことで育児に辛くなり出て行ったことにしたと。


…やはり、男爵は花瓶のかけらでちょっと刺しておけばよかったと思った。


「ペンシュラ家はリアム・ペンシュラを当主としそのまま取り潰しはしない。シトラ、お前はあの王子との夜のことはなかったことにするように、とお父様から伝言を頼まれている」

「はい、わかりましたお兄様」

「あとお父様からもう一つ。「ギルベルト王子とリアム・ペンシュラに会う際は必ず自分に報告するように」と…シトラ、何かしたのかい?」


少し困ったように兄は見てくるが、お父様はおそらく、「王子にもリアムにも迷惑かけたからこれからは気をつけてね!」っていうことなのだろう。全く、私ももう12歳なのだからその位わかっているのに。


兄は困った顔をしながら、私の頭を撫でて「あまりレディらしからぬ事はするんじゃないよ」と小言を言った。


その時控えめにノックがなり、ドアの向こうから使用人が「お嬢様にお客さまです」と伝えてくれる。


「シトラにお客?どこの家の者だ?」

「ギルベルト王子とリアム・ペンシュラ男爵です」

「え!」


兄も驚いていたが私もまさか二人が会いにくるとは思わなかったので驚いた。リアムは友達宣言をしたのでわかるが、王子も一緒とは。…自分にお客さまが来ることなんて初めてかもしれない。


「お兄様、ちょっとご挨拶とお茶とお菓子と庭の池で釣りと追いかけっこをして参ります!」

「ちょっと待て最後の方お前のやりたい事だろう!?おい!シトラ待て!!」


兄の引き止めも聞かなかったことにして、私は二人の元へ駆け出して行った。



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