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37 兄と仲直りしたい


あれから私たちは、本の内容や他の遺物を調べた。だが特にこれといって何も見つからず、結局ダニエルの手がかりも見つけられなかった。そのまま私達は地下から出て教会の廊下を歩く。……ふと、廊下に設置されているベンチに座っている姿があった。近くへ寄ると、読んでいた本を閉じ、不機嫌そうな表情を向けられる。


「終わったのか?随分時間がかかったな」

「お兄様、ずっと待っていてくださったんですか?」

「当たり前だろう」


そう、兄はカーター侯爵での件があった際、もう思い出したくもないほどにお説教をされた後、外へ出ることは取り敢えず許されるようにはなったが(また魔法を使って出ていくかもしれないので)代わりにずっとそばにいる。流石に聖女の墓周辺までは難しいのでここで待っていたのだろう。時間かかるから帰ってくれと伝えたのに、よほど私が問題児なのだろう。否定しない。


兄は立ち上がり、そのまま前を颯爽と歩いていく。……こうして無視はしないようになったけど、まだギクシャクしてるんだよなぁ〜。私とガヴェインは兄へついて歩く。


「どうせお前の事だ。転生した宰相のおおよその年齢と、ペンシュラ家の問題で年代の食い違いがあるのを疑問に思ったんだろう?」

「えっなんで知ってるんですか!?」

「そんな事、既にお前以外の奴は理解している。だから情報を集めているんだ」


淡々と話す兄の言葉に、ガヴェインの方を振り向く。ガヴェインは驚いたような表情をしているので、同じく知らなかったのだろう。よかった!ハブられているのは私だけじゃない!!そのまま公爵家の馬車へ着くと、兄は手を差し伸べる。兄の表情は暗い。こんな優しい兄をこんな風にしてしまった私はなんて罪深いのだろう。しかし兄も何か文句があるなら言ってくれてもいいのに、また雷落とされるのは嫌だが。




公爵家に戻ってからも、兄は私が部屋に戻るまで側にいた。どんだけ心配なんだと思った。もうあと半年もすれば私は成人になるんだが?精神的にも疲れてベッドで横たわると、クロエが心配そうな目で見つめている。


「お嬢様、大丈夫ですか?」

「……大丈夫だけど大丈夫じゃないかもしれない」

「それどっちですか」



……決めた。夕食後兄と話し合おう。今の状態を兄もよく思っていないはずだ。そして仲直りをするのだ!お前ならできるぞシトラ・ハリソン!兄と仲直りして悠々自適な令嬢ライフを過ごすぞシトラ・ハリソン!!そう心の中で自分を鼓舞しながら、私は「えいえいおー!」と叫ぶ。それを見ていたクロエは若干引き気味の顔をした。




___________________





妹に悪いことをしていると理解している。理解しているがそれを態度で示すことができない。俺は夕食後、部屋に戻って椅子に腰掛けため息を吐きながら、上着を脱いでベッドに放り投げる。


ガヴェインに口付けをした理由が、最善の策だった事は大司教からも教会に所属する精霊からも告げられた。……分かっている。分かっているが苛立ちを隠せなかった。

それを諭されないように妹としばらく距離を置いた途端、次の朝家にいるはずの妹がいなくなり、カーター侯爵家から連絡が来た時には、教会からやって来たガヴェインの肩を掴み、奴の移動魔法で侯爵家へ向かった。使用人に聞けば裏庭にいると伝えられたので魔法の使いすぎで疲れているガヴェインを引き摺りながら向かった。そして向かった先には、自分の息子と妹を婚約させようとしている侯爵がいた。……思い出すだけでも腹立たしい。


今日は早く寝て、流石に明日には謝罪し、兄として側にいなくては。そう思ったすぐに、控えめにドアがノックされる。


「誰だ?」

「あの、シトラです。お時間いいですか?」


まさか妹が来るとは思わず、俺は慌てて立ち上がりドアを開けた。ドアの向こうには、心配そうにこちらを上目遣いで見てくる妹がいる。思わず生唾を飲む。…いや、何をしているんだ。妹だ妹!!と心の中で唱えながら、声をかける。


「どうかしたか?今じゃないと駄目か?」

「はい!今じゃないと駄目です!」


随分と気合の入った声に驚いた。正直気乗りはしないが、自分も妹に明日話そうとしていたのだ。今でも明日でも変わりないと部屋に招き入れる。すぐに寝ようと思っていたので部屋の明かりは付けておらず、窓から溢れる月明かりが妹を照らす。妹が俺の部屋にいる。たったそれだけで、どす黒い感情が芽生えてしまう。


「で、どうかしたのかい?シトラ」


なるべく優しく声を出す。窓を見ていたシトラは、こちらに振り向く。いつも表情豊かな妹の顔はとても硬い。


「お兄様の最近の態度についてです」

「ああ……すまない、それは明日謝罪をしようと思っていた」

「いいえ、私が公爵令嬢として、ご迷惑をおかけしている事を怒っているんですよね?」


どうやら勘違いをしているらしい。妹は俺の態度は、ハリソン家の一員として迷惑をかけているから、それで怒っていると思っているのだ。……いや、確かにとんでもない問題は何度も引き起こしているが、十分に庇い切れる範囲なので気にしていない。そう伝えようとしたが、その前に妹が口を開く。


「……本当に申し訳ございませんでした。もう迷惑をかけないようにします、ちゃんと令嬢としてのマナーも身につけるし、勉強もします。……だから、だから…だから!嫌わないでくださいっ!」


最後の方は言葉を詰まらせて、目からは涙が溢れている。妹が目の前で泣いている。……まさか、俺に嫌われる事をそんなに恐れているとは思わなかった。久しぶりに見る妹の泣き顔、幼い頃は毎日俺のそばにくっついて離れず、俺を見失うと泣いていた姿に重なる。……その度に俺は、慌てて駆けつけて、俺を求める妹の泣き顔を…心臓のうるさい音を、家族である妹として可愛いと思っているからこそだと思っていた。


俺は手を伸ばし、シトラを抱きしめる。しばらく無言になってしまったが、ようやく俺は声を出した。



「……ごめん、シトラ。俺が悪かった」


シトラの肩に顔を埋めながら、俺は掠れた声で謝罪をする。されるままだったシトラも、俺の言葉を聞くと、背中に手を回しきつく抱きしめる。


「本当ですよ〜〜〜!!!わ、私も悪いですけど!お兄様だって、無視するし怒るし不機嫌だし!」

「俺を怒らせたのは、お前のやらかした問題のせいだろう?……ほら、もう泣くのはやめなさい」


少し離して、涙で顔がぐちゃぐちゃになっているシトラの目元を指で触れる。……駄目だ。もう無理だ。抑えようと思っていた気持ちに蓋ができない。……降参だ。

俺は目の前の愛おしい女性の瞳を見つめる。見つめられている事に気づいた彼女は、目を大きく開いて頬をほんのり赤く染めた。


「シトラ……俺は、お前の兄じゃない存在になりたい」

「ふぇ?」


明らかに何も分かっていなさそうな声を出すシトラの目元に、俺はそっと口付ける。

分かっていないなら分からせればいい。俺を兄としてではなく、男として思ってもらえるようになればいいのだ。彼女にそれを分からせるのには、相当な時間がかかりそうだが、それでも俺は諦めない。……そして、いつか、あの夜に涙を流して呟いた言葉を、彼女へ伝えよう。








___________________





私は目が点になりながら自分の部屋に戻ってきた。……大好きな兄に嫌われてしまうと思った途端に、幼い頃のように泣いてしまった。それでも兄は私を許してくれた。本当に優しくて大好きな兄だ。


「……兄じゃない存在って、何?」


愛おしく見つめる、美しい兄に見惚れすぎて、目元に口付けをされて吃驚しすぎて聞けずじまいだったが、どういう意味なのだろう?……駄目だ、分からない。


「またリリアーナに聞こう」


こんな時は令嬢の鏡、賢い美少女リリアーナに聞けば、前回のリアムの時のように的確な答えを教えてくれるだろう。よし、そうと決まれば明日侯爵家へ行こう。そう決心して、私は早く起きる為にも就寝の支度を始めた。


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