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29 聖女の従者


「すっっっごぉ〜〜〜〜い!!こんなの初めて見た〜〜〜!!!」

「……」


目の前には、重たそうな胸を上下に振りながら興奮する精霊の女がいる。何を見ているのかというと、俺の舌にある紋章。偶然されてしまった聖女との契約魔法の産物だ。あまりにも見てくるので気味が悪くなり舌を引っ込めると、女は惜しそうな顔をした。


「舌の紋章がこの前と変化してる。ただの契約魔法なんかじゃなくて、貴方は神に遣わされた使者の紋章を付けられているの」

「使者?」

「そう、貴方は今回で、シトラ様を通じて神と契約をした。だから貴方は、聖女と同じく神の言葉を理解し、使うこともできる。流石に聖女の力には負けるけど…獣人族特有の体の限界を超えたのも、その力により体が作り替えられたからね」


つまりは、俺はあの聖女と同じく、神の加護を受けた事になるのか?


「おそらくシトラ様が、貴方を助けたいと強く望んだのが神に届いたのかしら……けれど、貴方のものは神に愛された者の加護ではなく、神に変わって神に愛された存在を守るための加護。500年前の聖女シルトラリアにも使者の加護を持つ者が、使者となり仕えていた記録もあるわ」

「………つまりは何だ?俺はあのクソ聖女の騎士になる運命を、神から授かったわけか?」


俺の言葉には女は指をこちらに差し得意げに「その通り!」と答えた。……ふざけている。あの聖女もそうだが、神という存在も本当に頭がおかしい。


「まさか、聖女を殺そうとしていた最強部族が使者なんて!神も考えることがすごいわね〜」


全く同じ意見なので頷いた。あの聖女を守るだ?使者だ?本当にどうかしている。…確かに、確かに俺はもう、聖女を始末する事は諦めた。母親から聞いていた聖女像とあまりにもかけ離れている事もあるが、たとえかつて聖女のせいで一族が滅んだとしても、あの能天気な笑顔がそれは過去の事だと言われている気がした。……いや、本当はわかっている。あの聖女の、シトラ・ハリソンの笑顔に、俺は絆されてしまったのだと。


そんな俺の心情を知ってか知らずか、精霊の女は美しく微笑む。


「私は王弟殿下のように500年も生きていないから、過去に精霊と聖女が、獣人族へ何をしたのか、何をされたのかは文献でしか見たことがないわ。…でもね、それは過去なの。過去の出来事であって自分達の出来事ではない。だから私は、かつて私達の仲間を殺した貴方たち獣人を恨んでいない」

「……」

「だから、貴方もそれでいいんじゃない?神様も、きっと貴方に貴方の考えだけで生きてほしいんじゃないのかしら?」


俺は、その言葉に今までの付き物が落ちた気がした。







______________________________________







力の共有、それがポチの体を治すきっかけになるのでは。そう思った私はなりふり構わず彼へ口づけをした。そしてそのおかげで、ポチは熱も引いて体も自由に動かせれるようになった。よかった〜!と大喜びだった。つい2時間前までは。



「君が襲われた時に、あの獣人に深く口づけされて?それで君が間違えた呪文で契約魔法となり?力の共有までできるようになったと?……で、倒れた獣人を助けるために、お互いの舌についた紋章を合わせたと?」

「はい……」


私は今、教会の応接室の床に正座している。そして目の前には友人のギルベルト、リアム、ケイレブとリリアーナ。そして王弟であるアイザックまでいる。ちなみに兄はあの後倒れて今も家で休んでいる。全員がこちらを見ているが、目が氷のように冷めている。執務室の空気が冷たい。冷たすぎて声を出すのも恐ろしい。


私が魔法を使った後、すぐに精霊であるアイザックが察知し、ギルベルトと共に公爵家へ向かった。その際に同じく公爵家へ向かっていたリアム、ケイレブとリリーアナに出会い。一緒に来たのだという。そして自分がいるであろう部屋から兄の叫び声が聞こえたので驚いてドアを開ければ、私がポチへ口づけをしている現場だったのだ。


そしてポチの体調が回復したので、アメリアに契約魔法の効果などを確認するために。教会へ連行され今はポチの診断待ちだ。……なんでこんな事になっているのか分からないが、おそらくレディが人前であんな事をした事についてだろう。


「…あの、私があの時にした事は人命救助と言いますか」


おずおずと弁解をしてみたが、リアムがこちらを真顔で見ながら、「ふざけるなふざけるなふざけるな」と何度も呟いている姿を見て背筋が凍った。周りも見てみると、ケイレブに至っては「口づけ…」と顔が真っ青になっているし、リリアーナも何かを呟きながら頭を掻きむしっている。アイザック、そしてギルベルトはソファに座りながら禍々しいオーラを出しながら自分を見ている。…怖い、もう皆が怖すぎる。



「お待たせしましたぁ〜!獣人君の診察は終了ですよ」


豊満な胸に何故か今日も一段と美しいアメリアと、顔をほんのり赤くさせているポチが、扉を開けて応接室に入る。私は立ち上がりポチを見る。顔は赤いが血色もいいし、何よりしっかり立っている。


「ポチ〜〜〜〜〜!!!」

「うぉっ!?」


私はようやく戻ってきてくれたポチへ抱きつく。「離せ!」と嫌そうな声で暴れているが気にしない。しばらくすると暴れるのをやめたポチが、そっと私の頭に手をおいた。…よかった、治って本当によかった!私が頭をぐりぐりとポチの腹部に当てていると、ポチが真剣な声で「おい、聞け」と言ってきた。私は体を離して彼の方を見ると、今まで見たことがないようなすっきりとした表情をしている事に目を開いた。そして口を開けて自分の舌を私に見せてくる。…紋章が私についているものと異なっている。


「どうやら俺は、神からお前を守るための存在となれと言われているらしい」

「私を守る?」


すると隣にいたアメリアが自慢げに詳細を話す。後ろで冷ややかな空気を出していたメンバーも、だんだんと目を大きく開けていく。ギルベルトがハッとしたように口を開く。


「つまり、この獣人は500年前の聖女シルトラリアに仕えていた者と、同じ存在に選ばれたということですか!?」

「その通りです〜」


……私、500年前そんな人いたんだぁ。とアイザックの方を見るが、当の本人は目を開いて固まっている。その態度から見るに本当にいた存在なのだろう。記憶にないが。

ポチはアメリアの言葉が終わるとその場で跪く。驚いて変な声を出してしまう。それを聞いて笑いながら、そしてゆっくりと言葉を述べる。


「……俺の名前はガヴェイン。これからよろしくな。クソ聖女様」

「ガ、ガヴェイン……」


なんか、順当に聖女としての道を進んでいる気がする………それよりも後ろの叫び声の方がうるさかったので、考えるのをやめた。

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