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23 こんなにも憎しみが溢れるなんて!


「お兄様、私下町へ行ってケーキを食べたいです」

「使用人に買いに行かせるから、屋敷で一緒に食べよう」


「お兄様〜?、最近流行りの劇を見に行きたいのですが」

「また今度にしなさい」


「お兄様ぁ〜〜?外に出たいのですがよろしいですかぁ〜?」

「駄目だ」



とうとう私は床にへばり付き、じたばたと手足を動かす。


「なんで家の外に出れないんですか!?お兄様もなんで四六時中そばにいるんですか!?仕事は!?」


椅子に腰掛け涼しい顔をしながら本を読む兄ジェフリー。妹がここまで暴れているのに気に留めずに本に目線を向けている。あの事件があってというもの、自分のそばには必ず兄がいた。もう、朝から晩までそばにいる。流石に鬱陶しくなりお手洗いと言いながら逃げようとしたが兄は必ず見つけてくる。


「仕事はここでもできる。…お前はまた、あのような暗殺者を向けられる可能性だってある。兄として心配しているんだよ」


物凄い真っ当な正論を言われたので何も言えなくなる。兄は本を閉じ、ようやく私へ目線を向けた。妹である私ですら惚れ惚れする美しい兄。何年見ても美しいと感じてしまう兄に一瞬胸が高鳴るが、当の本人は鼻で笑ったと思えば私の頭に読んでいた本を軽く当てる。


「いて……じゃあ、お兄様も一緒にくればいいのでは…」

「俺はただの人間だ。獣人族なんて本でしか見たことのないような存在を前に、お前を守れる保証はない」


確かに、もしこの前のように突然襲われでもしたら、公爵家の次期当主である兄を危険な目に遭わせてしまうかもしれない。そうなった時を考えてしまうと、背筋がひんやりとする感覚がする。私の表情を見た兄は少し驚いていたが、困ったように笑いながら本を当てた頭を一度撫でる。


「だから、しばらくは公爵家で一緒にいよう。友人と話したいのであれば、彼らに来て貰えばいい」

「…はい」


今までの自分が恥ずかしくなり、思わず下を向いた。そのすぐに部屋のドアからノックが鳴る。私は何かと顔を見上げたが、兄の方は面白くなさそうに不貞腐れながら、「呼ばなくても来るんだよな」と独り言を呟いていた。





「では、お姉様はしばらく公爵家から出れないのですね」

「そうなんだよ〜〜すごく暇だよ〜〜」

「まぁ!なんてお可哀想なお姉様!」


リリアーナは慈悲の眼差しでこちらを見ており、その横にはお茶を優雅に飲むケイレブもいる。この二人は今日は私を観劇に誘おうとしたのだが、それが叶わないためこうして温室でお茶会をしている。ケイレブはカップから口を離すと、私の隣にいる兄に向けて目線を合わせる。


「ジェフリー、護衛の数を増やしたのか?」

「ああ、流石に家の中では狙われないとは思うけれど、王弟殿下の希望もあってね」


ケイレブが言っているのは、気配を消している護衛達のことだろう。元騎士団長だったアイザックの計らいもあり、本来ならば王族の護衛にあたる騎士団の騎士を何人か借りているのだ。私の身の回りの世話をするクロエでさえ分からないくらいに気配を消している彼らに気づくケイレブに、とても感心した。


「お姉様、外に出れるようになったら、是非我が家に遊びに来てください。なんならそのまま泊まりでも!私と女同士でたくさん語り合いましょう?」


リリアーナが可愛らしい顔をしながら手を握ってお誘いをしてくれる。か、可愛すぎる…こんなの誰でも虜になってしまう…。鼻の下を伸ばしていると、兄が握られていた手を無理矢理離す。


「リリアーナ、泊まりだなんてカーター家にご迷惑がかかってしまうから遠慮するよ」

「そんな迷惑だなんて、我が両親もお姉様の事をとても気に入っておりますのでお気になさらないでくださいませ」


リリアーナと兄の間に雷が落ちている気がする。うちの兄は母があんな感じなので、私の母親のように接してくることもある。おそらく今ジェフリーの頭の中には、名前だけ立派な私が他の家で何かしでかさないか心配なのであろう。全くもってやらかす自信があるので私も兄に賛成だ。誘惑的なお誘いだが「遊びには行くよ」と伝えるとリリアーナと、何故か聞いていたケイレブが少し不服そうな顔をする。なんでお前もなんだケイレブ。そんな時、メイドのクロエが気まずそうにこちらへやってくる。



「ご歓談中失礼致します。…その」「こんにちはシトラ様〜!あ、ジェフリー様に、カーター家御子息様に御令嬢様も、お久しぶりです〜」


その声を聞いた途端、三人の殺意に満ち溢れた眼光に息を呑む。その声の主である大司教は何も気にせずこちらへ手を振りながらやってきた。大司教、お前まさか、私では飽き足らず友人達にまでふざけた事をしていたのか!?と、最初に口を開いたのは兄だった。


「大司教殿、よくも抜け抜けとこの公爵家に来れましたね?」

「そんな怖い顔しないでくださいよ。私とてシトラ様と公爵家にはご迷惑をおかけしたと思っていますよ?やったのほぼ王弟殿下ですけど」


全くもって大司教の言う通りである。やったのほぼアイザック。というか、その事で怒っているのかみんな。なんて優しい兄と友人たちなんだ!


「シトラを怖い目に遭わせておいてよくも…」

「万死に値しますわ」

「いやだからやったの、ほぼ王弟殿下なんですけど〜?」


ケイレブとリリアーナでさえ見たこともない位に怒りをあらわにしている。あまりの嫌われ具合に大司教も慌てている。おいおい、みんな話聞いてやれよ…と思ったが、そういえば大司教にも時反省するべき所があった。それは、アイザックもそんな事はしていないと言っていたのでこの男がやったのだろう。私は立ち上がり大司教の肩を優しく叩いた。


「大司教様、私の事はご愁傷様と言いますか…でもほら、うちの御者後ろから殴ったでしょう?それはねぇ?」

「え、ええ、なんの事です?」


さらに慌てながら困った顔をしてこちらを見る。いやいや、今更そんな事言ってももうしょうがないのに。なんて罪を認めない男なんだと呆れた顔を向ける。それは兄も同じだった。


「妹を軟禁した際に、迎えに行っていた御者を後ろから殴り薬で眠らせたでしょう?おかげで1週間も目が覚めなかったんですからね」

「いやいやいや!?私はそんな事してないですって!!」

「嘘も大概に」

「本当ですって!確かにシトラ様の件は認めますが、流石に人に暴行を振るうなんて、聖女を祀る教会の人間がするわけないじゃないですかぁ!シトラ様の件だって、彼女の身の危険が迫っているから封印するためにしょうがなくした事ですし!アイザックが!!」


さっきから御者の件を認めない大司教は、とても嘘をついているようには見えない。


「…じゃあ誰が?誰がやったんですか…?」


私は独り言のように呟いた。が、その答えはすぐに分かることになる。

温室の天井の強化硝子が突然、割れたのだ。あまりの突然の事に驚いたが、次の瞬間私は腕を引っ張られ後ろで下げられる。引っ張ったのは兄だ。リリアーナもケイレブに抱かれて、そして大司教もその現場から下がっている。お茶会が繰り広げられていたテーブルには天井から落ちてくる硝子が落ちていき、まだ食べていないお菓子も硝子の餌食になっていた。まだイケるか!?ガラスが掛かっていない所があればイケるか!?

と思っていたのも束の間、そのお菓子は天井から降りてきた人物により潰される。


「あぁああああ〜〜〜〜〜〜〜!!!」


私は断末魔のような声を出して手を出したが、兄が私を後ろに隠した事によってお菓子に手が届くことは叶わなかった。よくも、よくもぉ!!!予約三ヶ月待ちの絶品クッキーを!!すごく楽しみにしていたのに!!


その人物は黒いフードを深く被っていたが、それを取り払う。獣のような鋭い紫の目。老人のような白髪に同じ色の犬のような耳が生えている。こちらを見て、私を見つけ、それはもう狂気的な笑みを向けた。


「シルトラリアァ!!!!」


憎しみと殺意が篭った叫び声。明らかに私を狙っているその人物に、私も同じくそのくらいの殺意を向け大きく叫んだ。






「クッキーに何してくれとんじゃぁあああお前ええええ!!!!!!」





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