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21 私は私なのか



今、一体何が起きたのか。

目の前の窓が割れ、そこへフードを深く被った男が剣を持って、そしてシトラの首筋に剣を刺していた。いや、刺そうとしていた。だから僕は彼女へ手を伸ばしたのだ。

それは僕が半精霊となったからできる行動だ。ただの人間であればそこまで動くことができなかったほどの、そのくらいの速度だ。なのに、彼女は僕よりも早く自分の首筋を刺そうとしている男の方へ向いていた。



「●◆▷●□▲▲」



ノイズのような言葉と共に、焼けるような閃光が襲う。思わず目を隠しそうになるが、僕は目を開けたままでその光景を見た。襲ってきた男は彼女を仕留めたと思っていた。まるで動揺していない表情のまま、男は消えた。




男は、自分が彼女を殺すことができたと思いながら消滅した。

何も痕跡を残さず、なかったことになっていた。




______________________________




自分が今、どういう意味を発したのかわからなかった。それは聞いたこともない言葉だったからだ。ただ、そうしなければならないと確信した。まるで自分の中にもう一人誰かがいるような感覚だった。


「シトラ!!!」


眩い光が収まると、リアムが私を抱きしめた。会場では叫び声や衛兵を呼ぶ声が聞こえる。リアムと私の周りを見れば、窓硝子の破片が散らばっている。…けれど、先ほどの男が見当たらない。まさかあの一瞬逃げてしまったのか?と言うことは、びっくりさせたかっただけなのか?

それよりも私を抱きしめるリアムの手が震えている方が重大だ。おそらく、自分が変な言葉を発して、変な光?を出した事に怯えているのかもしれない。私に抱きつくのはわからないが、怖くてその辺の知人に抱きつこうと思ったら私しかいなかったのかもしれない。すまんリアムよ…。

大混乱している人々を押し退けるように血相を変えたアイザックがこちらへ向かってくる。そしてそのままリアムの肩を強く掴む。


「違う!今シトラがやったのは移動魔法だ!!!」

「移動魔法?」


聞いたこともない言葉に私は素直に同じ言葉を呟いていた。それを聞いたリアムは目を開いてアイザックを見て、そして私を見る。ひどい顔をしていたが、少し安堵をしているようだった。



「シトラ!!!」「お姉様!!」


兄とギルベルト、ケイレブとリリアーナが慌てた様子でこちらへ駆けつける。その時にはリアムから離れていた私だが、こちらへやって来たリリアーナに再び強く抱きつかれた。なんか、今日よく抱きつかれる気がするな。


「お姉様お怪我はありませんか!?いきなり窓硝子が割れたと思えば、強い光が…」

「大丈夫だよ。光はすごかったけど、何故か私もリアム様も硝子に当たらないで無傷だし」

「無傷!?お前達のすぐ横の窓硝子が割れたんだぞ!?」


ケイレブが驚いてリリアーナを引っぺがして私の体とリアムの体を見るが、本当にどこも破れもせず、怪我もない事がわかると「信じられない…」と驚く。ギルベルトと兄は後ろで険しい顔をしていた。


「俺たちはお前達の横の窓硝子が突然割れて、そこから強い光が現れたまでしか分からなかった。それはおそらくこの周りで騒いでいる貴族達も同じだ」

「リアムとアイザックは起きたことを理解している様ですが、何があったのですか?」


「それは、今この場で話すことではないだろう」


遅れて現れた父と母がそう告げながら、父は私の頭を撫でた。「無事でよかった」といつもの優しい顔で言っているが、緊張感の様なものが感じ取れる。混乱する他の貴族達へは、カーター侯が、賊により閃光弾の様なものが投げられたのを見たと告げている。その言葉に貴族達は納得した様だがまだ騒ぎは収まらず、壇上にいた国王が、安全のためにも今日はこれでお開きにすることを伝えていた。


おそらく、私が何かをしたために光が出て、私を殺そうとしたのだろう男は、どこかに飛ばされただろうか。…私は今まで、あのような言葉を使った記憶はない。ならば先ほどの言葉は、閃光は、かつての私が使っていた聖女の力なのだろうか?


「シトラ、今日はもう家に帰りましょう」

「マリアンヌの言う通りだ。家に帰ろう」


母が優しく私の肩に触れる。いつもの優しい母と父が私を少しずつ冷静にさせてくれる。


「…はい」


私は自分の胸の、心臓を触る。…もしも、聖女の記憶を全て戻したとしても、私は私だ。それは変わらない。そう自分に言い聞かせる。








___________________________________________





「何なんだよクソが!!!あの女はまだ力を使えないんじゃなかったのかよ!?」


男は壁に何度も何度も拳を打ち付ける。壁には拳から出る血がこびりつき、男は暗闇に向かって怒りを露わにした。


「自分の身の危険を感じて記憶が呼び起こされたんだろうな。流石、500年前に戦況を変えた聖女というべきか」

「関心してんじゃねぇよ!!!」

「そりゃあ関心するさ、狼の獣人であるお前を翻弄させたのだから」


その声に対して男は舌打ちをしながら睨む。


「近くにいた半精霊はともかく、あのクソ女は俺の顔を完全に見ていたぞ」

「だがお前はそれでも、彼女を再び殺しに行くんだろう?」


その問いには男は暗闇に向かって乾いた笑い声を出す。



「当たり前だろう?俺達獣人族が滅んだのも、全てあの女が原因なんだからな!」



暗闇の声は、それ以上は何も答えなかった。


ようやく!やっと!獣人族を出せました!!!

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