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20 舞踏会は終盤へ


舞踏会が中盤に近づいた頃、ダンスの演奏が流れてくる。今回は王弟と自分の公表とは言ったものの、舞踏会なわけで。この注目された状態で踊るのは流石に遠慮したいので、ひっそりと会場のバルコニーに出ようとした。が、そんな私の考えはお見通しだったのか、バルコニーに出るドアの前で、とてもいい笑顔でギルベルトが待っていた。


「まさか、逃すとでも?」

「ひぇ…」


麗しの王子様に差し出される手に、私は恐る恐る手を出したが、触れる前に掴まれそのまま会場中央へ向かう。第二王子と手を繋ぎ現れた私は注目の的となった。ジロリとギルベルトの方を見ると、彼は美しい笑みを浮かべて私の腰に手を添える。そのまま音楽に合わせダンスをするのだが、流石社交場に慣れた王子、私のような人間でもそれなりに踊れるようにエスコートしている。向けられる王子スマイルが眩しすぎて目を細めてしまう。うう、もっと素敵な令嬢に変わってほしい…。


「ギルベルト様って、やっぱ王子様なんですね」

「どういう意味ですかそれ」


私の率直すぎる感想に、ギルベルトは変わらず笑みを浮かべているが、いささか口が引き攣っている。慌てて訂正しようとするが、どう言えばいいのか分からない。うーん、物語に出てくる王子様か、それはみんなの憧れでありそんな人と舞踏会でダンスを踊っている…。



「…ドキドキしちゃうかな?」

「…」



つい口に出てしまったが、絶対に間違えた気がする。不敬罪と言われてもおかしくない気がする。と冷や汗を出してしまったが、ギルベルトの方は急に下を向いてしまった。曲も終わった所なので立ち止まり、恐る恐るギルベルトの顔を覗き込むと、なんと耳まで赤くしていた。初めて見るギルベルトの赤面した顔に「んえ?」と変な声が出たのはしょうがないと思う。


「大丈夫ですか!?今お水か何かを持ってきま、うわっ!」


ダンスで私の面倒も見ながら踊ったから疲れてしまったのだろう、そう思い急いで(この会場の注目からすぐに立ち去りたい気持ちもあり)水を取りに行こうとしたが、ダンスで握られていた手を強く引かれそのまま舞台の中央から離れていく。


「ギルベルト様!どこへ行かれるんですか!」


聞いてみても無言のまま進んでいき、明らかに会場の出口へ向かおうとしている。まさか王族に対する不敬罪で牢屋に連れられているのか!?どうすれば!?



「ギルベルト様、そんな顔をしてシトラをどこへ連れて行こうと?」


出口のドアを開けようとするギルベルトの手を何処からか現れたリアムが掴む。ようやく止まったギルベルトの顔を見ると、まるで獣のような表情で、思わず変な声が出てしまった。リアムはそんなギルベルトを見ても平然としている。


「…離していただけます?」

「そんな顔をしている男を離しませんよ。鏡で見たらどうですか?」


後ろで私は何度も何度も頷いた。牢屋生活は遠慮したい。怒られるのも遠慮したい。しばらくするとギルベルトは大きくため息を吐く。表情は少し優しくなった気がする。それを見てリアムも小さくため息を吐いて、そして私に向かって微笑んだ。


「シトラ、僕とも踊ってくれる?」

「はい!喜んで!!」


今なら先ほどの失言もギルベルトとも離れてなんとかあやふやにできるかも!と勢いよくリアムの手を握り、そのまま若干引っ張るように中央へ向かった。

背筋に何か熱い目線を向けられていることには気づいたが、振り向いたら終わる気がしたので気づかないふりをした。





______________________



会場の中央で、シトラとリアムが楽しそうに踊っている。先ほどまで自分が彼女と踊っていたが、あまりにも衝撃的なことがあり今は会場の端で遠巻きに見ている。彼女と踊って心底楽しそうなリアムは、ダンスの振り付けとかこつけて密着をしている。思わず顔が引き攣った。


…先ほどのダンス中に、彼女は自分と踊るとドキドキすると、可愛らしい口と可愛らしい顔で答えた。それはもう、自分の理性をあっという間に壊す位に衝撃だった。


( ……あれは、彼女が悪いだろう。 )


二人きりになり、慌てる彼女に口づけをしたい。もっと触りたい。愛を囁きたい。それだけしか考えられなくなった。正直リアムが止めてくれなければ、危なかった。

リアムとのダンスが終わると、次にはケイレブがこちらからでも分かる位に緊張して彼女へ声をかけている。リアムは名残惜しそうだが、彼女は苦笑いをしながらケイレブの手を握った。…お前、さっきあれほどシトラと密着していたくせにまだ触れるか。と体の中に何か禍々しいものが溜まっていくが、その理由も知っているので何度目かわからないため息を吐いた。



____________________




疲れた、流石に踊りすぎて疲れた…リアムに続いてケイレブ、そして何故かリリアーナまでダンスを申し込んできたので流石に連続は体力がもたない。何か飲み物を飲もうと食事の置かれているテーブルへ向かおうとしたが、その前にリアムが冷たい飲み物を用意してくれていた。なんて気がきく男なんだ…。私はお礼を伝えて窓側へ移動し、飲み物を一気に飲む。リアムはそれを見て微笑んだ。…そういえば、彼の左目の事をずっと聞いていなかった。


「リアム様、その、左目なんですけど」


恐る恐る伝えると、リアムは左目に触れながら笑った。


「僕、母親が精霊だったみたいなんだ」

「そう、なんですか」


そうだと思っていたので特に驚かなかった。金色の瞳は精霊しか持たない。人間と精霊の間に子供ができる事例は聞いた事がないが…それよりも謎がある。目の前にいる彼はつい先日まで両目とも黒だったのだ。それが急に片方が金色になる。それが可笑しいのだ。私の表情で察したのだろうリアムは、自分の飲み物をカランと音を鳴らしながら口を開く。


「男爵邸に隠し部屋が見つかったんだ。そこは母が軟禁されていた部屋でね。…どうやら僕は、そこで母に力の封印をかけられていたらしい。母は自分の血と引き換えに封印の魔法陣を描いていたが、その魔法陣に偶然触れた僕が無意識に解術を行っていたようだ」

「封印…」

「あの先代だからね、半精霊の僕をどうするかなんて想像できたんじゃないかな」


軽く言ってくれるが、こちらは顔を歪めるしかなかった。先代は、とても父親と呼べる存在ではなかったのだから。


「お母様は、リアム様を愛していらしたんですね」


自分がどんな顔をしているか分からないが、こちらを見たリアムが目を見開いているのを見ると、あまり褒められた顔をしていないのだろう。


「…本当に、君は素直だね」


リアムが困ったように笑いながら、頭に手を乗せ撫でてくれる。その美しい笑みが、どうも懐かしい気持ちになった。まるで前にも何度か見た事があるような。…そうだ、なぜ私は、気づかなかったのだろう。


「ノアだ」

「ノア?それは」


誰だ?とおそらく付け足したかったのだろうが、その言葉をかき消すように硝子の砕ける音が目の前で響き、そして砕けた硝子が目の前に散っていく。まるで結晶のように散るそれが美しい。


「シトラ!!!」


リアムがこちらに向かって大声を出し手を出している。すると砕けた硝子に、知らない男が映り込んでいた。その男はおそらく、自分に向かっている。手には剣を持っているようだ。

おかしい、何故私はここまで冷静でいられるのかがわからない。そして周りもその男も自分よりもゆっくりと進んでいるように見える。私はゆっくりとその男のいるであろう方向へ向き、そして自分でも可笑しいくらいに冷静にその男に向かって声を出す。それは、自分でも聞いたことのないような言葉だったが、それを言うべきだと判断している。



「●◆▷●□▲▲」





目の前の光に目が逸らせなかった。


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