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14 12年前の真実



「どうしてまだ見つからないんだ!!!」


公爵家で響く怒鳴り声、怒鳴られた衛兵は肩を震わせその相手、父上であるハリソン公爵を見る。父上は三日前から行方がわからないシトラの事で衛兵を呼んだのだ。


「シトラ様の乗っていたであろう馬車は見つかりましたが…御者は重症で今も目を覚ましません。馬車があった周辺を今総出で捜索しておりますが、いまだに見つからないのです…可能性としてあげられるなら、賊に誘拐されたとし」


衛兵が全てを伝える前に父上は机を拳で強く打ちつける。そばで衛兵の伝えたいことを理解していた母上はその場で崩れ落ち顔を真っ青にしている。俺は下を向くことしかできないでいる。…どうして俺は妹を助けられなかったのかと、拳が強く握りしめていく。

暫くすると執務室のドアが開き、息を切らしたメイドが現れた。


「旦那様っ、ギルベルト王子がお越しです!」

「今はそれどころではない」

「しかし、王子はお嬢様に関しての事だと」


俺は驚いて顔を上げる。父上母上と共に王子のいる応接室へ急いで向かい、扉をノックもなしに開けるとそこにはギルベルト王子と共にケイレブ、リリアーナ、リアムも居る。……だがリアムの顔を見て、左目が金色の瞳である事に俺たちは再び驚いた。リアムは特に何も気にしていないように王子の方を見る。


「ギルベルト様、シトラに関して早く教えてください」

「…そうですね、これでシトラと親しい者と、ご家族の方は揃いました」


感情を落としたような表情と冷たい声色の王子。そして窓際にいるケイレブとリリアーナもシトラの事が心配なのだろう。リリアーナは声を押し殺して泣いており、ケイレブも妹を慰めているが表情は固い。父上が王子の方を悲痛な表情で見る。


「王子、娘の…シトラの居場所をご存知なのですか?」

「ええ、シトラ嬢は今、王弟殿下とイザーク第一王子と共にいます」

「王弟殿下!?」


俺は思わず声を出す。王弟とは12年前にシトラを召喚した張本人だからだ。今は身分も剥奪されている。そして第一王子もこの誘拐に絡んでいると王子はこちらを見つめて告げている。父上は王子の胸ぐらを掴む。王子は抵抗をせずまっすぐに父上を見つめる。


「娘を王族の争いにまた巻き込んでいるのか!?」

「ええ、そうです。彼女が聖女であるからです」

「娘は聖女召喚で呼ばれただけの私たちと同じ人間だ!!」

「いいえ、違います。彼女は聖女です」


父上が王子へ殴りかかろうとしたのを俺が後ろから止める。その反動で王子は後ろへ数歩下がるが、そのまま表情を変えずにいる。…おかしい。この王子は妹に好意を寄せていたはずだ。なのに何故ここまで平然と告げているんだ?



そのまま王子は何もなかったかのように言葉をつづけた。





「……シトラ・ハリソン。彼女こそこの国を建国した、聖女シルトラリア本人です」








________________________________





それはまだ、精霊と人間の間に明らかな亀裂があった時代。

それぞれ特徴的な能力をもつ精霊を、人間は迫害していた時代。人間に数で敵うことができず、精霊は人数を減らしていった。


精霊達は自分達の王になりうる強い存在の召喚を望み、聖女召喚の魔法を完成させた。そして別世界から来た娘が神の加護を得て召喚に答える。娘は人間であったが精霊に近い能力を持ち、人間との争いを力で終結させる。そして人間側の降伏を受け入れ、人間と精霊が幸福に暮す事のできる王国を建国した。聖女は王となり、自身の力で乾いた土地は潤い、人間と精霊はお互いを許し協力して暮らした。



「って感じで、ハリエド王国ができたんですけどね〜」


大司教が物凄い下手くそすぎる紙芝居を見せながら笑顔で伝えている。それをベッドで寝転がりながら聞いているのだが、あまりにも絵が下手くそすぎて絵が理解の邪魔をしている。アイザックは呆れたようにベッド後ろの椅子に座っている。


「わかりました。とりあえず、今まで歴史で習っていた事は、半分以上間違いだったんですね」

「そう!通常の歴史では聖女は人間側の娘で、人間と精霊が最初から友好的で協力して建国した事になっていますからね」

大司教は答えながら紙芝居の次のページをめくる。まだあるんかい!と思ったが言わないでおこう。次に出てきた絵は棒人間が真っ赤なもの噴き出している。その棒人間は王冠をしており、刺した相手はしていない。



「だが人間は聖女を裏切った。宰相であった人間の男が聖女を襲い殺しました」


笑顔のまま伝える大司教に私は何も言えずに固まった。まさか聖女が襲われて生涯を終えているとは思わなった。今まで習った歴史では病死となっていたし、大司教が話している事が真実とはにわかには信じれなかった。


「聖女は死に、その真実は捻じ曲げられ広められ、この前君たちも居た墓地に聖女は眠った。…しかし、魔法での聖女召喚以外に、魔術には一つの禁忌の術があるのです。『時間蘇生術』と呼ばれている術が」

「蘇生、?」

「ええ、それを12年前王弟殿下があの墓地で行った」


12年前、その言葉に心臓がうるさくなる。……ありえない。それは絶対にありえないのだ。私の表情を見た大司教は今までの笑顔と違う、どこかねっとりとした笑みを浮かべる。


「シトラ様、ここまで言えばわかるでしょう?」

「……そんなはずない。だって、だって私はそんな記憶」


蘇生術、その言葉をきくと目眩のようにぐらりと視界が歪んでくる。それを後ろからアイザックは支えてくれた。


「…蘇生術は、完全に成功はしなかった。途中で王の邪魔が入ったんだ。…だから記憶まで修復できなかった」


頭上から聞こえる震えた声に、肩に触れていた手がだんだんと下に、心臓部分を触れる。


「蘇生術は対象物の時間を巻き戻すような術だ。だから、幼い少女に戻った」


上を向くと、同じく上から自分を見ていたアイザックと見つめ合う。今にも泣きそうな表情で私を見る。


「シルトラリア」



そうアイザックに呼ばれた時、自分の中の何かが泣いていた。

次の更新は28日の予定です。

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