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最古の精霊、耐える《下》

頭から冷たい液体を掛けられ、そして目が開けられた時ウィリアムを見たのだが……その後から、どうにも自分の心と体が離れてしまっている様だ。


 ウィリアムの膝に跨り、破廉恥極まりない言葉を耳元で囁いたり。頬に口付けたりともう散々すぎる。心の中では羞恥心で奇声をあげているが、まっっったく!体が言うことを効かない。おい私!ウィリアムにセクハラするな!おいこらアメリアにディラン!全部マロンケーキを食べるな、私にも寄越せ!体動け!眠り魔法じゃない!もう殴って止めてくれ私を!!


 どうやらアメリアの魅了魔法を応用したらしいが、これは魅了というより操作に近い様だ。私の心の中はいつも通りだが、体は「ウィリアムちゅき!はぁと!いっぱい攻めちゃうぞっ★」みたいな感じだ。ふざけんなあの二人覚えてろよ。






 そんなこんなで現在、破廉恥極まりない寝巻きを着た私は、ウィリアムさんに濃厚な口付けを受けている。


 随分前にガヴェインにされたり、したものより濃厚。もうえげつねぇものをされている。ふーん、これが年の功ってやつかな?……こんな冷静に実況しているが、もう死にそうだ。今すぐ離れて壁に頭を打ち付け今日の記憶を抹消したい。


 だが私の体はウィリアムに応えて、あやす様に彼の美しい赤髪を撫でているのだ馬鹿かなぁ〜私は?それに反応する様に、ウィリアムは口付けたまま逞しい上半身で起き上がり、跨っていた私と位置を逆転させる。




 熱を持った金色の瞳をこちらに向け、肩で息をしながら濡れた自分の唇を親指で拭っている。倒れた事により曝け出されている私の足に、ウィリアムはゆっくりと手を這わせ撫でている。妙な歯痒さに私の体は震え、それに何を思ったのか、彼の口から吐く息は湯気が出ている。どうしたお湯が沸いたのか?と言いたいがそうではない。なんでか知らないが興奮しているらしい。


 あっこれ駄目なやつだ、食われるやつだ。15禁が18禁になるやつだ。ウィリアム〜何で火がついたんだよ私だぞぉ〜?……いやぁ、前にもこんな事あったなぁ〜。あの時はルーベンだったっけ?あの時はすぐにガヴェインが助けてくれたから良かったけど……これは誰も助けに来ないだろうなぁ、あっはははは!!………は……はは。







 キャーーーーーー!!!無理無理無理無理!!!ムーーーリ!!!




 前の世界でも、500年前でも体験していないのに!!もうちょっとこう、なんかこういいムードの蝋燭灯らせてさ!?こうお互いで愛を確かめ合ってからさ!!!あんな「……しよ?」とかもうド変態な誘い方で初体験を終わらせたくない!!

 ……よし!体と心が離れていたとしても!気合いで声を出せばイケるかもしれない、ウィリアムだって最近そういう事をしていないから、こんな色気もない女を相手してるんだ。よし、頑張って止める言葉をかけるぞ!!世界と契約した私なら出来る!私は強い!私は変態じゃない!私は貧乳だ!!


 と意気込んだ私だったが、心の前に体が行動を起こした。両手をウィリアムへ伸ばしたと思えば、彼の着ているシャツのボタンに触れた。そのまま上から順番にボタンを外していく私へ、ウィリアムは上せた様な、潤んだ目でされるままだ。


 おーいおいおい、おいおいおい。待て待ていいムードにするな。同意の上みたいな感じに持ってくな、こっちは瀕死だよ。顔面が美形でカバーされている変態マゾ精霊に、今から美味しく頂かれちゃうよ。もしくは頂いちゃうよ。


 いやまぁ確かに?確かに経験豊富そうなウィリアムさんが初めてだったら、そりゃあ初体験は最高だろうよ?でも私は公爵令嬢なのだ。傷物になったら最後、私は傷物にした相手の妻になる未来しかない。そもそも違う相手を見つける事が極めて難しくなるのだ。こんなお荷物聖女をウィリアムに押し付けるのも嫌だし、夫婦になったとしても毎日夫に殴ってくれと言われるのが嫌すぎる。っていうかおいウィリアム、お前もちょっと攻められた位で何してるんだ止めてよ。思春期な中学生男子じゃ無いんだから、今何歳だよお前は。







 そんな事を思っている間にも全てのボタンが取れて、ウィリアムの上半身露わになった。……けれど、その肌に無数にある傷跡に、私は固まる。



 鋭利なもので切られたような切り傷も、何かに抉られた様な傷も、弾痕が当たった傷まである。それまで言うことが効かなかった体も、私の心情と同じく手を止めた。……確実に、この古傷全ては500年前の戦争のものだとわかる。


それを見て苦笑したウィリアムは、自分の肌に手を当てた。


「そんな顔させるなら、やはり見せるものじゃなかったな」


 あの戦争で、彼は一度だって私に治癒魔法をかけさせてくれなかった。深い傷はないと言っていたし、いつも鎧が返り血に濡れていたから、ウィリアムの言葉を信じていた。……そんな訳ないのに、もっと考えればそれが嘘だと分かったのに。


 それほど500年前の戦争は過酷だったのだ。なのにウィリアムは今でも残る傷を隠していた……それを見たあの時の私が、きっと正気を保てないのを分かっていたんだろう。私の中でウィリアムは、今も昔も最強の精霊で、最も頼れる存在なのだ。彼は私の理想を崩さないように、心を保てる様にしてくれていたんだ。



 苦笑して私を見つめていたウィリアムが、暫くすると目を開いて驚いている。一体どうしたのだろう?……だが、ウィリアムの姿がだんだん滲んできた事で、自分がどうやら泣いているらしい事を悟った。そのまま滲んだウィリアムは、顔を近づけ目元に口付けを落とした。


「もう痛くない。それにこれは精霊と、貴女を守った勲章だ。……だから、泣かないでほしい」


 やっぱり泣いていたか。体と心の態度が同じという事は、ひょっとすると魔法薬の効果が薄れてきたのかもしれない。そう思い恐る恐る口を動かそうとすれば、体は言う事をきいてくれている。


 ようやく体が言う事をきいてくれているので、私は止まらない涙を必死に堪えて、そして目の前の優しい精霊に、今できる精一杯の笑顔を見せた。



「……生きててくれて、ありがとう」



 本当に、彼が死なないでくれてよかった。私の側にいてくれてよかった。心からそう思い、そして口に出して彼へ伝える。




 涙を堪えたお陰で、ようやく見えたウィリアムの表情は……まるで少年の様に笑っていた。そのまま甘えるように顔を胸に擦り寄せて、彼は呟く様に声を出す。






「貴女と出会えて、俺は本当に幸運だ」





 



 そう言ってくれるのが嬉しくて、私は愛おしくウィリアムを見ながら、彼のズボンのチャックに手を掛け……あっれれ〜〜〜??体が勝手に動くなぁ〜〜〜???可笑しいなぁ今まで大丈夫だったんだけどなぁ〜〜〜???


 ただ、動いているのは手だけで、羞恥心で赤くなる頬や、口も足も動く。何故手だけこうなっているのか分からないが、声が出せるのは不幸中の幸い、本当に有難い。私はウィリアムへ殴ってでも自分を止めるように伝える為にも、目の前の彼を見た。




「ごっ、ごめんウィリアム!!手が言う事きかなくて!殴ってでも止めて欲し」

「ディラン達から伝えられた、この魔法薬の効果は覚えているか?」





 上から被せられたウィリアムの言葉に、私は今聞く事なのかと疑問になりながらも記憶を辿った。……えっと、確か最初に見た相手を愛する様になり、()()()()()()()()()()()()()様にな……………………。




 私が理解した事が、表情で分かったのだろう。


 すっかり涙も引っ込み、鮮明な姿のウィリアムは、今まで見た事がない程にとびっきりの笑顔を向けた。しかし今は、この笑顔が悪魔の様に見えてしまう。





「安心しろ、流石に最後まではしない」

「バッッッッキャローーーーーー!!!!!」












 翌日、昨夜はお楽しみだったのだから、体に優しいスープでも作ろうかと考えながら出勤した使用人は、壊滅状態の勤めている屋敷を見て、心臓発作になりかけた。

 屋敷にいるであろう二人の安否を確かめようと慌てて中へ入ると、なんとか原型を保つ階段から降りてくる屋敷の主人と、その主人に抱かれながら大暴れしている女性が目に飛び込んできた。二人とも服は破け、まぁなんとか肝心な所だけは隠れていたが、ほぼ全裸の様なものだった。


「もう体も全部動かせる様になった!だからこれ以上荒治療しなくていいって言ってるじゃん!!!」

「何度も言ってるが、昨夜の口付けも、攻め立てようとしたのも俺が貴女を愛しているからだと」

「この聖女狂信者!!!」

「だから聖女だからではなく貴女だからだと言っ」

「聖女の心を弄んで楽しいか!?そんなにも世界の力がほしいのか!?」

「全く話を聞かないな貴女は!?」





 ……主人が愛を伝えているが、全く信じてもらえていない。思わず主人の気持ちは真実だと伝えたいが、部外者が首を突っ込む所ではないし、突っ込みたくない。


 だがこれでは主人が可哀想すぎる。……そうだ、主人が女性の為に育てている中庭の百合の花畑。今日はそこで朝食を取ってもらおう。流石にそれを見れば、少しは主人の気持ちに気づくだろう……多分。




 使用人は、二人に聞こえない様に小さくため息を吐いた。





この後の話が「その後の話」の方に続くような形です。

ちなみに壊滅状態の屋敷は、シトラが責任を持って直しました。

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