51 俺のもの
私の素晴らしい作戦により世界さんは私と契約をし、その力でゲドナ国の呪いを解いた。まさかアルヴィラリア様とアイザックが、私を犠牲にしない為に別の作戦を立てているとは思わなかった。命大切にしなさいよ全く。
多分、世界さんというかゼウスは寂しかったのだろう。「一緒にいよう(はぁと)」と言ったら攻撃していたのを辞めて擦り寄ってきた。確かに世界の定めを作る存在だし、変な時空から手を大量に出してくるだけで顔ないし。ずっと一人だったんだろう。私が対価になったとしても、こんな感じで仲良くやって行けたかもしれない。対価にはならないが。
呪いから開放されたゲドナ国王だったが、数ヶ月間もの間寝たきりだったので、体力がかなり落ちていた。流石にこのまま公務を行う事ができず、国王を引退し新たにルーベンが王となる事になった。今日はそのお祝いでゲドナ城で舞踏会が行われている。
急遽行われる事になった舞踏会は旅行最終日で、招待をされたが私も含め仲間達皆ドレスを持っておらず丁寧に断ると、ルーベンとマチルダは笑顔で翌日全員分の衣装を用意してきた。日本人らしく小柄な私でもサイズがぴったりで、どうやって用意したのか知りたいが怖くて聞けない。あと何で私のドレスだけ、ゲドナ王族専用の色である琥珀色なのか教えてほしい。
そんなルーベンだが、絶賛今は兄と仲睦まじく会話をしている。
施設から宿に帰った私達を迎える様に待っていた兄とケイレブは、私とルーベンが新聞の一面になっている事、そして何も伝えずにゲドナ国へ行った事を説教した。……説教の怒声に驚いて、時空の裂け目からゼウスが現れてしまい、二時間で終わる予定だった説教が四時間になったのは最悪だった。
遠くから聞こえるがルーベンは兄を「義兄上」と呼んでいるし、あの短時間でそんな仲良くなったのかと感心した。隣で見ていたケイレブとリリアーナ、リアムは引き攣った表情を向けながら「必死に怒りを抑えている」と言っている。おそらくこんなしょーもない妹が、あんな素晴らしいルーベンと新聞の一面に載ってしまい、私に対する怒りが積もっているのだろう。今日は兄から離れて過ごそう。
喉が渇いた私は、そのまま友人達から離れて飲み物を取りに行く途中、令嬢夫人達に囲まれているアイザックを見つけた。ハリエド国よりゲドナ国はやや強気な女性が多いのか、ハリエドの王族の証である、深紅色の正装をした絶世の美男アイザックに食い気味で話しかけている。流石に彼もここまでの状態は初めてなのか、愛想よく笑っている口元が引き攣っている。私は慌てて何度か飛び跳ねながら叫んだ。
「アイザック様!!!」
私の声が届いたのか、アイザックは直ぐにこちらを見た。そして令嬢達に断りの言葉を伝えながら掻き分け私のそばへ向かってきた。令嬢達も流石に、有名なハリエドの建国の聖女に何も言えないのか、悔しそうな表情を浮かべながら散っていった。名前売れててよかったぁ。
私は目の前までやってきたアイザックを見た。
「流石アイザック様、すごい人気ですね」
「いえ……助かりましたシトラ様。あのままだと、流石に俺も顔に出そうでした」
そう疲れた表情を見せる私の家族に、昨日の夜ずっと考えた事を伝えようと、彼の手に触れた。いきなり触れられた事に驚いているのか、やや頬を赤く染めながら首を傾げている。
「シ、シトラ様?」
「……アイザック様、予言の神になったという事は、不老不死になったんですね?」
「………ああ……そう、ですね」
歯切れ悪く声を出す彼に、私は目線を下に向けた。
アルヴィラリア様が私の代わりに対価となる計画で、新たな予言の神としてアイザックが選ばれ力を譲渡されたと聞いた。この世界の神は、死ぬ事がなく不老不死だ。神の資格の譲渡もそう簡単にできる事ではなく、長年予言の神だったアルヴィラリア様だって500年もかかったのだ。アイザックがその境地まで行くには、精霊の寿命よりも途方もない時間が必要になるらしい。
……私を助ける為に、アイザックがそんな事になってしまった。私だって聖女だが人間だ。そんなに長く生きる事ができない。私は決心した様に触れた手を両手で掴み、まっすぐアイザックを見つめた。
「アイザック様!私が死んだ時、私を魔物にしてくれませんか?」
「えっ!?」
驚いて目を大きく開くアイザックに、私は顔をできる限り近づけて話を続けた。
「魔物なら、永遠に一緒にいられる。アイザック様を寂しくさせる事がないと思いまして。魔物化は死んだ時に神に願えば可能だって、猫のおっさんが言ってましたし!!」
「………」
「こんなしょーもない女ですが愉快ではあります!私を助けてくれようとしたアイザック様がこんな事になったんです、責任を取らせてください!!」
アイザックが予言の神の力を譲渡できる様になったら、私も始末してもらおう。二回も私を刺したのだ、三回目もやってくれるだろう多分。
そう思っていると、突然アイザックが腰を掴み抱き寄せてきた。どうしたのだろうと彼の顔を見上げようとしたが、同じくこちらを見ている彼と鼻がぶつかる。それほど顔が近づいている事に驚き、そしてあまりの顔面の破壊力に狼狽えていると、アイザックは気にせず口を開いた。
「……将来、俺のものになるって事?」
「うぉ、え?」
「だって、魔物になって永遠の命を得てまで側にいるって、そういう事だろ?」
「…………うん?」
えっ、どういう事だ?私は物ではないが?そう言いたかったが、目の前のアイザックは真剣そのもので。私はない頭で自分の吐いた言葉の意味を考えた。……責任を取って、側にいるって事だもんなぁ?
「………そう、かも?」
思わず首を傾げながら言ってしまった。そんな私を再び目を開き見つめているアイザックだったが、次第に目は潤み始め、どこか熱っぽいものに変わっていった。そんなに嫌か私がずっと側にいるのは!?と睨もうとしたが、その前に体が更に密着してくるものだから、それは悲鳴に変わった。
「ちょちょ待って!!めっちゃ人に見られてるから!?」
周りは聖女と王弟が抱き合っている姿を驚いて見ており、恥ずかしくて顔が赤くなる。だがそんな周りもお構いなしで密着しているアイザックは、何故か鼻を啜っている。風邪か?そのまま大きく深呼吸をする彼は、声を張り上げた。
「やっっっっと!!俺のものになるって言ってくれた!!!」
「いや物じゃないんだが」
「うん、今はそれでいいよ。将来魔物になってから、俺のものだって覚えていこうね」
「いや物じゃないんだって」
「君が俺のものになるまで、あと70年後くらいかな?楽しみだなぁ」
「聞いてないなこれ!?」
話を聞かず嬉しそうに声を出すアイザックの腕の中で暴れていると、すぐ側で誰かのため息が聞こえた。こんな顔面が鋭利な男に抱かれて、未婚の男女がそんな事をして、もしやどなたかにご迷惑をおかけしているだろうか?アイザックから力づくで体を引き離すと、そこにはアイザックと同じく、真紅色の正装を身にまとうイザークがいた。
「何してるんですかぁ?ハリエドの代表なんですから、二人ともしっかりしてくださいよ〜」
最近、イザークは人目が無ければダニエルの性格。有ればイザークの性格と分けている。今はイザークの性格なのか、大司教の時と同じ癖のある声を出している。アイザックは離した体を再び密着させて、イザークへ笑顔を向けた。
「シトラが俺のものになるって!!」
「………はぁ?」
あっこの声はダニエルだ。懐かしいなぁ、よく怒られる前に、こんな感じで声を出していたなぁ。…………怒られる?
「………ちょっと、二人とも来てくれるか?」
「ヒョエ」
目の前のイザークの氷の様な表情に、私は段々顔が真っ青になっていく。
そのまま私とアイザックは、別室でイザークによる説教を受ける事になった。
兄よりも優しめだが、言葉の一つ一つが抉ってくる感じ………やっぱりダニエルだ!!
って思わず笑顔になったらもっと説教された。