49 世界と共に
キルアの日記を見た時、とりあえず死にたくないので、このページだけ燃やしてやろうと思った。ただ既に見ているであろう国王に気づかれる可能性と、流石にかつての友の国を見捨てる訳には行かないと考え直す。自分が死なない方法で、かつ皆をいい感じに助けれる事はできないだろうか?
キルアは悪くない。悪いのは聖女の癖に自己犠牲を嫌がる私だ。普通なら「私の魂で!皆が助かるなら!」って感じかもしれないがふざけんな誰が他人のために死んでやるか。とか思ってるので、何故私は聖女になっているのか分からない。おもしれー女って事だろうか?
その時、日記の内容を見て、ある疑問が浮かんだ。……あれ、世界の定めを変える程の力持つ?
………これ私の力で、世界ぶっ飛ばせるんじゃね?
「あっはっはっは!!!抜かったな世界!私が命を軽々しく捨てる女だと思うなよ!?か弱い聖女やってたら戦争に勝ってないんじゃバーーーーカ!!!アーーーホ!!!」
無数の手に向かって嘲笑う様に叫ぶ私に、全員呆然と見つめている。
予想通り魔術を唱えたら、簡単にこの世界さん?が現れた。私は世界さんの手の一つに短剣を刺す。血こそ出ないが、痛覚はあるのか他の手がジタバタと暴れている。手の一つに刺さった剣を抜こうとしている様だが、どれだけ暴れても抜けない様だ。私はそのまま更に短剣を刺して、世界さんへ顔を近づけた。世界に向かって高圧的な表情を向ける私は、聖女でもなくおもしれー女でもなく。もうクズだ。
「抜けないよねぇ〜〜?痛いよねぇ〜〜〜?世界さんのお陰で返しそびれたこの短剣、かつての戦いの神の聖女が、恋人が浮気したのを恨んで神に願い得た短剣でねぇ?一度刺せば世界さんか私が死ぬまで刺さりっぱなしの呪いの短剣なんだぁ。昨日封印解いておいてよかったぁ」
その言葉に、呆然とこちらを見ていたアメリアが意識を戻した。
「封印を解いた!?チョーカーで魔法を封印されているのにどうやって!?」
「昨日上級魔法たくさん唱えて、キャパオーバーで壊した」
「嘘でしょおおおおおおおお!!??」
私はアメリアに向けて、付けていたチョーカーを外して見せた。彼女はようやく真実だと分かったのか、地面に座り混んで「馬鹿魔力うううう」と項垂れている。……結構簡単に取れた事、言わないでおこう。
アメリアの声によって、呆然としていた他の仲間達も意識を取り戻したらしい。今度はディランが慌ててこちらを見た。
「まま待て待て待て!!世界を刺してどうするんだ!?世界はそんな攻撃で消え………世界って消していいのか!?」
「………いや、駄目だろう」
「珍しく意見が合ったなウィリアム!!」
ウィリアムは眉間に皺を寄せながら、呆れた表情で此方を見ている。全くこの精霊二人は、私がそこまで計画性のない人間だと思っているのだろうか?馬鹿にされたものだと、私は保護者×2に向かって鼻で笑った。
「殺しはしない!私は世界さんと契約するの!!」
そう!私の持つ、世界を定めを変えるほどの魔力量で、世界さんと契約するのだ!契約すればお互いの力を共有する事ができる、つまり!世界の理を変える事も共有出来るっていう寸法よ!!頭いい!!ま、私が寿命で死んだら世界さんも死んでしまうが、その時はまた考えればいい。未来の私に託した。
「私の魂は対価にすれば世界の定めを変えられるほどの力がある!ということは!私は世界さんと同じかそれ以上の魔力量がある!世界と契約する事は十分可能なはず!!」
世界と契約したら、世界も操れる聖女なんて化け物でしかないので、国から出て旅にでも出ようと計画している。皆に会えないのはさみしいが、変な人体実験されたり益々人から拝まれる様になるのは御免だし、あと普通に旅に出たい。だがこの計画をまさかアイザックに勘付かれているとは思わなかった。離れたくなくて泣かせてしまったし、アイザックも連れて行こうかな?いや無理か王弟だしなぁ。
周りに説明していたのが聞こえていたのだろう。時空の割れ目から止めるように更に手が現れ、私の体を引き離そうとしている。あまりの数の手の波に、思わず刺した短剣から手を離しそうになるが、離してしまえば逃げてしまうので必死に掴んだ。「うごごごごご」ともはや淑女ではない奇声をあげながら掴んでいると、後ろから助けるように私の背中を支える人物が現れた。
思わず後ろを見ると、そこには険しい表情を浮かべるアイザックがいた。
「アイザック!!!」
「ったく君は!!なんて事考えるんだよ!!!」
怒声を浴びせられ思わず肩をすくませるが……というか聖人のルーベンでさえ、凄まじいほどの魔力の圧迫で座り込んだままなのに、まさかアイザックがここまで来れるとは思わず驚いてしまう。
だがまた、私の背中を支える感触が増えた。アイザックといい、一体誰がこの魔法陣へ入る事が出来たのだと見れば。
……そこにはメイド服を着た、久しぶりに出会う女性がいた。
「え!?クロエ!?」
金の髪と瞳の、美しい女性。……私の知っているクロエとは違うが、私は彼女がクロエだと分かる。500年前私に加護を与えた予言の神は、大きくため息を吐いて苦笑した。
「本当にお嬢様は、お馬鹿さんなんだから」
苦笑しても美しい彼女は、剣を持つ手に手をそえた。
そのまま二人に背中を支えてもらいながら、私は押し寄せる手を払い除けながら、刺した短剣を掴んでそのまま手ごと引き寄せる。
胸の中に包み込んだその手に、私は自分の手を絡ませる。その時一瞬、世界の手が恥ずかしそうに震えた。
私は、そんなちょっと可愛く見えてきた世界の薬指に、小さく音が鳴る口付けを落とす。
「……一緒に、生きようよ」
世界へ笑顔を向けながら、私は契約魔法を唱えた。