恋心
「リラ! リラ! しっかりしろ!」
リラを抱えながらミカエルは叫ぶ。
――ミカエル様の呼ぶ声が聞こえる……。
リラが目を覚ますとベッドに寝かされていた。紺色のベッドに紺色の家具。全体的に紺色で統一されたシンプルな部屋にいる。
辺りを見渡しているとミカエルがやって来た。
「気がついたか?」
ミカエルは安心した様子で安堵のため息をもらす。
「ミカエル様……私?」
「倒れたんだ。疲れが出たのかもしれないな」
「はい……」
――興奮しすぎもありそう……。
「ミカエル様、ごめんなさい」
「何がだ?」
「心配かけて……」
リラは掛け布団をギュッと掴みうつむく。ミカエルは優しく微笑むとリラの入っているベッドに腰掛けた。
「心配するのは当然だろ?」
「え?」
「私は君が好きなんだ。心配するのは私の役目。決して迷惑ではないし、むしろ私の特権だと思うが、心配されるのは嫌か?」
「いいえ。嬉しいです」
「そうか。それなら良かった」
ミカエルは微笑みながらリラの頭をゆっくりとなで、ふわりと抱きしめた。
――ミカエル様。また舞い上がりそう……。
体調が回復したリラはミカエルに家まで送ってもらった。ミカエルが帰ると入れ違いで玄関の前にアランが現れた。
「リラ!」
「どうしたの?」
「倒れたって聞いて……」
「あ〜……うん。そうなんだよね……」
「大丈夫かよ?」
とても心配そうな瞳をしている。
「うん、大丈夫。疲れが出たみたい」
「まあ、大変だったもんな」
「ところでジルはどうなったの?」
「ああ……悪魔に洗脳されてたからお咎とがめなしだって」
「そっかぁ……良かったー! ジル落ち込んでたし、天使取り消しになったら大変だもんね」
「ああ。なあ、リラ」
真面目な顔をしてアランはリラを見つめる。
「ん?」
「お前さ、ミカエル様のこと……本気なのか?」
「え? うん」
リラは頬を赤く染める。一瞬だけアランの瞳に哀しみの色がちらついたが、リラは気付かない。
「そっか。幸せになれよ」
「ありがとう! アラン!」
リラは最高の笑みをアランに向けた。
“ミカエル様が相手じゃ敵わねーよ”とアランは密かにつぶやいた。
あの日、何が起きたのか。
ジルは皆と別れた後、1人塔の中へ入って行った。職人に用があり会いに行く所だった。誰もいない通路。突然頭が痛くなる。
「うっ!」
「この声が聞こえるか?」
何者か分からない声が頭の中に響き渡る。
「くっ!」
「お前は今から言うことを聞くんだ」
「誰……だ?」
「知る必要はない。これからお前は卵を盗み捨てるんだ」
「嫌だ……出来……ない」
ジルは頭を押さえ必死に抵抗する。
「聞け!」
「くっ!あああ!」
頭が更にキリキリと締め付けられる。
ジルは抵抗する力がなくなり、洗脳されてしまった。
「……分かりました」
「では、これから部屋へ移動させる」
ジルは謎の人物により卵のある部屋へ瞬間移動させられた。
「卵を3つ持て」
「……はい」
うつろな瞳のジルは、言われるままに卵を3つ抱える。
「よし。これを今から指示する場所へ捨てろ」
「はい」
そうしてジルは洗脳されたまま卵を盗み、外の扉から出て瞬間移動させられ、日本列島と魔界に捨ててしまった。
彼に指示したのは魔界の魔法使いだった。
全ては部屋の中と外の扉から出てしまった為、見張りは何も気づかなかった。