少年
「え? 今の何?」
光った方へ視線を向けると一軒の家がある。2階建ての家へゆっくり近づいて行くと、2階の部屋の窓から少年が見えた。
少年は一人で部屋にいて卵を見つめ、嬉しそうに笑っている。
リラは窓へ近づきコンコンとノックをする。少年は一瞬驚いた様子を見せたものの、次の瞬間窓へ駆け寄ってくる。
「天使!」
「しーっ!」
リラは人差し指を自分の口へ当て、少年に静かにしてもらう。
「何で? どうして天使が? 凄い! ボク、ずっと天使に会いたかったんだ!」
静かにするのは無理なようだが、声は抑えてくれている。
「ねぇ、君私が見えるの?」
「うん!」
――普通の人間には見えないんだけど……。やっぱり子供だから?
「あのね……その卵素敵ね。どうしたの?」
「うん! 拾ったんだ!」
「拾った?」
「そう。あそこの海の砂浜に落ちてたんだ! 危なかったんだよ。もう少しでカラスがもって行く所だったんだ!」
少年は砂浜を指差して話してくれた。
「そう! 助けてあげたんだね!」
「うん!」
すごいでしょ?と言いたげに少年は胸を張る。
「ありがとう! それね、天界の落とし物なの」
「え?!」
少年の顔に動揺が広がる。
「だから、返してもらえるかな?」
「イヤだ!」
「え?」
「これはボクが拾ったんだ! だから、ボクのだ!」
少年は離すまいと卵をギュッと抱きしめる。
「……そんなに気に入ったの?」
「うん!」
「分かったわ」
リラはひとまず天界へ帰る。天界にいる職人。あらゆるモノを作り出せる。天界のモノ、人間界のモノ、本物そっくりのレプリカ。見分けることは難しい。
天界にそびえ立つ塔の中に職人はいる。リラは職人のいる階まで飛んで会いに行った。
「すみませーん!」
「はい?」
宙に浮かんでいると中からメガネをかけ、茶色いエプロンを着けた、ひょろリと背の高い焦げ茶色の短髪の男性が出て来た。
「突然すみません、私天使のリラなんですけど、今地上に無くなった卵を探しに行っているんです。少年が持っていたんですけど、卵を気に入ってしまって返したくないと言うんです。だから、あの卵と同じようなモノを作れませんか?」
「良いですよ」
「本当ですか?」
「お安い御用です」と彼は笑った。
「ありがとうございます! どの位の時間がかかりそうですか?」
「そうですね……2、3時間ですね」
「早いですね! ありがとうございます!」
リラは待っている間、塔から見えるビーチを眺めていた。太陽はないけれど、天界にある太陽に似た光が天界を照らしている。海水は透き通ったエメラルドグリーンだ。砂浜は白く海水のエメラルドグリーンが美しく映えている。
――はぁ……綺麗。
天界はあらゆる所全てに創造主の光が届いている為、地上の数百倍も輝いていて美しく見える。温かく爽やかな風が吹いている。
あっという間にレプリカは完成し、リラは少年の元へ持って行く。再び窓をノックする。少し日が沈みかけて薄暗くなり始めている。
「あ、天使!」
「ごめんね、何回も」
「ううん。あ、それ」
少年はリラの抱えている卵を指す。
「そう。そっくりでしょ?」
「うん!」
「これと交換してくれる?」
「うん! 良いよ!」
「ありがとう!」
リラはホッとしながら少年にお礼を告げた。リラが翼を広げ飛び立とうとした時、機器に連絡が入った。アランからだ。