卵のゆくえ
翌日、ジルとアランにそのことを話した。
「良かったね。リラ」
「うん! ありがとう、ジル!」
“ヘヘへ”と照れ笑いをしていると、アランは不機嫌そうに眉をしかめている。
「どうしたの? アラン」
「別に」
「試験の結果、良くなかったの?」
「違うよ! ちょっとミカエル様と話したからって、浮かれてんなよ!」
「何よ! あ!」
アランは講義室から出ていってしまう。
「もう! 何よ、あれ」
「うーん……多分、ヤキモチ」
「え?……アランもミカエル様と話したかったのかな?」
「え?」
ジルは目を丸くしている。
「え? 何、ジル?」
「ううん、何でも……」
「まったく、素直じゃないんだから」
“しょうがないわね“という空気を出しているリラをジルは、“しょうがないと言いたいのはこっちだよ“と言いたげな瞳で見つめていた。
アランとリラは大天使ウリエルと共に天界のゲートに行き、地上へ向かう。天界の白いゲートをくぐるといわゆる天国があり、そのずっと下の方に地上がある。
「リラは日本列島の上半分を、アランは下半分を、頼めるな」
「はい!」
2人は返事をする。
天界から預かった手のひらサイズの四角い小型の通信機器で、卵の場所を探す。卵は天界のエネルギーを発している。機器に日本列島の映像が映し出され、エネルギーを発している場所を点滅させて知らせてくれる。
リラとアランは別れて探し始める。
リラは早速地上へ下りて行き、雲の上から機器を使ってみる。すると、点滅している所があった。
“Kamakura”と文字が出ている。
「Kamakura?」
リラは首を傾げながら点滅している方向へ向かう。場所は大まかにしか分からないため、地上へ下りてからは手当たり次第になる。
まず、山へ行き立派な黒い翼をつけた天狗に会った。
「すみませーん! この辺りで虹色の卵、見ませんでした?」
「いいや、天界の者か? 珍しいな。悪いな……この辺りにはないはずだ。そなたのようなエネルギーは感じないからな」
天狗は漆黒の髪と瞳を持つ端正な顔をしていた。しかも若い。
「そうですか? ありがとうございます!」
天狗は黒い翼を広げ、飛び去る。
――地上に来たばかりだもんね。簡単には見つからないよ。さぁ、次へ行こう!
次にリラは海へ近づいてみる。穏やかな波に人間界独特の海の香り。天界に潮の香りはないから新鮮だ。おまけに海風が強くて飛ばされそうになるから、しっかり羽ばたかないと浮いていられない。
そこへ人魚の少女が現れた。人魚は薄茶色の髪に白い肌、とてもチャーミングだ。
「こんにちはー!」
リラは人魚に声をかける。
「こんにちは! 天使さん!」
――わっ、可愛い!
「この辺りで虹色の卵を見ませんでしたか?」
「ごめんなさい! 見てないわ!」
申し訳なさそうに人魚は肩をすくめる。
「そうですか……分かりました。ありがとうございます!」
「どういたしまして!」
人魚はくるんと回転して海の中へ戻って行く。ぱしゃんと水しぶきをあげて気持ちの良い音が耳に残った。
――う〜ん……どうしよう、あとは……。
その時、リラの瞳に一瞬虹色に光る何かが映った。